第14話

「よっしゃああああああああ!!!」


「やったよ!雅くん! GI初制覇だよ!」


「俺も、麗華もだな! 最高のレースだった!」


 俺と愛子はミヤビエンジェルの勝利に、手を取り合って大はしゃぎしていた。周りの観客から注目を浴びることなど全く気にならなかった。嬉しすぎて、喜ばないでいられなかったのだ。


「さあ、ウィナーズサークルに行こうか。麗華もエンジェルも待ってるよ」


「ああ、このレースの立役者を待たせちゃ悪いからな」


 そうして、俺たちはウィナーズサークルに向かうことにした。新馬戦の時以来のウィナーズサークルだが、その時は記念撮影をデータとして残してくれる機能だと愛子から教わっていた。


 しかし、今日のウィナーズサークルは一味違った。実況を担当したアナウンサーや、解説として呼ばれていたアイドル、赤池梓がアバターを使ってウィナーズサークルに集まっていたのだ。

 てっきり、声だけの参加だと思っていたんだが違うんだな……。

 赤池梓の姿を一目見ようと、多くの観客もウィナーズサークルの近くに集まっていた。一種のファンイベントにさえ見えてくる。


 まあ、GIだしそういうところにも力が入っているのだろう。それよりも俺にはやることがある。


「麗華! お疲れ!」


 俺は雅ファームの勝負服に身を包んだ麗華に声をかけた。麗華もすぐに気がついたようで、俺の元に駆け寄ってきた。


「やったよ! GI初制覇!」


「おう! 最高のレースだったぞ! 麗華のおかげだ、ありがとう!」


 麗華の右手を取り、俺は感謝の言葉を伝えた。麗華も嬉しそうにとびきりの笑顔を見せており、勝てて良かったと心の底から喜んでいた。


「エンジェルー。お前もよくやったぞー?」


 ドノティス・ビオラ賞と書かれた、垂れ幕のような優勝レイと呼ばれるものを首にかけ、大人しく写真撮影を待っているミヤビエンジェルにも労いの言葉をかけた。

 頭を軽く撫でると、ミヤビエンジェルはやってやったわよ、と言いたげにブフォンと鼻を鳴らした。


「雅くん、写真撮影だよー」


「おう、ビシッと決めて写るか?」


「無理に表情を作ったら変だと思うけど? 笑顔で写っていればいい写真だよ?」


 せっかくの大舞台だから真面目に写った方がいいのかと愛子に聞くと、苦笑いされてしまった。まあ、自然に写っていた方が写真も映えるか。


 そうして、俺と愛子のGI初制覇の記念写真は、笑顔の3人と1頭で撮られた。




  ◇◇◇


「さあ、ジョッキーインタビューです! 本日、見事な手綱捌きでミヤビエンジェルを優勝に導きました、長宝院麗華騎手です。おめでとうございます!」


 記念写真のあとは、ジョッキーインタビューの時間が取られていた。愛子の話によると、この内容は動画投稿サイトで生放送されているらしい。頼むから下手なことは言わないでほしい……。


 そうして、レース運びやペースの判断、最後の直線の叩き合いなどを女性アナウンサーが聞いていたのだが、不意にアイドルの赤池梓がインタビューに割って入った。


「ところで、長宝院さんとミヤビエンジェルの出会いはどんな感じだったのかな? あずにゃん、すごい気になるー」


「え?出会いって言われても……リア友の馬に乗せてもらえただけっていうか……」


 ……うん、間違っていない。麗華はこちらを一瞥したが、横にいる愛子は首を横に振った。おそらく、まだ俺のスキルのことは隠しておくつもりなのだろう。


「じゃあ、ミヤビエンジェルの兄妹がデビューするとすれば、長宝院さんが乗ることになるんだね?」


「はい、今のところはその予定です」


「こんなすごい子の兄妹も早く見たいなあ! あずにゃんの質問は以上だよー」


 そう言うと赤池梓は女性アナウンサーにインタビューを譲った。どうやら本当に雅ファームの生産馬が気になっただけのようだ。


「雅ファーム生産の競走馬に今後も注目ですね! 以上、ジョッキーインタビューをドノティス競馬場からお送りしました」


 そうしてすぐに麗華は解放され俺たちの元へと戻ってきた。

 ジョッキーインタビューは久しぶりだと言っていたが、きちんとした受け答えが出来ていた。俺があんな風にインタビューを受けても、競馬にはそれほど詳しくないから質問の意味などもあまり理解できないかもな。


「お疲れ麗華ー。このあとって騎乗依頼入ってるの?」


「いや、今日はバイトの時間まで予定は入れてないよ。それに、ミヤビグレイスのデビューもあるでしょ?」


「そういやそうだったな。それにミヤビエンジェルの今後の予定はどうなるんだ?」


 無事にGⅠレースを勝つことが出来たが、今後もしっかりと頑張ってもらいたい。


「ミヤビエンジェルは3歳ステイヤー路線に進む予定だよ。夜11時までは3歳戦に登録できるけど、放牧を何回か挟むから出走回数は6回か7回くらいかな」


「まあ、その辺は愛子に任せるよ。俺にはちっともよく分からないし」


「少しは競馬についても勉強したほうが良いんじゃないの……?」


 愛子は任せっきりの俺に対して、若干呆れるような表情を浮かべていた。まだDHOを始めて数日なんだし、そこは大目に見て欲しい。


「とりあえず厩舎に帰ろうか。エンジェルの出走予定レースは厩舎で詳しく説明するよ」


 そうして俺たちは柏原厩舎へと戻ることになった。

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