第27話
『9000Gー、9000G-!……他はいらっしゃいませんか……? 821番、9000Gで落札です』
上場馬は1、2分で買い手がついてセリを終える。買い手がつかない場合は翌日のセリに再上場されるらしい。
「愛子、そういや上場馬の数と現役馬の数が全然合わなくないか? こんな時間がかかるなら24時間やってても1000頭くらいが限界だろ?」
「セリ会場は他にもあるんだよね。今回はこのグロシノア会場に来たけど、プレイヤー数が多い分会場がないと間に合わないでしょ?」
俺の疑問に愛子はそう答えてくれた。
しかし、他にも会場があるとなると初心者は色々目移りしてしまいそうだ。
そうしてしばらくセリを眺めていると、上場馬を調べていたイオが話しかけてきた。
「純ちゃん、この824番の繁殖牝馬買いたい!」
「824番……このイリシオミズチって馬か?」
俺はイオに言われた繁殖牝馬の情報を見始めた。
イリシオミズチという名前の繁殖牝馬は、グレイスのような芦毛だった。現役時代は重賞が1勝のみという成績らしい。
「重賞が1勝だけって成績としてはどうなんだ?」
「重賞を勝てるってなかなか強い馬だからね? エンジェルやグレイスの成績が当たり前だと思っちゃダメだよ?」
愛子は俺の質問を聞いて呆れるようにそう答えた。そうは言っても俺にとってエンジェルやグレイスが基準になってるからなあ。
「最低入札額は8000Gか。結構価格はつり上がるんじゃないか?」
「うん、重賞勝利馬だし1万5000Gは堅いかも……。大丈夫? 結構大きい出費じゃない?」
愛子は金額がつり上がることを危惧したのか、心配そうにそう言った。
「まあ生産馬1頭で元は取れるだろ? その分イオには稼いでもらうから気にするな」
そうしてしばらく待っていると、ようやくイリシオミズチのセリの番がやってくる。
『824番、イリシオミズチです。現役時代はGⅢヤーガルステークスを勝利しております。さあ、最低落札価格は8000Gです……参ります。さあ、さっそく入札がありました! いきなり1万Gの入札です!』
セリが始まると同時に、1万Gの入札が入った。俺も負けじと入札額を1万2000Gに設定した。
『1万2000G! 1万2000Gです……さあ、ここでさらに1万3000G! 1万4000G!」
俺が吊り上げたセリの金額をさらに上回る入札額がすぐに提示される。どうやら他にもこの馬を狙っているブリーダーが複数人いるようだ。
「やっぱりこの馬目当てのブリーダーが結構いるみたいだな……」
あっという間に愛子が言っていた金額まで近づいてしまった。イオが選んでくれた馬なので簡単には引けない。俺は1万6000Gの入札額を設定した。
「純ちゃん良いの? 予算オーバーしない?」
その様子を見たイオは苦笑いを浮かべてそう言った。
「心配するな。3万Gを超えようが落札してやるよ」
それくらいの価格でも1日2日あれば簡単に回収できる。うちにはエンジェルやグレイスもいるし、イオと麗華がバリバリ稼いでくれるだろう。
『1万6000Gです! 1万6000Gー、1万6000Gー……1万7000Gいただきました!』
入札額が吊り上げられるが、俺もすぐにタブレットを操作して1万8000Gの入札額を設定する。
『1万8000G! 1万8000Gです! 1万8000Gー……』
「これでどうだ……?」
先ほどまでの勢いが嘘のように、他からの入札がピタリと止まった。
「これで終わると良いんだけど……あ」
愛子さんそれはフラグって言うんですよ。
『1万9000G! 1万9000Gー!』
長考の末、まだ入札を諦めないことを決めたらしい。
「もう諦めてくれよ……」
相手にプレッシャーをかけるように、すぐに入札額を2万Gに設定した。
『2万G! 2万Gの大台に乗りました!』
俺が入札すると同時に、会場にはどよめきが起こった。
「もう雅君ってば負けず嫌いなんだから……」
愛子は俺の入札の様子を見てかなり呆れている様子だった。
「そりゃ向こうも同じだろ? 最低入札価格の倍以上まで吊り上がってるんだから」
「そうだけど……イオ、きっちり働いて返しなさいよ?」
「分かってるって! 純ちゃんありがとうー」
目当ての繁殖牝馬を手に入れられたからか、イオはとても喜んでいた。まあ、そうやって喜んでくれるなら落札した甲斐があるってもんだ。
その後、麗華が気になっていたヴィサマキシマという繁殖牝馬も1万Gで落札し、2頭で合計3万Gの出費となった。
「よし、ばっちり馬も落札したしミーティアの新馬戦に向かうか」
初めてのセリで目当ての繁殖牝馬を手に入れることができ、俺は最高の気分でミーティアの新馬戦に向かうことになった。
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