うまぬし! フルダイブ型競馬シミュレーションゲーム『DHO』で最強オーナーを目指す!

まぐな

第1話

「ねえ純一君。『馬主』になってみない?」


 バイトが終わり休憩室で休んでいると、同じバイト仲間である市川志保は俺にそんなことを尋ねてきた。

 

「馬主? そんなもの、バイト生活の俺になれるわけがないだろう?」


「もちろん本物じゃなくてゲームの話だよ? ほら、最近流行ってるダービー・ホース・オンライン……通称『DHO』って知らない?」


「ああ、そういえば広告で見たような気がする……」


 俺は志保から話を聞き、最近やけに流れてくる広告のことを思い出した。世界初のフルダイブ型競馬シミュレーションゲームとして発売された『DHO』は、競走馬を所有する馬主だけでなく、競走馬の繁殖から携わるオーナーブリーダーや、競走馬を育成する調教師、それに加えてレースで騎乗するジョッキーにもなれる、まさに競馬会を丸ごと体験できるようなゲームらしい。

 

「『DHO』には特徴があってね……ゲーム内通貨が換金できるの」


「何!? その話、詳しく聞かせてくれ!」


 大学を中退しバイト生活に明け暮れる俺にとって、金が稼げるゲームの話を聞かないわけにもいかない。俺は志保から根掘り葉掘り聞いておこうと詰め寄った。


「ちょ、落ち着いてよ……。一応月額6千円の会費がかかるし、ゲーム内通貨を換金するのにも運営に手数料として半分取られるんだよ?」


「半分も取るのか!?」


「まあ、それでも『DHO』内の稼ぎだけで生活しているプロゲーマーもいるみたいよ? ほんの一握りにはなるけどね」


「へえ……そりゃ夢があるな……」


 もしそんなことが可能になったらこんなバイト生活からもおさらばできる。


「ところで、なんでその話を俺に……?」


「実は私、『DHO』でジョッキーをやってるんだ。レースで1着になれば賞金の5%が手に入るし、人気ジョッキーになれば一日にたくさんレースに出られるってので決めたんだけど……。最近、なかなか強い馬に恵まれなくて」


「自分が乗る馬を俺に生産してもらおうってか?」


「当たり! しかも今、キャンペーン期間でアカウント作成時にレアスキルが手に入るらしいし、始めるなら今だよ!」


 『DHO』をプレイするのに必要なゲーム機はすでに持っている。必要になるのはソフト本体と6千円の会費か……。


「ちなみにソフト本体っていくら?」


「たしか3万円ちょっとだったかな……あ、もしかして金欠?」


「ば、馬鹿にしてもらっては困るなあ。ソレクライヨユウデスヨ?」

 

「……まあ無理強いはしないからね?」


 志保はそう言うと、可哀そうなものを見るような目を向けてきた。やめて! 先月ちょっと豪遊しすぎただけなんだから! 


「よし、家に帰ったら速攻買ってやる!」


「それなら良いけど……それじゃ、家に帰ったら連絡ちょうだい?」


「あいよ、了解」


 そうして俺は早急に帰る準備を済ませ、バイト先である個人居酒屋『みやび』を後にした。



  ◇◇◇



「はあ、買ってしまった……」


 家に帰った俺は、『DHO』のソフトを購入していた。ただ、アカウントを作成してから一か月間の会費が無料になる特典がついていたので、まさに今が始め時だと感じてしまった。商売がうまいんだろうな、この運営会社。


「志保に連絡するか……」


 そうして俺は志保に電話を掛けた。呼び出し音が2回ほど鳴ったところで志保は電話に出た。


『もしもし? もう買えた?』


「おう、今ちょうど買ったところだ。会費が一か月分無料になる特典もついてたぞ」


『ええー、いいなあ……。あ、そういえばゲームを起動したら招待先の入力ってのが出るはずだから、私のアカウントを登録しておいてくれる?』


「はいはい分かったよ。ったく、ずる賢い奴だな」


『余計なお世話だよ! それじゃ、よろしくね』


 そこで志保は電話を切ってしまった。

 

「招待特典なんていうのがあるんだろうなあ……。今度飯でも奢ってもらおう」


 そんなことを言いつつ、俺はゲームを始めることにする。部屋にあるベッドに横になり、ゴーグル型のVRゲーム機『ゼブライト』を装着する。


「アクセス、オン……」


 その一言と共に、俺の意識は『ゼブライト』が展開する仮想空間へと引きずり込まれた。


 そうして、再び意識が覚醒すると、俺は白い部屋に立っていた。

 これが『DHO』のアカウントを作成する空間らしい。家具や飾りも何もない、意外と殺風景な空間である。


『WHOを購入いただきありがとうございます。プロフィールを決めてください』


 機械的なアナウンスと共に、俺の目の前には半透明のボードが表示される。この辺りは他のVRゲームと似たような仕組みのようだ。


「ええと、名前は……雅純みやびじゅんにしよう。プレイスタイルは……馬主が良いんだっけ?」


 たしか、志保は自分が乗れる馬を提供してほしいと言っていたはずだ。


「ん? オーナーブリーダー? これは馬主と何が違うんだ……?」


『お答えします。馬主は生産された競走馬をセリで購入します。一方、オーナーブリーダーは自分の牧場を持ち、競走馬の生産から携わります』


 俺が疑問に思っていたことを呟くと、それを質問と受け取ったAIが解説してくれた。


「……ちなみに、一番利益が出るのは?」


『オーナーブリーダーです。生産した競走馬を所有することはもちろん、セリを通して馬主のプレイヤーに販売する方ができます。ただ、牧場の維持費もかかりますので、難易度は非常に難しいものとなります』


「よし、オーナーブリーダーにしよう」


 一番利益が出ると知って他のプレイスタイルを選ぶ理由はない。俺は金が欲しいのだ。


『それでは、DHOの世界へご案内いたします』


「さあ、たっぷり稼いでやるぞ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る