中編:回る寿司こそ勧めてみせろ
「おはつにお目にかかります! ワシはリチャード・リリーデン言います。よろしゅう」
「どうも。BR社の
同日、夜。
私たちが散々警戒する
リチャード・リリーデン。
秘書さんからの情報によると、米国資本のデスゲーム企画運営会社、デッドインクの上級役員である。年は私と同じくらい。
出自は中国系のアメリカ人ということで、見た目には私たち日本人とほとんど変わらない。いくつかの方言が混じったようなおかしい日本語も発音自体は淀みがないので、指摘されなければ彼が生粋のアメリカ人であることに気づくのは難しいだろう。
「おー、しかし噂に聞いとりましたが、シカバナさんは背が高いですね」
「ヒールのある靴を履くと180を超えますから」
かくいうリリーデン氏はやや小柄の部類で、四辻と同じくらいの背丈。ギリギリ170というところか。アメリカに住んでいるからといってみんながみんな山のように大きいわけではない。
アメリカ人、しかも大手企業の役員ということで身構えていたが、彼は威圧感やプレッシャーとは無縁の人物だった。スーツは特別、柄ものだったり目立つ色合いだったりはしない、きわめてオーソドックスなもの。髪も短く刈り込んでいる程度。アメリカ人の実業家はジョブズみたいにカジュアルな格好を好むものだと思っていたが、偏見か。
「立ち話も落ち着かないことですし、お店にご案内します」
「お手柔らかに。高いところは緊張しますねん」
それは、秘書さんの情報に記載されていた。氏は一代で今の地位まで上り詰めた叩き上げで、生まれながらの金満家というわけではない。むしろ貧困家庭の出身。成り上がりのアメリカンドリームだ。
分かってて高い店に連れまわして反応を伺っていたらしい社長の性悪には言いたいこともあるが、私が欲しい情報を手に入れるためと思えば文句を言うのも筋違いか。
「室長」
後ろから四辻が声をかけてくる。
「本当に大丈夫なんですか? 結局、僕はこれからどこへ行くか聞いてませんでしたが」
「
「室長の采配だから心配してるんですが」
部下に信頼されてないなあ。
「おー、君も今夜向かう場所を知らないと?」
リリーデン氏が四辻に話しかける。
「随分期待させやがりますね」
「失礼。申し遅れました。私、四辻と申します」
折り目正しく挨拶をし、彼は話を続ける。
「このたびは我が社とこのような機会を持っていただき、感謝しております」
「真面目ですね、彼は。いかにもリーマンらしいやないか」
「頭でっかちなだけですけどね」
私たちは駅前から歩き、目的地に向かう。郊外のどうということはない駅のひとつだ。駅前のロータリーは閑散として、人の出入りも少ない。
その分、尾行の存在は目立つわけだが。今のところ、それらしい影はなし、と。ま、あいつらに私たちを尾行する脳があるとも、思えないか。
「リリーデンさんはデッドインクの上級役員ということですが……」
四辻がさらに突っ込んで聞きただす。
「このたびはまたどうして、我が社への投資を検討していただけたのですか?」
そう、当然の疑問だ。デッドインクの役員というのなら、同業他社であるBR社への投資というのはおかしい。デッドインクの業績が上がればそれは必然的にBR社を逼迫する。逆もしかり。ルーレットで偶数と奇数のどちらにも賭けているのと、やっていることは大差ない。つまり意味のない薄張りだ。
とはいえ、それはリリーデン氏の肩書と表向きの情報だけを漁った場合の疑問に過ぎない。その辺の事情も、秘書さんが資料にまとめているし四辻は読んで理解している。彼はあえて初歩的な疑問を呈することで認識をすり合わせつつ、氏に気持ちよく喋らせようとしている。人間誰だって教えたがりで自分語りも大好きだ。
「上級役員と言っても、ワシは名前だけですからな」
からからと笑って、氏は頭を搔く。
「アメリカでも日本でも、金持ちは嫌われるじゃろ? ひとつふたつならともかく、いくつも投資して全部成功してると体裁悪い。だから役員ということにして、給料扱いで投資の利益貰っとるんです。タックスは取られますがな。イメージ悪くする損失に比べれば安いね。金持ちが税金多く払っとると印象も良くなるし」
「本職は銃器販売でしたね。カスタムガンメーカーの営業職だったとか」
「そうなの。アメリカ銃社会だからくいっぱぐれないです」
彼の最初の仕事がそれだ。蔓延するコロナや吹き荒れる排外主義の嵐に乗じ、アメリカでは
「『メキシコ国境に壁を作れ』と言ったほどの排外主義者があやわ再び大統領になるかという時代。そうでなくとも銃規制を求める声と銃武装の権利を叫ぶ声が衝突する時代に、それほど先見の明を持って動いたというのは驚嘆します」
「褒められると嬉しいね。でも見抜いたんじゃないです、賭けです」
勝負は三回。
まず国内の銃規制が強化された。アメリカは州によっても銃規制のルールは変わるが、全体的に規制方向へ動いた。銃の攻撃力を増大させる種々の違法すれすれの改造パーツはもちろん、弾倉の装弾数も厳しく制限される。
「それは僕も聞いたことがありますね」
四辻は微妙に世代ではないはずだが、記憶していたらしい。
「多くの銃器メーカーがガンマニアを煽って改造パーツを売り逃げしようという時節に、逆にそうしたパーツを取り付けたために後々違法扱いされるような銃を適切な状態に戻し、マガジンの装弾数も制限させるカスタムパーツを売り出したことで注目を集めた人がいたと。リリーデンさんのことでしたか」
「どうだろね。ワシみたく考えたバイヤーは他にもいたと思います」
ひとつの勝負に勝つ賭博師なら、いくらでもいる。勝ち続けるギャンブラーこそ異才だ。
「最初の勝負でたくわえを作り、次の勝負で大きく出たわけですか」
二度目の勝負は、日本。
日本で以前、銃刀法を改正し銃をアメリカ並みに持てるようにしようとしたことがあった。ここで言う「アメリカ並み」とはその当時の――つまり既に銃規制の波が押し寄せていたアメリカを基準にした物言いではない。日本人にとっての漠然とした、誰もが銃をぶら下げている西部劇さながらの米国イメージを指しての「アメリカ並み」である。
当然これは、全米ライフル協会などといった銃器業界への米国政府のおべっかだ。日本という別の市場を開拓するので、アメリカでの銃規制は勘弁してください。これにより政治家は銃規制を求める市民の支持を得つつ、銃器業界からは変わらぬ支援を受けられる。
どうして米国政治家の策謀に日本が使われているのかは、説明の必要ないよね? 「アメリカ51番目の州」という言い回しは皮肉でもなんでもなくただの事実だ。
「ただの逆張りですねん。みんなが黒に賭けたから、ワシは赤に賭けた」
当時の銃器業界は日本が市場を拓くものと決め打って準備をしていた。リリーデン氏はだから逆をした。結果、狸の皮算用で大損をした人々の中で、損をしなかった氏が浮いて出た。ときには勝つことよりも負けないことの方が大事、ということ。
「しかし室長、よくそのあたりの事情を知ってましたね」
呆れたように四辻が言う。
「食事とデスゲーム以外のことはからきし興味がないのに」
「まるで私がデスゲーム見ながら食事するのだけが趣味のアラフォーみたいに言うんじゃない」
「みたいというか事実でしょう」
「別にデスゲームには興味ないから」
食事にも興味があるわけではないが、そこを言うと今回の会食がどっちらけなので。
「それに、デスゲームと無関係というわけでもないし」
「おー、そうね。ワシ、その後にデッドインク入りました」
三回目の勝負が、それだ。二度の勝負でウェポンディーラーとして、またそれ以上に投資家として頭角を現したリリーデン氏は、次の狙いをデスゲームにした。
「銃規制の推進はどちらかと言えばリベラル寄り。当然、普通はそんな政治状況でデスゲーム合法化がアメリカで起きるなんて思いはしないものですが」
「四年もあれば世界は変わるね」
バックラッシュ。
いわば揺り戻し。二大政党制であるアメリカは、このあたりの動きが分かりやすい。リベラル的な政治が四年続いたことで、保守回帰への反動が強くなった。ちょうど、アメリカ初の黒人大統領が出た次に、「偉大なるアメリカ」を取り戻す実業家白人男性の大統領が生まれるように。
「つまり銃規制の動きが進む中で情報を集め、その兆しを見出したと」
「そんな難しいことじゃないです。これこそ逆張りね。というか、ワシお金あったから投資失敗しても痛くなかったですし」
アメリカでは銃規制の動きこそが強烈な反動を生み出した。その結果がデスゲームの合法化。アメリカで合法化のモデルケースが誕生したことで、日本でも次第にデスゲーム基本法成立の機運が高まる。銃規制とデスゲームは、無関係なようで実は直線上にあるものだ。
「話が飛んだり跳ねたりしたんやが、つまるところワシ、デッドインク関係ないです」
リリーデン氏がおどけて笑う。
「ただの投資家やしね。だからわしがBR社に投資しても問題なし。特に日本のことやから」
「ご検討いただき感謝します」
とはいえ、デッドインク本社には内密なんだよなあこれ。氏もあくまで日本支社の視察で来ているという名目で、実際視察の仕事もしているのだ。だからこんな夜に会食を持っている。
同業他社への投資は両賭けに過ぎない。たとえ片方がアメリカに籍を置き、日本支社の業績悪化の影響をダイレクトに受けないとしても。デスゲーム業界が切磋琢磨して互いに成長することもありはするが、黎明期ならともかく安定期の今は両賭けするほどの両者成長は見込めまい。
ただの投資話、ではないよなこれ。どうにもキナ臭い。リリーデン氏が何を望んで何を企んでいるのか、できるだけ探る必要はある。まあ、投資の件を既にほぼ決めているというのが社長の言伝なので、投資を受けること自体に害がある状況でもないはずだが。
「着きましたよ」
「おー、ここが!」
私たちは、目的の店に到着する。
そこは――――。
「いや、ちょ、えええ……」
唯一、四辻が戸惑いの声を出す。
「ここ、一般的な回転寿司じゃないですか!」
まさしく。
四辻が指摘するように、私が今回の会食場所に用意したのは回転寿司である。
回転寿司。
一般的なチェーン店。高級志向の店も中にはあるが、今回選んだのは基本一皿一二〇円のごく普通の回転寿司だ。無論、ここは北海道や築地豊洲のように新鮮な魚が入ってきやすい土地柄でもないから、実は活きのいいネタが、ということもない。
「オスシ! いいね! 実はワシ、前々から食べたいと思ってたです」
「聞き及んでいましたので、ご用意しました」
「いや、いやいや……」
渋る四辻を無視して、私たちは店内に入る。時間は夕食時からやや遅いため、客の入りは少ない。ま、平日の夜ならこんなものだろう。
タッチパネルで人数を入力し、指示されたテーブルに向かう。
「室長、本当に大丈夫なんですか?」
「なにが?」
しつこく四辻が聞いてくる。
「まさか室長、『ガイジンは回る寿司に感動するはず!』とか思ってませんよね?」
「どんな偏見なんだか。それこそ私が大学生くらいのころに流行った外国人にスゴイスゴイ言わせるテレビ番組じゃないんだから」
今はあまり、そういう番組は流れない。わざわざ外国人に賞賛させなくとも、日本が素晴らしい国だって国民みんなが知っているからだ。
「ちゃんと、秘書さんから情報をヒントに考えたって。それに私、生魚嫌いだし」
「じゃあなおさら寿司なんて選ばないでしょうに」
おやおや。
四辻くんは回転寿司というものを理解していないらしい。
私たち一行は店内の片隅にあるテーブル席に座る。リリーデン氏を正面に、私たちが相対する形だ。私は話すのに集中したかったし、いちいち取るのが面倒なので四辻をコンベア側にした。
「まるでアミューズメントパークね。日本では寿司が回ってると聞いてましたが、実物を見るのは初めてです」
リリーデン氏の驚嘆は、私も理解するところだ。実際、寿司を最初に回そうと思ったやつはフグの毒を避けて食べる方法を発明したやつと同じくらい偉大だ。普通、鮮度が命の寿司をコンベアで回そうとは思わない。衛生的な問題が頭に浮かぶはずだからだ。
「僕は久々ですが、いつの間に寿司に蓋なんて……」
四辻も感想を漏らす。彼の言う通り、コンベアに載せられた寿司には半透明のドーム状の蓋が付けられている。
「以前からあったよ。ある時期をきっかけに全部の店で採用されるようになったけど」
昔、回転寿司で悪戯をしたやつがいたのだ。寿司を舐めて戻したのだったか醤油を舐めて戻したのだったか。回転寿司業界は大打撃を負った。中には回転寿司チェーンの株を空売りするために誰かが仕掛けたのではという陰謀論を言うやつもいた。真偽は定かではないが、実際、ネット全盛の社会で株価を操作しうる可能性は示したわけだ。
そのころは寿司を回すのをやめてすべて注文方式にしたりと頑張ったが、結局ほとぼりが冷めて元に戻った。ある程度衛生対策は厳重になったが。のど元過ぎればというか、これほど大仰なコンベアを用意して使わないわけにもいかないのだろう。
不安と文句はありつつも、四辻は気の利く部下だ。席に着くと人数分のおしぼりと醤油皿、箸などを用意する。
「テーブルに蛇口がありますね。なんじゃろな」
「そこで手を洗うんです」
「洒落にならないこと言わないでください。やめろ、マジで」
そろそろ部下のキャパシティが限界そうなのでふざけるのは止めにした。形通りの儀式も終わったことなので。
食事と行こう。
「好きなものをお取りください。一皿ずつがマナーです。ここの会計は社長が持つそうですので、お気になさらず」
「それでは遠慮なく」
リリーデン氏が手にしたのは、黒い大仰な皿に一貫だけ載せられたマグロの寿司である。ちらりとテーブル横のキャンペーンメニューを記したシールを見ると、期間限定の漬けマグロだのなんだの。一皿二三〇円税別。いろいろ言った割に、高いものへの嗅覚が鋭い。
あるいは。
「漬けマグロってなんだっけ?」
「醤油やみりんで調合した煮切り醤油に漬けたマグロです」
私の疑問に四辻が答える。
「ふうん。生ではないと」
「いや生の定義にもよりますが。軽く湯通しはするそうですが、中はほぼ生では?」
とはいえ、味をあらかじめ漬けているのなら多少は、どうかな?
「まあいいや。私にも何かちょうだい」
「室長は生ダメでしたね。これでも食べていてください」
ひょいと、玉子が置かれる。うーんオーソドックス。
それでは。
「いただきます」
「いただきまーす!」
氏はさっそく手づかみで寿司に挑みかかる。箸はさすがに使い慣れていないのか、寿司は手づかみで食べるものと思っているのかは微妙なラインだ。
かくいう私は、さすがに手づかみというわけにもいかない。箸で玉子を一貫取り、口に運ぶ。
基本的に形を整えるのが面倒この上ない玉子料理において、いかにも基礎基本ですという
そういうわけで、オーソドックスで何の捻りもない玉子寿司だが、こういう機会でもないと食べられない類の料理だ。玉子焼きなんてそれこそ居酒屋と寿司屋くらいでしか頼むチャンスはない。そしてどちらも自分でわざわざ出向く種類の店じゃない。酒は飲まないし生魚も嫌いだ。
四辻のチョイスは適当なようでいて私の欲しいところを突いている。
玉子焼きをシャリの上に載せ、海苔を巻いたシンプルな握り寿司。玉子が高級品だった昔ならともかく、鳥インフルエンザ等の要因で高騰することこそあれ基本的に一般食材となった現代ではそこまで際立つ寿司ではない。
回転寿司のものならなおのこと。
しかししっとりとしてふわふわの玉子焼きは、やはり美味い。たぶん冷凍のものだろうとは思うが、きちんとしたサイズ感と形状を保っているなら文句はない。この前買った冷凍食品の玉子焼きはお弁当用ということを差し引いても珍妙な形だったからなあ。なんだよ立方体って。
正直なところ、玉子焼きと白米の相性は優れているわけではない。甘いにせよしょっぱいにせよ、ご飯をかきこむほどのエネルギッシュさを玉子焼きは持ち合わせていないからだ。ソーセージと玉子焼きの朝ご飯は王道だが、あれは牽引役をソーセージが引き受けているのであって、玉子焼きはあくまでバランサーだ。
だが、寿司となると話は違う。やや冷たいくらいの玉子焼きはそもそも、食を進ませるようなものではない。そして寿司それ自体、食欲を増進させて次へ次へと私たちを引っ張ろうという類の料理ではない。ゆえに玉子焼きの白米との相性の悪さは、気にならなくなる。
そこへ同じく冷たいくらいの酢飯。シャリは固くなく口に入れて噛めばほどける。酢は味を感じず、風味に残る程度。しかしそれが、薄く甘いだけの出汁が利いているわけでもない玉子焼きには合う。
寿司屋の実力を見るなら玉子を頼めという話を聞いたことがある。私は実力を計れるほどの寿司屋に赴いたことがないので定かではないが、なるほど。端役に感じられる玉子にこそ、寿司の真髄があるのかもしれないと思わせる。
まあ真髄見えないんだけどね。あるかもと思うだけで。私、生魚食べないから寿司も食べる機会少ないし。
「ふむ」
いや、私が回転寿司を堪能しても仕方ないな。リリーデン氏の様子は。
「…………」
おやおや。
果敢にも漬けマグロに挑戦した氏だったが、しかし結果はあえなくという感じらしい。
「失礼、うーむ……」
「四辻くん、お茶お茶」
隣の部下に急かしてお茶を出させる。湯呑を受け取ったリリーデン氏は一息にお茶を飲み、口の中の寿司も一緒に飲み込んだ。
水の方がよかったかと思ったが、杞憂か。氏は日本茶の方は飲み慣れていたらしい。この辺、やっぱり私は気が利かないよな。
「ちょっと失礼しましたね。どうも、この……」
「やはりお口には合わなかったでしょうか」
「え?」
四辻が驚いたように私を見た。
「リリーデンさんが寿司を所望していると社長から聞き及んでいました。しかし一方で、魚介類を生で食した経験もないと」
秘書さんの情報だ。氏は生粋のアメリカ人で、日本食を食べた経験は少ない。元貧困層の出となれば、どうしてもそういう『変わったもの』を食べる機会は減るし、そうなれば大人になって食べようとしてもなかなかハードルは高い。文化資本の差、と表現すると大げさだけども、予想はできた。
リリーデン氏が最初に高い漬けマグロの皿を取ったのは、高級品に鼻が利いたという以前に、通常一皿二貫ずつの回転寿司の中で一皿一貫のメニューだったからだろう。二貫だと食べられなかったとき始末に困るが、一貫なら今のようになんとか飲み込むことはできる。当人自身、生魚が口に合わない可能性は考慮していたようだ。
「それを分かっててなんで寿司に連れてきたんですか」
四辻が眉間にしわを寄せる。
「だって、リリーデンさんは寿司が食べたいって言うから。外国人だから生の魚介類は食べられないだろうと決めつける方がよっぽど失礼でしょ」
「そうは言っても、食べられないならどうしようも……」
「その点は大丈夫。だからここに来た」
考えなしに私は回転寿司を選んだりしない。
私もリリーデン氏同様、生魚を食べられないのだから。つまり、その経験からどういう店が氏の寿司を食べたいという欲求と、食べられなかった場合の保険を両立するかを、知悉している。
「四辻は回転寿司、久々に来たんだっけ。いつ以来?」
「さあ……。よく考えら最後に来たのはいつでしょうね。案外、僕の記憶違いで来たことないかもしれません」
そのレベルか。
「じゃあ注文。タッチパネル操作して」
本当は流れてくるのを待っていたかったのだが、やはりあの手の寿司は回転していないケースが多くてね。
「注文ですか? 何を?」
それはもちろん。
「生ハムだ」
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