第26話
エンジェルのレースを2つ観戦し、俺たち4人は柏原厩舎に戻ってきていた。
「古馬戦は2戦1勝……上々だと思うよ?」
「グランディアステークスはさすがに他の馬が強かったな……まあ、4歳戦も十分戦えることが証明できたし良かったよ」
エンジェルは芝3200メートルのジャパンステイヤーズクラシックを快勝。続く芝2400メートルのグランディアステークスは1番人気に推されたが、中長距離の最強馬が集結する大レースということもあり、4着に敗れてしまった。
これで生涯成績は10戦6勝。GⅠはすでに3勝をあげている。今後もうちの牧場の稼ぎ頭として頑張ってくれそうだ。
「そういえばグレイスの今後の出走予定はどうなってるんだ?」
「グレイスは短距離三冠路線に進ませるよ。ただ、最初のレースが朝7時で、そこからびっしり予定が詰まってる忙しいローテーションなんだよね……」
「なんか大変そうだな……それで? グレイスは誰が乗る?」
俺が麗華とイオの二人にそう尋ねると、二人とも顔を見合わせてしまった。
「ミーティアの時も言ったけど、別に誰が乗っても良いんだぞ?」
「それなら私はやめておこうかな。ミーティアに乗せてもらうことになったからね」
「え? いいの? 間違いなく三冠路線の主役になる馬じゃん?」
「ミーティアみたいな難しい馬を乗りこなせるようになれば、結果も付いてくるようになるでしょ? 今回はミーティアに集中したいし」
そういう事で、ミーティアの2歳戦は麗華が、グレイスの3歳戦はイオが担当することになった。
しかし、主戦騎手が2人になると馬の取り合いみたいになってしまうな……。
「なあ愛子。そういえば繁殖牝馬って買えないのか?」
「もちろん買えるよ? デイリーメンテナンスの時間以外はセリが行われているからね……あ、もしかして馬が足りないって思っちゃった?」
「ああ、せっかく麗華とイオがうちの馬に乗ってくれるっていうんだから馬が少ないのは勿体無いと思ってな」
「じゃあ今から行こうよ!」
話を聞いていたイオはパンと手拍子を打ってそう言った。
「そんな急に行けるものなのか?」
俺はイオの行動力に若干表情を引き攣らせる。
まだ短い付き合いにはなるが、イオはどうも無鉄砲というか、考える前に行動するタイプなのかもしれない。
困ったように愛子に目を向けると、彼女は苦笑いを浮かべていた。
「なんで私に助けを求めるような顔をするの……。まあ、今の時間でも上場馬は多いと思うしセリ会場に向かおうか?」
「それならセリで2頭くらい買ったあと、そのまま競馬場に向かってミーティアの新馬戦だな」
そうして俺たち4人は急遽繁殖牝馬のセリに向かうことにした。
セリが行われるセリ会場に行くのは初めてだったので、俺はまるでおもちゃを買ってもらう子供のようにワクワクしていた。
◇◇◇
セリ会場はまるで歌劇場のような場所だった。プレイヤーが多く集まるからか、座席の数がとても多かった。
セリに上場される馬に近い座席はすでに満席だったので、俺たち4人は後方からセリを眺めることにした。
「こういう場所は初めて来たんだがすごく盛り上がっているな」
「繁殖牝馬のセリだからまだマシな方だよ? これが当歳とか1歳馬のセリなんかだと馬主もやってくるから、会場は人だらけになるんだから」
「そうか、たしかに繁殖牝馬が必要なのはオーナーブリーダーのプレイヤーだけだもんな」
まあ俺の場合生産馬をセリに出すということはほとんどないと思う。自分の馬が強いと分かっているのに他の人に譲る理由も無いしな。
「愛子、根本から教えて欲しいんだけど……馬ってどうやって買うんだ?」
「ほら、座席に用意されているタブレットがあるでしょ? それを使って上場馬の情報を見たり、気になる馬がいたら入札したりするんだよ」
「システムは分かりやすいんだな。じゃあ、これの順番通りにセリが行われるんだな?」
「そういう事。まあ、気になる子がいなければ無理に買わなくてもいいんだよ? ほぼ24時間セリは行われているし、1日経過するごとに引退した牝馬が上場されるから」
愛子は俺にそう説明して、この後セリが行われる繁殖牝馬の情報を見始めた。その馬の血統がどういうものか、現役時代の競争成績はどれほどだったのか、体質に不安は無いのか、など色々気に掛ける部分は多いらしい。
そうは言っても俺にはほとんど分からない。その時、俺の頭に名案が浮かんだ。
「あ、どうせなら麗華とイオが選んでも良いぞ? それぞれが選んだ牝馬の生産馬の主戦を担当するってのはどうだ?」
「なにそれめっちゃいいじゃん! 純ちゃん太っ腹だね!」
俺の提案にイオは飛びついた。『繁殖強化』もあるし、下手な馬を選ばなければそこそこ戦える馬を生産できるだろう。
ノリノリで馬を選び始めたイオとは対照的に、麗華は戸惑いの表情を見せていた。
「どうした? 良さそうな馬は見つからないか?」
「いや、そうじゃないんだけど……本当に良いの? 3000Gから1万Gくらいかかっちゃうと思うよ?」
どうやら麗華は繁殖牝馬を購入する金額が大きいことを気にしてくれていたようだった。
俺が普段から金欠気味なのを知っているからこそ遠慮したい気持ちがあるのだろう。
しかし、今の俺にそんな心配は無用である。俺は麗華に所持金の残高を見せつけた。
「嘘……!? もうこんなに稼いだの!?」
俺の所持金はすでに10万Gを超えている。その金額を稼いでいると思っていなかったのか、麗華は目を大きく見開きとても驚いていた。
「そりゃ麗華が頑張ってくれたおかげだよ。それに、これは先行投資だ。麗華が頑張ってくれりゃすぐに回収できる金額だろ?」
「すごいプレッシャーだよ……。でも、そう言ってもらえて嬉しい。よし、良い仔を産んでくれる馬を見つけ出すよ!」
そうして麗華も上場馬の情報を食い入るように調べ始めた。
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