第22話「新年」
年が明けた。早いもので高校生になってから八ヶ月が過ぎてしまったが、まだ高校一年生という事もあり、ぼんやりと来年以降の事を想像したりしながらも、例年と変わらない年越しだった。
大晦日、お父さん、お母さんとテレビを見ていた私は年が明ける数分前にギブアップしてしまい、ベッドの上で年を越した。現時刻は零時十二分。何故ギブアップした私がまだ起きているかと言うと、
夜娃華『それで結局、明日は時間が空いている、という事でいいいのかしら?』
夕花『うん。うちは初詣とか行かないから、明日は寝正月する以外に過ごし方が無かったし』
年が変わった直後に夜娃華からメッセージが届き、明日の予定について尋ねられたからだ。眠気の所為で若干話が迷走したから少し時間が掛かってしまった。
夜娃華『なら、明日はいつもの駅で午前十時に集合。時間厳守で』
夕花『了解(スタンプを送信しました)』
夜娃華『……』
夕花『坂口さん、どうしたの?』
夜娃華『……前々から言おうかどうしようか迷っていたのだけど』
夕花『うん?』
夜娃華『そのスタンプのイラスト、美的センスが致命的だと思うの』
夕花『マ ジ で?』
夜娃華『それと、動揺した時の文章もおかしいから、気をつけた方がいいと思うわ』
夕花『今後は気をつけます……』
カモシカスタンプ、可愛いと思うんだけどなぁ……。
夜娃華『それじゃあ、また明日会いましょう』
夕花『うん。また明日』
夜娃華『ああ、そうだ。忘れるところだったわ』
夕花『?』
夜娃華『夕花、明けましておめでとう。今年もよろしくお願いするわ』
「あっ」
夜娃華のメッセージを見て、私は直ぐに返信する。
夕花『明けましておめでとう! 今年もよろしく!』
夜娃華『ええ。おやすみなさい』
夕花『おやすみー』
アプリの画面を消し、暗い天井を見る。
「今年もよろしく、か」
思えば、去年は色々な事があった。というか、あり過ぎた。
線路に飛び降りた夜娃華を助けたら、友達になろうと言われて困惑したし、夜の旧校舎に忍び込んだり、二人で海にも行った。それだけじゃなく、夜娃華と一緒に本当に色々な体験をした一年だった。この一年の濃密さは、今までの人生全てに匹敵するくらいだと思う。
同時に、色んな迷いがあった年でもある。
「夜娃華……」
口に出して呼んでみる。一人なら別に問題無く言える。けれど、目の前に夜娃華が居ると今でも名前呼びが出来なくて、坂口さんと言ってしまう。
私は夜娃華のことをどう思っているのだろう。
友達。それは確か。今となっては親友とも言えるかもしれない。
「それが正解……だよね」
この気持ちがどういうものなのか、分からない。私には今まで親しい友人なんていなかったから、感覚が掴めない。
夜娃華は私に対して「よく見える眼をしている」と言う。色んな事をちゃんと見れる眼をしていると。
けれど私には一つだけ、どうしても見えないものがある。自分の気持ちだ。
「そんなの、見える訳無いよね……」
眠気が襲ってくる。ボンヤリした頭で、今までの事を考える。夜娃華のこと、“向こう側”のこと、私のこと。私は夜娃華とどうしたいのか、この気持ちは――ってことなのか。
「分からないよ……」
重くなった瞼で視界が遮られ、暗闇の中、壁の時計の音が妙に大きく聞こえた。それは子守歌のようにも聞こえ、もしくは、何処かへと誘うような、奇妙な音色にも聞こえた。
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