第2話
プロフィール選択が終わった後、俺は事務所のような場所へと転送された。
転送された先には、俺のことをまっすぐと見つめる黒いスーツに身を纏った女性が立っていた。
「お待ちしておりました、雅純様」
「あ、どうも……あなたは?」
「オーナーブリーダーである雅様を補佐いたします、秘書AIでございます。まず最初に、雅様が所有する牧場について設定をお願いいたします」
秘書AIがそう言うと、俺の目の前に半透明のボードが出てくる。
そこには牧場の名前や馬を入れる厩舎の色などを細かく設定する項目が出ていた。
「へえ……こりゃずいぶん凝った作りだな」
俺は牧場の名前を雅ファームと名付け、その他諸々の設定を終えた。
「ありがとうございます、雅様。設定は雅様のステータスボードから自由に行えますのでご安心下さい」
「それで、俺は一体何をすれば?」
「現在、雅様は繁殖牝馬を1頭所有しております。空胎ですので、早速種付けを行いましょう。こちらの中から、種付けをする種牡馬をお選びください」
そうして、目の前にはおびただしい数の種牡馬が表示された。
秘書AIに聞くと、DHOが販売されて以来オーナーブリーダーのプレイヤーが生産した競走馬が何代にも渡って血統を紡いでいるそうだ。
知っている競走馬の名前もあるが、ほとんどがプレイヤーが生産したと思われる競走馬だった。
「どれを選んだらいいか分からんな……」
「お困りの際は、雅様のスキルである『繁殖強化』からおすすめの種牡馬を選ぶことをお勧めします」
「スキル?」
そんなもの設定したか?
「雅様には初期スキルとして『繁殖強化』が選択されています。赤字で表示されている種牡馬が、現在所有している繁殖牝馬と相性の良い種牡馬です」
「そりゃ良いスキルだな。初心者お助けスキルのようなものかね」
俺は秘書AIの言う通り、赤字で表示されている種牡馬から選ぶことにした。
「ええと、種付け料ってのがかかるのか……って、この馬、種付け料だけで1万Gもするのかよ!」
現在、俺の所持金は2万G。牧場の維持費もかかると言われていたので、ここは種付け料が安い種牡馬から選ぶのが良いだろう。
「お、350Gの種付け料か。こいつにしようかな」
そうして俺はジョナサンという種牡馬を選択した。
「今回はチュートリアルですので、すぐに幼駒が生まれます。早速厩舎に向かいましょう」
「あ、これってチュートリアルだったのね……」
俺は秘書AIに連れられて、敷地内にある厩舎にやってきた。茶色の屋根に黒い外壁、という少し特徴的な見た目を選んのだが、意外とかっこよく見える。
自分の牧場って良いなあ……。
「さあ、どうぞ中へ」
身長よりも遥かに高い大きな引き戸を開けると、一番手前の馬房には栗毛の繁殖牝馬、タスクミーティアが入っていた。そして馬房の隅で横になり、ぐっすりと眠っている牝馬と同じ色の小さな仔馬が見えた。
「すんげえ可愛いなぁ」
「フフフ、今が一番可愛い時期かもしれませんね。さあ、女の子ですし可愛らしい名前をつけてあげましょう」
そうして、馬房に設置されたボードで名前を決めようとしたのだが、すぐに良いと思う名前が思いつかなかった。
「名前か……ネーミングセンス悪いんだよな。サクラ、とかはダメか?」
「残念ながら、すでに使用されている馬名のようです」
「そう簡単にはいかないか……」
一応、ランダムで名前をつけられるようだったが、こんな可愛い馬に適当な名前は付けられない。俺はすでにあの仔馬に心を奪われてしまったのだ。
「牝馬ってことは女の子だからな……可愛い名前がいいよなあ」
「お悩みであれば冠名を付けてはいかがでしょうか?」
「冠名?」
「全ての生産馬に決まった名前を付けることです。冠名がエースであればエース〇〇や〇〇エースなど、冠名と組み合わせて名付けることができます」
冠名か……。たしかに、そっちの方が付けやすいかもしれないな。
「雅ファームだから……ミヤビ、ミヤビ……ミヤビエンジェルにしよう!」
天使のような可愛さだからな。安直と言われるだろうが、俺のネーミングセンスはここが限界だ。
「競走馬の繁殖についてのチュートリアルは以上になります。分からないことがあればなんでもお聞きくださいね」
「了解」
そうして、秘書AIは事務所に戻っていった。
チュートリアルが終わったからか、俺のステータスボードでは色々なことが確認できるようになっていた。
その中に、フレンドリストというものがあった。選択すると、長宝院麗華という名前が表示された。
「まさかとは思うが、志保か?」
育ちの良さそうなお嬢様って感じの名前だな……。元の名前の跡形もない。
『DHO』内で連絡が取れるようなので、俺は長宝院麗華という人物に通話を申し込んだ。
『もしもしー? もしかして純一君?』
「そうだが……やっぱり志保だったんだな。名前だけ見たら誰だか分からんぞ?」
『名前くらい別にいいでしょー? もうチュートリアル終わったんだよね? ちょっと牧場に招待してよ』
「招待? そんなことができるのか?」
『フレンドリストで私の名前を選択したら、自分の牧場に招待する、っていう項目が出るはずだよ? それじゃよろしくね』
そう言って志保、もとい長宝院麗華は通話を切った。
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