第3話「私は彼女に逆らえない」
『友達になりましょうか、夕花』
夜娃華を助けようと線路に飛び込んだあの日から、二ヶ月が過ぎている。
幸いな事に大きな怪我も無かった私たちだが、念の為と一応、二人して病院で診察を受けたりして、その間、有言実行とばかりに、夜娃華は私と距離を詰めてきた。
綺麗な女の子に詰め寄られるという人生初めての経験に鼓動が速くなりっぱなしだった私は、夜娃華の言葉に上手く返事が出来たとは言い難かったが、何故か夜娃華は私を甚く気に入ったようで、翌日、いつもの時間に登校すると、
「おはよう、夕花」
と、校門前で待っていた夜娃華に声を掛けられた。
そしてどこで間違ったのか、周囲からは線路に飛び込んだ二人組と影ながら噂をされ、虐めという程ではないが、若干引かれた扱いをされるようになってしまった。
入学から数日で私の高校生活の雲行きは大分怪しくなったが、そういう事をまったく気にしない夜娃華のおかげで、何とかやっていけていた。
そんなある日、私は訊かざるべきかと思っていた質問を夜娃華にした。何で線路に飛び込んだのか、という事である。
すると、夜娃華はこう答えた。
「向こう側へ行けると思ったから」
この時の私は“向こう側”という言葉に首を傾げるしかなかったのだが、夜娃華と一緒にいる内に、その言葉の意味を思い知る。
夜娃華は所謂、怪談が好きだった。いくつもの曰くある噺を私にしては、当然のように断れない私を連れてそれらを探しに行くのだ。最初は夜娃華の話を信じていなかったけれど、巻き込まれた私は、普通に生きていたら絶対にしないような怪奇的体験をした。
だから今回も私はめでたく、夜娃華の持ってくる怪談に巻き込まれたという訳だ。
「それで、どうしてこんな場所にいるの?」
「夜にならないと人がいなくならないでしょう?」
「だからって、どうしてゴミ捨て場なの!?」
放課後、私と夜娃華は校内を見回っている教師に遭遇しないよう、ゴミ捨て場に隠れていた。具体的に言うと、ゴミ箱と壁の間だ。凄く臭うし、服とかに移らないか心配だ。
「しょうがないでしょう。見回りの順番的にここが一番良い場所なんだから」
「見回りの順番って、わざわざ調べてきたの?」
「勿論。ここは佐藤教師の担当場所よ。ほら、あの人、適当なところがあるから、こんな場所までは見に来ないわ」
「あぁ、あの人はね……」
佐藤先生は数学の先生なのだが、教え方が雑で分かり辛いと有名で、普段の生活からもその雑さが窺える人だった。
「運が良い事に、旧校舎内の捜索は昨日の時点で終わっているわ。多分、一通り見回りをしたら、旧校舎の警備は手薄になるはず」
「そんなに旨くいくの?」
「まぁ、多分大丈夫よ。こっちには秘策もあるのだし」
「秘策?」
「まぁ、その時になれば分かるわ」
夜娃華が自信満々に言うものだから、私はこれ以上口を出すのを止める事にした。別に旨くいかなかったとしても私自身には何の損害も無いし、という考えもあった。
それからしばらくして、校内が大分静かになった。行方不明の生徒が出た事で、部活や委員会、諸々の放課後の活動が制限され、もう校内に私と夜娃華以外の生徒が居なくなったという事だろう。先程から先生の姿も無いし、居るとすれば、件の旧校舎周辺くらいではないだろうか。
「行きましょうか」
「本当に行くんだ……」
正直、あまり乗り気ではないのだけど、と言外に夜娃華に伝えるも、
「当たり前でしょう。こんなに面白そうなんだもの」
「ですよね……」
やはりと言うか、夜娃華には止める気なんて無い。多分、私が乗り気じゃないのも分かった上でだろうから性質が悪い。
「そんな所で立ち止まってどうしたの。行きましょう、夕花」
「……うん」
しかし、微笑う夜娃華を見ていると、私はどうにも逆らえず、差し伸べられた手を繋いで、その後を追ってしまうのだ。
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