後編:商談は回る
回転寿司が飲食店として優れている点とは何か。
寿司を手頃な値段で食べられること?
コンベアで寿司を回す特異性?
チェーン展開ゆえに安定した味をどこでも楽しめるところ?
それもまったく外れではないが、この場合に指摘するべき答えは……。
「回転寿司が飲食店の業務形態として優れている点は、何よりその懐の深さにあります」
「フトコロ?」
「例えば、この生ハム」
四辻がコンベアから取り出した生ハム寿司をリリーデン氏に差し出す。
「普通の寿司屋にこの手の寿司はありません。生ハムはもちろん、ハンバーグも、玉子サラダも」
テーブルに置かれたのは生ハムだけではない。シャリの上に小さいハンバーグを載せたもの、そして玉子サラダを載せた軍艦も姿を見せている。
「当然、寿司屋は寿司を食べさせるところで、寿司とは生魚を用いるのが基本だからです。ようやく海老天寿司があればいい方、かもしれませんね普通の寿司屋なら」
「ふむ。確かにこれなら食べられるね」
氏は生ハム寿司を食べる。その間に言葉を続ける。
「また仮に、普通の寿司屋がこの手の邪道メニューを用意したくても、流通の関係から用意は難しいでしょう。多くの店を持つチェーン店だからこそ仕入れのコストを安くできる。通常の寿司屋はそもそもこんなメニューを用意しなくても生魚を寿司にすればそれで済むのですから、わざわざ手間をかけて用意しようとは思わない」
「しかし、するってぇとこの店が邪道メニューを揃えてるのは何故です? ワシのような外国人を慮って、ではないでしょ」
「日本人に他国の文化圏の人たちを慮る繊細な精神は期待できませんからね」
だからこそ外国人に散々日本を褒めさせていたわけでな。
「回転寿司が豊富なメニューを揃えている理由は、ここが家族向けの飲食店だからです」
「なるほどね」
やはり投資家として成功するだけあって、リリーデン氏はすぐに理解したらしい。
「子どもって好き嫌い多いからね! わざわざ外食して子どもの食べられるもの探すの大変よ」
「子どもの数が多くなればなるほど、全員の好みに合わせるのは難しい。しかしこれだけメニューが豊富なら、全員がそれなりに満足することができる」
箸で玉子サラダ軍艦を掴んで口に入れる。潰したゆで玉子を刻んだ玉ねぎとともにマヨネーズで和えた一品だ。しかし私はさっきから玉子しか食べていない気がするが、まあいいか。
玉子とシャリの相性は先述の通り。油分であるマヨネーズによって口当たりがまろやかになり、かつ通常の玉子寿司にはない油もの由来の満足感が生まれる。そして玉ねぎの食感がいいアクセント。
「しかし室長がよくそこまで回転寿司のこと知ってますね。食に興味のない人なのに」
私が咀嚼して突っ込めない間に四辻が言ってくる。
「ほんとですか? シカバナさん、すごく食にこだわりがあるように見えますが」
「三か月くらい沢庵の湯漬けで過ごしてた人間は食に興味ないですよ。最後に栄養失調で倒れたって、同期の人が言ってました」
「おー。体は大事にしないと駄目よ」
あいつ、いらんことを部下に教えやがって。
「あれは住んでたアパートが火事になって引っ越しとかの面倒を考えたら嫌気がさして倒れただけだって。ちょうど時期が被ったからみんな湯漬けのせいにしてるけど。あ、新香巻取って」
「その話の後でよくも沢庵食べようとしますね。駄目です。肉食べてください」
私の前にハンバーグが置かれる。
ハンバーグは気分じゃない。
「なんで寿司屋に来てハンバーグ食べるの。もっとそれらしいの食べればいいのに」
「ほらもう言ってることに一貫性がないじゃないですか。食に興味がある人はこんな支離滅裂なこと言いませんよ」
リリーデン氏が笑う。
「分かりませんよ。
「そんな才能はうれしくないですね」
ハンバーグ寿司を手早く片付ける。小さなハンバーグにてりやきソースがべったりかかった風情も何もない寿司だが、子どもには人気の一皿だ。ちょこんと載せられたマヨネーズが味わいにコクを生んでいる。
「しかし本当に良かったんですか?」
四辻が伺うように聞く。
「結局こうして食事をしてますが、肝心の生魚の寿司は食べていないわけで……」
既にそれなりの量を食べたが、リリーデン氏は漬けマグロ以来、生魚を用いた一般的な寿司には手を出していない。私はそもそも生魚が苦手なので当然食べていない。氏に遠慮したのか四辻もその手の寿司を取らない。結果としてこのテーブルでは邪道メニューばかりが行き交う異常事態となっていた。
「いいのいいの。これで本当に高い寿司屋行ってたら困ったことになってました。十分楽しんでますよ」
「それならいいのですが……」
ちらちらと四辻はこちらを見る。私が今回の会食の目的を忘れていないか心配なのだろう。当然、私とて仕事なのだから目的を失念したりはしない。
今はその時ではないから、食事を進めるだけだ。
「しかし意外といえば意外でしたね」
リリーデン氏はツナマヨ軍艦を取りながら言う。
「日本はしばらく経済的に停滞していたので、もっとボロボロになってるものかと」
「アメリカで日本がどういう印象を持たれていたのかは分かりませんが、まあ、さすがにそこまで酷いことにはなりませんよ」
そして、そのためのデスゲームだったわけだし。
「とはいえ、今も不景気には違いありませんけどね。消費税ばかりが上がって所得税や法人税は下がり続けています。税金による富の再分配という中学生の社会科で習う程度の内容を知らないのが政治家と官僚やってますからね」
「で、その物を知らない政治家と官僚が天下ってデスゲーム会社で甘い汁を吸ってると。社長さんも大変って言ってました」
厳密には退職した官僚が縁の深い企業や団体に再就職することと、政治家が顧問として便宜を図り合うのとでは質の異なるものだ。とはいえ私たちデスゲーム会社の社員としては同じようなお邪魔虫でしかないから、わざわざ区別をつけたりせず適当に天下りだなんだと言っている。
「アメリカの方はどうでしたか?」
「うちのデスゲーム政策は日本に比べれば政治家から離れてるね。政治家連中は煽るだけ煽って関わらない方を選びやがりました。だからワシが投資する余地もあったんやけど」
「まだライフル協会ほど明白な支持基盤にはならない感じですね」
むしろ十年そこらで官民ガッチリ癒着してる日本の方がおかしいんだけどね。デスゲーム会社が勃興した当初は「新しいベンチャーの形」とか何とかいわれていたが、蓋を開けてみれば古色蒼然といった様相だ。
「とはいえ、ここ三十年くらい、日本で新しい何かが生まれることはないですね。それこそデスゲームくらいで」
「新規的なコンテンツは外国から入ってくるとね? 社長さんも愚痴ってたよ。まあそのコンテンツ輸入してる側のワシに言われても困るけどね」
車は空を飛ばないし、どころかドローンが空を飛んで仕事をすることすらない。仮にそんな新しい技術があったとして、庶民の手に届く値段ではない。あるいは政府が既存の業界を守るために規制しまくるか。いずれにせよ、今の日本は私が高校生だったころと文化的にはそう大差がない。
まさに停滞。田舎のその辺にある防火用貯水池のように、流れのない水がよどみ臭いを放つごとく有様。
「お、来ましたよ」
何のかんのと話をしていると、あらかじめ注文していた料理が運ばれてくる。と言っても、コンベアで自動的に、というのではない。
そもそもコンベアで流せる料理ではないし。
「お待たせしました」
店員がトレイに載せて運んできたのは、小さめの麵料理。魚介出汁のラーメン、エビ味噌ワンタンメン、そして海老天うどんだ。
「いよいよ回転寿司で何食べているのだか分らなくなりましたね」
四辻が愚痴る。
「まあいいじゃん。本当はカレーがあればよかったんだけど、あれは期間限定らしくて」
シャリに使う酢飯を利用したカレーというのがある。一度食べてみたいが、またの機会に。
「うーむ。これは美味しいね。生魚は無理でも出汁ならワシでも食べられる」
「生魚が食べられない原因は磯臭さや生臭さ、あるいはナマモノ特有の食感やねばりですから。出汁ならば問題ないケースも多いかと」
リリーデン氏は上機嫌で魚介出汁のラーメンを食べた。
さて私の海老天うどんは、どうってことない普通のうどんだ。とはいえ小さいながら具が海老天二本にかまぼことネギと、なかなか満足感が強い。
それにうどんというのは不思議なもので、蕎麦ほどがっかり感が薄い。それこそ立ち食い蕎麦を食べたときに感じた「これ自分で乾麺茹でるのと同じじゃん」という感覚を感じにくいのだ。蕎麦は風味が命だからそれらが損なわれたときのマイナスが大きい一方、うどんはそうではないからかもしれない。あるいは立ち食い蕎麦より寿司屋の方が調理に手間をかけられるからだろうか。
「ところで」
私は話を切り替えた。
「この度、どうしてリリーデン氏は我が社への投資を検討していただけたのですか?」
部下が困惑した視線をこちらに向ける。まあ散々引っ張ってこの直接的な聞き方だからな。もう少し上手い導入ないのかという呆れもあるだろう。
そういう小手先のテクニックがあるなら私は資料室の室長なんてしてないんだよ。
「アメリカは後四年でデスゲームが再び非合法化すると、ワシは踏んどります」
直截なこちらの質問に、リリーデン氏もずばりストレートに返してくる。
「そうでなくとも、風当たりが強くなる。むしろデスゲームが一大コンテンツとして流行しとる今がおかしいやないかって話です。それでワシは数年以内にデッドインク本社を辞して別の事業興そう思っとりまして、その繋ぎの投資先としてBR社を選んだんです」
「デスゲームが非合法化……?」
四辻が気になったのはそこらしい。
「後四年ということは、次の大統領選を考慮していますか?」
「そうね。ここ数期は保守――ちゅうより極右ね、そいつらが政権取ってたけど、いい加減アメリカもヤバい。あいつらに国任せとったらあかん言うて市民の反発も強いです。次の選挙でアメリカの時勢が大きく変わる」
今の大統領はまだ一期目だ。そしてアメリカでは政治家が大統領に就ける期間は二期八年と決められている。つまりまだ一期四年分の余地があるはずだが、リリーデン氏は大統領がすげ変わると思っている。
それか、大統領が続投したとしても、大統領選を機に世論が大きく動くと。
小難しい顔をして首をひねりながら、四辻が疑問を口にする。
「しかしそれなら、日本のデスゲーム業界も難しい立場に立たされるのでは? なにせアメリカのデスゲーム合法化を発端にして日本でも合法化の動きがあったんですから」
「どうだろうね。私はむしろ逆を考えてた」
確かに、日本のデスゲーム合法化の動きはまずアメリカの事例があったからだ。だが、じゃあアメリカが再び非合法化したからと言って、日本もそれに同調するとは限らない。
アメリカ五十一番目の州と皮肉ったところで別々の国ではあるわけだし。そして日本人はアメリカのお追従が大好きだが、実は追従する相手や状況は意外に選ばれる。
「そもそも日本の政治は腰が重いからね。手間暇かけて合法化して、今のところ順調な事業展開しているデスゲームをわざわざもうひと手間かけて非合法に戻しはしないでしょ。面倒だもん」
「そうね。ワシもしばらく日本の方は安泰と思っとるよ。だから投資先に選んだ。一度合法にしたものを非合法に戻すのは大変ってのは、ワシら銃でよく知っとります」
「それも……そうですね。しかしだったら遊戯公社を選ぶ手もあったのでは?」
さらに深く四辻が切り込む。これで「あ、そうだな」と思われたらどうする気なのか。さすがにリリーデン氏がそこまで調査不足だと思ってないからこその問いだろうが。
「あそこは駄目ね。官民癒着が酷すぎます。そういうところは今はよくても、いずれ問題を起こす」
デスゲームは内容が内容だけに、開催にあたり行政の支援が不可欠な商売だ。必然、行政と企業の距離は近くなる。同業他社が三社しかないのならなおさら。その中で実質的な公的企業と言われるほどである遊戯公社は政府から常に保護されている。そこへ投資すれば一見、安牌そうに見えるが。
「癒着して好き勝手できるということは、自省が利かないということでもありますね。内々で小さい問題を誤魔化しているうちにより大きな問題となって噴出することもある、と」
「そうね。あと普通に投資家への配当が少ない。利益を自分たちで独占したがるから」
そもそも投資という概念を理解できるのかも怪しいな、あの辺の人たち。「なんかお金くれるおじさん」くらいにしか思ってない可能性もあるぞ。
「デッドインクでデスゲーム業界を見てきたアドバンテージを活かして次の投資先を探すなら、日本のデスゲーム業界がいい。官民癒着型の遊戯公社、自分が幹部をしている会社の支社であるデッドインクジャパン、このふたつを除けば消去法でBR社しか残らない。そういうことですか」
「消去法と言ってしまうとあれですが、そうです。投資先として一番いいのはあなた方だと、ワシは判断します」
唐突な同業他社への投資話だが、企業でのリリーデン氏の立場の実態やデスゲーム業界を取り巻く情勢を考慮すれば、この通りそう不自然な話でもない。このあたりは社長が氏と会談を重ね、秘書さんが集めた情報と統合すれば必然的に見えてくる話だ。
だから問題は。
「気になるのは、なぜ最後の決断に私との面会を欲したのか、です」
「……あ、そういえばそうですね」
四辻のやつ忘れてやがったな。
氏の投資話は社長との協議でほぼ決まっている。後は投資金額の多寡を詰めるだけ。その判断材料に私との顔合わせをリリーデン氏は望んだ。いったい社長が何を話したのだか知らないが、氏はどういう理由で私を判断材料にしようとしているのか。
「あなたがたの社長さんは何か大きな目的を持っている」
リリーデン氏が語る。
「あの人の目は、デスゲーム業界よりさらに先を見ている。ワシにはそう感じられます」
「…………」
大いなる目的。
「ですが、それは普通にありえることでは?」
四辻がくちばしを挟む。
「別の業種でスキルとキャリア、それから資金を貯めて別の業種でチャレンジするというのは一般的な起業家の挙動に見えますが」
「つまり、うちの社長が一般的でない動きをしていると、リリーデンさんには見えたということですね」
考えてみれば分かる話。
四辻の想定した起業家の挙動はありうることかもしれない。だがそのための第一手がデスゲーム業界というのがもうおかしい。スキルとキャリアと資産を蓄える場に選ぶべきではない。なにせデスゲームは日本にとってはまったく新規の業界だったのだから。
いうなれば起業家としての出発点ではなく終着点こそがデスゲーム業界のはずだ。スキルとキャリアを結実させたところに新規的なデスゲーム業界での起業が発生する。
「妙な話ではあるんですよね。社長ほどの才覚があるならデスゲーム以外のことでいくらでも成功できたはずです。というか日本という沈みかけの泥船に乗ってないで、さっさと海外へ逃げればいい。あの人はそれができる。でもそうしない。なぜか」
「いや室長は社長を過大評価しすぎですって。あの人はそんな大それた人間じゃないですし、それを差し引いてもたかが日本の実業家が外国で成功するはずないでしょう。縁故主義と人治主義と選民主義で守られて初めて商売できるのが日本人実業家ですよ?」
「…………」
それには私も同意するところだ。実業家にろくなやつはいない。それはデスゲーム業界でなんの後ろ盾もないところから起業し、比較的ホワイトな今のBR社を作った社長だって同じ。そもそもろくでもないからデスゲームの企画運営なんてものを仕事にできるのだ。
「そういや、シカバナさんの部下に社長の親戚がいると聞きました。ひょっとして彼が?」
「はい。彼――四辻印は社長の甥にあたります」
だから縁故主義云々は同族嫌悪と自己嫌悪でしかない。「僕は選ばれた人間だ!」とはっちゃけられない性格に生まれついたのが彼の不運だ。
「私の企画資料室には現在、部下は彼しかいません。大人数が必要な部署でもありませんし。私としても甥の面倒を見る代わりに部長クラスの待遇へ出世させてもらえたので文句もなく」
「いや僕が室長の面倒見させられてると思うんですけどね」
それはともかく。
「ワシはどうも、社長の動きはキナ臭い思っとります。危なっかしいというか……」
「危なっかしい?」
「投資すると巻き添えで責任取らされそう、ちゅうことです」
その辺の直感は、さすがに働くらしい。
「デスゲームの企画運営で得たスキルやキャリア、そして大量の資金を使ってやることが危なくないはずもないですからね」
「そこです。社長がシカバナさんを推した理由は」
リリーデン氏が我が意を射たりとばかりに膝を打つ。
「社内で社長の見据える先に疑いを持っとるのがシカバナさんだけやと、社長が言っとりましたよ」
「………………?」
素直にハテナだった。
どちらかと言えば私は社長に妄信追従型だと思うが。まあ社長のシンパってわけではないけど。考えるのも面倒だし、社長の作る流れに乗って仕事してればいいやくらいには思っている。
私にデスゲーム業界や日本社会を憂う気概はない。面倒だし、その義理もないのだ。だからこそ就活難の果てにたどり着いたという事情こそあれ、十年経っても転職せずデスゲーム業界に居続けている。
BR社の社員なら資格などなくても好きなところに転職し放題と言っても過言ではないのにね。長い就活という旅のゴールがここだ。私にとっての終着点。足も棒のようになって動きたいとは思えない。
「他の社員はデスゲーム業界で働き続けることばかり考えとる。あるいは自分たちこそが勝ち組だと思っとる。社長はその中でシカバナさんだけが違うと言っとりました。だから興味が出たんです」
「単にサラリーマンらしくないだけでは」
十年働いていい年になっても労働者としての雰囲気を身につけられていないというだけの気がする。
「それで、リリーデンさんから見てどうですか?」
「正直まだ分からないね。回転寿司食べただけだし」
それはそう。
いやじゃあこの会食なんだったんだよ。
「だからこうしましょ。今、シカバナさんが抱えてる問題の解決をワシがお手伝いします」
「それは――――」
「その手際で判断しましょ。ワシ、まだしばらく日本におるし。シカバナさんの問題、もうすぐ解決まで大詰めでしょう?」
「私の問題ではないんですけどね。しかし助かります。リリーデンさんのお力添えがあるなら、問題は早急に解決するでしょう」
今はそれでよし、か。
そもそも何度も言うように、私は営業の人間じゃない。投資を引き出せってのが無理な話だ。それを次の機会へ持ち越せただけ良しとするべきだろう。
相変わらず、社長は何考えてるか分からないな。とはいえ、あの人の言う通りにしてれば大抵うまくいくから不思議だ。だから余計周りにイエスマン集まっちゃうんじゃないの?
「ふー。しかし気づけばずいぶん食べましたね」
「そうですね」
テーブルには皿が山と積まれていた。食べた量を可視化するのも回転寿司の特徴のひとつだ。大人にとってはカロリーと値段が気になるところだが、子どもとかだとむしろ競って皿を積み上げるだろうな。
だろうなというか、積み上げていた。少なくとも子どもの頃の私は。
最後に家族に会ったのは、いつだったか。年末年始もお盆も休めるのに仕事が忙しいとウソをついて、まったく実家には帰っていない。
帰ったところで楽しくないし。新幹線代で美味しいものでも食べていた方がいい。ああでも、駅弁ってやつには憧れるな。
「じゃあ〆にデザートでも食べましょうか」
「いいですね! ワシはケーキにでもしようかな」
「……まだ食べるんですかこの人たち」
どうせ社長のおごりなので、呆れる甥御の四辻を無視して私とリリーデン氏は注文を取る。
たまには皿を積み上げるのだって悪くはない。仕事中でも、大人でも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます