第3話
「へえ、名前はともかく意外とおしゃれな牧場じゃん」
「一言多いんだよ。素直に褒めろ」
「バイト先の店名を名前にする人はあまり聞いたことがないもん。まあ、雅君が一から考えるよりはいいのかもしれないけど」
そう言いつつ、志保もとい長宝院麗華は厩舎へと歩き始めた。
どうやらアバターの外見を自由に変更できるらしく、綺麗な銀髪のショートカットに、燃えるように赤い瞳の可愛らしい女の子になっていた。
衣類も赤いドレスを身に纏っているので、どこかのお嬢様に見える。
ちなみに俺は未だに初期アバターである。
「ところで、お前のことは何て呼んだほうが良いんだ? 長宝院? それとも麗華?」
「麗華でいいよ。一応本名は伏せておいてよね?」
「心配しなくてもそれくらいの常識はあるよ」
厩舎に着き、大きな引き戸を開けると一番手前の馬房から仔馬が頭を出しているのが見えた。
「どうだ。この子が初生産場となるミヤビエンジェルだ」
「ずいぶん安直なネーミングセンスなのね……っ て、ジョナサン産駒? かなり渋い種牡馬を選んだんだね?」
「節約しないといけないからな。一応スキルで選んだ種牡馬だぞ?」
俺がそう説明すると、麗華は驚いたように目を大きく広げた。
「ちょ、ちょっと待って。ちなみにそのスキルって……?」
「『繁殖強化』ってスキルだったぞ? 馬もよく分からないから便利なスキルが手に入ってよかったよ」
「それ、激レアスキルだよ!? 運営の情報だと1億分の1とかの確率でしか手に入らない、オーナーブリーダーが喉から手が出るほど欲しがるものなんだよ!?」
麗華は興奮気味にそう言い、『繁殖強化』について詳しく教えてくれた。
激レアスキルと言われるだけあり、そのスキルはまさに一級品だそうだ。
種付けをサポートしてくれるだけでなく、生産する仔馬の能力を圧倒的に底上げしてくれるそうだ。
「多分、DHOのサービスが始まって以来初めてのスキル保持者じゃないかな。すでに持っている人がいたら話題になるはずだもん」
「じゃあ、これで俺も億万長者になれるのか!?」
「億万長者って……。でも、能力が高いことも分かっているから、売りに出せば買い手が間違いなく付くし、自分で所有してもしっかり稼いでくれるはずだよ?」
「よっしゃああああ!!!」
俺は全身を使って喜びを露わにした。これで、金欠生活からも解放されるかもしれない!!
「チュートリアルも終わったんだったら忘れずに種付けしようよ。種付けから12時間で新しい仔馬が産まれるし、寝る前にやっておいたら?」
「そうだな……。種付けって事務所じゃないと出来ないのかね?」
「ここでも出来るんじゃない? ほら、馬房のボード」
麗華に言われるがまま、俺は馬房のボードを操作した。繁殖牝馬から種付け画面にアクセスできたので、俺は種牡馬選びに頭を悩ませる。
すごいスキルが手に入ったとはいえ、こういうところは節約しないといけないよなあ……。
「またジョナサンにするか?」
「それでもいいと思うけど……ほら、種牡馬を選択すると能力が出るでしょ? この能力によって、馬場適性とか距離適性が変わってくるのよ」
「馬場?距離?」
正直、競馬に関してはあまり知識のない俺からすると、麗華が何を言っているかチンプンカンプンだった。
「レースにも芝の上を走るレースと、ダート、砂の上を走るレースがあるのよ。その中でも短距離のレースや長距離のレースに分けられたりするから、目標のレースによって種牡馬を使い分けるのが一般的よ」
「へえ……種牡馬選びにもいろいろあるんだな……」
ちなみにミヤビエンジェルの父、ジョナサンの能力は以下の通りだ。
馬 名:ジョナサン
馬場適性:芝◎・ダート◎
距離適性:2400~3200
スピード:B
パワー:B
根 性:B
精神力:A
健 康:A
「ジョナサンだと、芝とダートの両方が走れる長距離タイプってことか?」
「大正解! まあ、牝馬との相性もあるから最初は色々試してみなよ」
そうして、俺は再び種牡馬選びを始めた。せっかくだからジョナサン以外から選ぶことにする。
もちろん、『繁殖強化』でおすすめされる赤字の種牡馬から選ぶことは忘れない。
手頃な赤字の種牡馬を探していると、一頭の種牡馬が目に留まった。
「この灰色の毛色って特殊なの?」
「ああ、それは芦毛っていう毛色だよ。他の毛色と比較すると少ないかな……って、アイスグレイか。短距離タイプの馬だね」
俺が気になっているアイスグレイの能力は以下のとおりである。
馬 名:アイスグレイ
馬場適性:芝◎・ダート×
距離適性:1000~1200
スピード:A
パワー:B
根 性:B
精神力:A
健 康:B
「種付け料は400Gだし、これにしようかな?」
「短距離路線は意外とライバルも少ないし良いんじゃないかな」
「よし、それじゃこいつに決めよう」
俺はタスクミーティアにアイスグリフを種付けすることにした。
ボードから選択すると、12時間のタイマーがスタートした。明日の昼くらいに産まれるってことか。
「こんなところだな」
「まあ、しばらくできる事は無いしそろそろログアウトしたら? 仔馬が成長するのにも時間がかかるし」
くそー。俺のミヤビエンジェルが走る姿を早く見たい。
「そうか……この後麗華はどうするんだ?」
「私は騎乗予定のレースがいくつかあるから競馬場に行かないといけないんだー」
そういえばこいつ、ジョッキーだったんだっけ? 忙しそうだな。
「そうか。そいじゃあ先に落ちるわ」
「りょうかいー。明日9時頃にインできる?紹介したい人がいるんだ」
「8時には仔馬の様子を見に来るよ。バイトの時間まで暇だからな」
そうして俺は、DHOからログアウトした。
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