第6話「入り口」
「光が……」
「ここで消えるのね。でも、“入り口”は見つけたわ」
灯りが消え、私たちが辿り着いたのは校舎東側の一階から二階に上がる階段、その横に、地下室への入り口があった。
「さっきはこんな場所に扉何て無かったのに……」
「見て、夕花」
躊躇せず扉へ近づいた夜娃華は興味深いものを見つけたかのように言った。夜娃華が見て、と言っているのはドアノブのようだ。一見普通のドアノブだが。
「見てって――あっ、鍵が逆になってる」
「正解」
そのドアノブには鍵穴が無く、代わりにサムターンがあった。
「つまり、この中に入ってしまった人は、鍵を掛けられると、鍵を持っていなければ内側から開ける事が出来ないのよ。これって、あの噂と同じ状況を再現するのにもってこいだと思わない?」
「中に入った人を、出さないようにする為のもの……」
ふとすれば気づかないような僅かな違い。でも、うっかりここに入ってしまい、鍵を掛けてしまえば、そこには“向こう側”が待っている。
「ねぇ、もういいでしょ……もう帰った方が――」
「何を言っているの。ここからが本番でしょう?」
「あっ」
夜娃華の手が離れる。宙に浮いた手を伸ばすけれど、そこに夜娃華の手は無かった。
私のことを忘れてしまったかのように、夜娃華はドアノブを握り、開く。
「やっぱり暗いわね」
「坂口さんっ!」
躊躇せず中に入っていく夜娃華を追って、私も中へ入る。スマホのライトで照らされたそこは、どうやら階段の一番上の段のようだ。少し広めにスペースを取っているから二人で並べるけど、そこから先は普通に地下への階段があり、まるで怪物の口の中にでも続きそうな闇が待ち受けていた。
「電気は――」
「無いみたいね。まぁ、最初からあるとは思っていなかったのだから、問題無いわ」
言いながら、夜娃華は階段を下りていく。私は後ろを振り返り、開いたままの入り口を見て、夜娃華に訊く。
「扉、開けといてもいい?」
「別にいいわよ。どうせ無駄でしょうけど」
どういう事だろうと思いながら、私は一歩、階段を下りる。次の瞬間、背後からガチャン、と重い音が響く。
「え?」
慌てて振り返ると、開けたままにしていた入り口が閉まっていた。
「嘘……待って!」
私は扉に飛びつき、ドアノブを回すが、
「開かない……!」
鍵が掛けられたかのように、いくら引いてもドアが開かない。
「誰か助けて! ねえ!」
手で扉を何度も叩く。大きな音が響くが、誰も助けに来てはくれない。何度も繰り返して扉を叩いたせいで手が痛くなり、私は叩くのを止めた。
「はぁ、はぁ……」
「だから言ったでしょう。無駄って」
階段の中腹に立つ夜娃華がこちらを振り向いて、当然のように言う。けれども怖いものは怖いのだ。
「鍵が掛かって出られない……」
「そうね。まさに噂の通りだわ」
楽しそうに微笑う夜娃華は、私を置いて地下へと向かう。
「待って!」
ここで取り残される心細さに負け、私は夜娃華を追って階段を下り始めた。
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