第二食:寿司を回して話も回せ
前編:接待、面倒な彼のもの
別に大した用件ではなかったけれど、しかし私の職務上、ズボラのできないことだった。
ゆえに今日は午前中、国会図書館に入り浸っていた。調べもの――というほど大仰なことじゃない。ネットで検索すれば分かることで、別段デマを書かれるような類の内容でもないからまとめサイトの内容を伝えたって困りはしないのだ。ただまあ、私はそれ以上の知識と調査能力を持っていることが今の立場上求められているので、そういうわけにはいかない。
それに、オフィスに入り浸るのも飽きるので、たまには外に出て仕事がしたい。
午前中に知りたいことの裏取りは完了し、オフィスに戻る段取りとなった。昼食は途中で適当に食べるつもりだったが、これという決め手に欠いたためここまで食べずじまいだった。このまま乗り換えればオフィス最寄り駅まで一直線だ。オフィス街にだって食事処はあるけれど、せっかく外へ出たのだから別のものが食べたい。
そんなことを考えているせいで、余計に食事選びに困るわけだが。
「仕方ないか」
これがまったくのプライベートならどこまでも悩んでいられるが、今はそうもいかない。適当に何かを食べて戻るべきだ。
私は目についた立ち食い蕎麦屋に入った。近くにはファストフードの店もあったけれど、まだ寒い今日は温かいものが食べたい。
ICカードを当てて食券機で注文を取る。食券を取り、適当に席を探した。この店は機械で注文を取れば、自動的に厨房へそれが伝わる。食券は用意された蕎麦と入れ替えに渡すのだ。
昼時、よりはやや早いのでまだ店内は空いている。立ち食い蕎麦屋ではあるけれど、カウンターのきちんと座れる席もある。まあ、座り心地の悪いどうにも落ち着けない狭苦しい場所だけど。こればっかりは仕方ない。
食事の時はコートを脱ぎたいのだが、それも叶わない。私は食事にさしたる興味もないとはいえ、こういうせかせかしたのは好きじゃない。世のサラリーマン諸氏はこんな店でよく食事ができるものだ。
厨房正面のディスプレイに番号が映る。私の食券の番号だ。立ち上がって蕎麦を取りに行く。
選んだのはコロッケ蕎麦だ。
なんで私、これにしたんだっけ?
「いただきます」
割り箸を取って、蕎麦を一口啜る。
うん。
美味くはない。
普通の蕎麦だ。なんなら普通の蕎麦より悪いかもしれない。私が自宅で乾麺から茹でたのと何の違いもありはしない。コシがなくクタクタで、風味もない。
メガネが曇って視界が塞がる。目の前の蕎麦を食べるのに支障はないのでそのままにした。メガネ外しても、どうせ見えないし。
レンゲでつゆを掬って一口飲む。これも、どうしようもなく普通以下。醤油の味くらいしか感じない。
コロッケを箸で掴み、口に運ぶ。このコロッケも、どうということはない。揚げ物だから極端にクオリティが低いということもないけれど。蕎麦のトッピングとしてはなんら調和を生じさせていない。ただ置いただけ。
冬の外気で冷えた体に温かい蕎麦。もう少し美味しいと思ってもよさそうなのに、まったく美味しくはない。
「こんなものか」
就職して十年、いい加減に自分が食事に求めるものを理解できるようになった。
私が何かを美味しいと思うとき、そこには単なる味覚以外の要素が強く影響しているらしい。元来、味覚はかなり鈍い
私が食事で――特に外食で求めるのは体験だ。それに気づいた。
例えば深夜のファミレス。子どものころから妙な憧れのあった状況での食事は、私にとって好ましい体験に違いない。気分じゃないハンバーグだって箸が進むくらいには。
逆に今食べている立ち食い蕎麦。せっかく外で食べているのにクオリティは自分が家で作るのと大差ない。これじゃあ、外食の体験としては弱い。
ああいや、そう考えると味も体験を語る上で大切な要素なのだろうか。うーん、分かった気になっているくせに、いざ言葉で整理すると分からなくなる。
適当にそんなことを思いながら蕎麦を食べていると、隣にコート姿らしい女性が座った。もう私の隣くらいしか空席がないのだろうかと思ったが、店内を見渡してもメガネが曇って何も分からない。
「
「おっと」
店内の空席状態は関係なかった。私に用のある人だ。
しかもわざわざ第一声に社長からの用件だと伝えるとは。そうしないと私が話半分にしか聞かないのをよく理解している。つまり。
「秘書さんですか」
「名前、覚えてください」
「今メガネが曇っていて」
「胸元の社員証で確認するのはナシです。というか社外なので社員証はぶら下げていません」
どのみちコート着てたら見えなかっただろう。
「今、我が社が内密に進めている
「噂くらいは」
「今晩、その方と会食を持ってください。そして投資の件の確約を得てください」
無茶しか言わねえ。
「それ、営業の仕事ですよね。私は企画資料室の人間なんですが」
「噂を聞いているならご理解しているはずです。営業課を
「ああ」
それで営業や渉外から縁遠い私にお鉢が回ってきたと。ついでにオフィスから遠いこの立ち食い蕎麦屋が連絡場所に選ばれたのもそれか。
「でも私、この手の交渉は苦手ですよ。社長がわざわざ名指しでご指名ということは、既にほとんど投資の件は決まっている感じでしょうけど」
「はい。既に交渉は九割方終わっています。ただひとつ、相手方があなたを指名しています」
「ん?」
どういうことだろう。ピンとこないが。
「相手方と社長の間で協議が持たれた際、あなたの存在が話題になりまして。先方は興味を持ったようです。あなたの人柄を見て、投資の多寡を決めるとおっしゃっています」
「えー」
「つまり正確には、より多くの投資を引き出すために会食を持って、相手方に気に入られてください」
クソほど無茶をおっしゃる。他人に気に入られるのがブレイクダンスの次に苦手な人間だぞ、私は。
メガネを外して、ポケットから取り出したクロスで拭った。
私の席に封筒が置かれる。
「先方の資料はそちらに。経歴から趣味嗜好まで可能な限り調べてあります。なにぶん急な話で店の予約もままなりませんが、社長が懇意にしている飲食店もリストアップしてあります。そちらに電話をすればすぐにでも場を用意してもらえるでしょう」
無茶しか言わないくせに、それを「後はお前の腕次第な」と言い張れるだけの状況を作るのも上手いのが社長だ。
「経費精算は結構。後日社長が出しますので立て替えてください。これはあくまで個人的な会食であり商談の類ではない、というのが社の見解です」
「私が適当な額を言ったらどうする気なんですかね」
「あなたにはそんなせせこましいことができないと、社長は理解しております」
「さいですか」
「ではくれぐれも、
「
秘書さんは用事が終わると、霞のように消えた。食事の跡すら、隣のテーブルにはまったく見当たらない。私が見た幻覚だったんじゃないかと思えてくるくらいだ。
接待とか面倒だが、仕事だ。
しかも社長から直々の要請とあっては断れない。
私は適当に蕎麦を食べ終えて、店を後にした。
「君はいずれこの業界で大物になる」
電車に乗ってオフィスに戻る途中、思い出すのは社長の言葉だった。
十年前、入社式の日に言われたこと。
ぶっちゃけ、入社してしばらくのことは覚えていない。記憶がない。私の記憶が再開したのは、夏のボーナスが出たころくらいがようやくで、入社面接からそこまでの間の記憶は抜け落ちている。
断片的に覚えていることは、ないではない。そのひとつが、社長の言葉だった。
「お世辞ですか」
不思議と、その時何を言い返したのかもはっきり覚えている。
「社員におべっかを使う理由ないよ。それにほら、他の二人には言っていない」
それはそれで角が立つのだが、当時の私はそこで会話を終えた。
社長があの日、私を指してあんなことを言った理由は分からない。何をもって私を評価したのか。実際、十年経って私は大したことをしていない。妙に堅苦しい肩書が増えて、給料がよくなったくらいだ。まあ、待遇には満足しているけども。
電車を降り、駅を出て五分も歩かないで我がBR社の入ったオフィスビルに到着する。ビル一棟丸々がオフィスという贅沢な造り。しかし羽振りがいいのではなく、デスゲームの企画運営という都合上、他の会社と建物を共有するのが難しいだけだ。設立当初から十年ほどは、家賃の支払いに苦慮したという。
ふむ。
そう考えると、十年というのは人も組織も、背伸びした場所にたどり着くくらいの年月ということなのだろうか。私はそろそろ、社長の期待する場所に足を掛けられるだろうか。
オフィスに入り、エレベーターで上へ。私の根城、BR社企画資料室にたどり着く。
「遅かったですね、室長」
部屋に入ると、皮肉めいた声色の第一声だ。
「サボってそのまま帰ってこないかと思いましたよ」
「君は私を何だと思っているのかな」
「昼行燈でしょう」
言って、彼は銀縁の線が細いメガネを押し上げた。未だにスーツに着られている感のややある立ち姿だが、もう三年も経つからそろそろ学生らしい気配が抜けてサラリーマンらしくなってきている。
「僕に仕事を押し付けて外回りですか。いい気なものですね」
「仕事だって。国会図書館行ってたから」
この可愛げのない後輩が私の唯一の部下、つまり企画資料室の人員である
「今日も黄泉路課長、来てましたよ」
テーブルに置いた資料を片付けながら、四辻はため息を吐く。
「室長が間の悪い宿命の人間なのは理解しますが、なんで毎回黄泉路課長が来るタイミングでいないんですか。あの人困ってましたよ」
「あいつは困らせておけばいい」
「そろそろ本気でキレますよその調子だと」
「それは困る」
私は自分の執務机に鞄を置き、コートを脱いだ。
「私がいない間に、何か仕事が入った?」
「資料室としては何も。来週の面接の予定表ができたのでメールで送ったそうです。確認してください。それから経理から『バーガーサーカス』の先週の活動について。報告書は受理したと」
「了解」
書類仕事は面倒だなあ。
「ところで室長。今まで聞きそびれていたんですが」
「ん?」
パソコンを開いていると、四辻が尋ねてくる。
「『バーガーサーカス』ってなんですか? 室長、昔はファストフード店で働いていたって言ってましたし、それがらみの?」
「んんん?」
あれ。
言ってなかったっけ。
「BR社の部長クラスにはふたつ、通常の役職とは異なる権限がある。その話は聞いたことある?」
「ええ。入社時の研修で聞かされましたよ」
私も聞かされたらしい。記憶がないけど。
「我が社の部長クラスには、自身が自由にデザインしたデスゲームを開催する権利が与えられる。だから出世できるよう頑張れと発破をかけられましたよ」
自由なデスゲーム開催権。まさに、デスゲーム会社に就職するならこれくらいほしい、という感じのボーナスだ。
デスゲームとは言い条、商売であるからその企画には様々な思惑が絡むことになる。いくら私がリアル鬼ごっこを開催したいと言ってみても、それで収益が見込めないなら開催は不可能。
しかしこのデスゲーム開催権は、そうしたしがらみを無視できる。収益もビジネスも何もかも関係ない。ゲームの内容から参加者まですべては企画者の思うがまま。リアル鬼ごっこが開催できる! バトルロワイヤルでもいいけど。
「もうひとつは私兵部隊の指揮権。警備部に属する部隊のひとつが割り振られ、それらを自由に使うことができる。もちろん、あくまで仕事の範囲で、だけど」
こちらはボーナスというわけではなく、部長クラスが抱える案件の処理に必然的に武力が必要になるから与えられる権限に過ぎない。とはいえ、公私混同じゃあないけれど、その気になれば自分の都合をうまく丸めて職務のように装うことはできる。そのくらいのちちんぷいぷいは部長クラスまで出世すれば自然と身につくものだ。だから実質ボーナスに近い。
「私の場合は『バーガーサーカス』と呼ばれる集団を指揮する裁量権があるってこと」
「武装部隊の名前でしたか。たまに出前でも取っているのかと思いましたが、それにしては端々でおかしいことを言っている気はしていました」
「一応、違法な部隊の運用だから。他人に聞かれてもギリギリハンバーガーの出前を頼んでいると聞こえるよう配慮はしているわけ」
別に呼び方はどうでもいいのだが、私の引き出しにはこれくらいしかなかったので。
「というか、なんで部長クラスが有する権限を室長が持ってるんですか?」
「いや私部長クラスだし」
「室長なのに?」
「室長だけど」
企画資料室は企画部の一角に端を発する部署だ。本来は企画部の仕事を補佐するのが役割だったが、いつの間にか社内のあらゆる情報や資料を管理運用するようになった。そこで三年前、企画部から切り離して独立部署に再編。その折、私は室長になって部下として四辻が入ってきた。
「研修で教えられなかった?」
「何も聞いてませんが」
「そうか。時期的に研修内容が更新されてなかったんだな。後で人事部に伝えておこう」
まだ研修まで余裕のある時期でよかった。
「じゃあ室長、実は部長クラスだったと?」
そういうことになる。我が社の組織図は各部署の上に役員会があってトップが社長、くらいのシンプルなものだ。各部署の部長クラスは実質ナンバースリー。
「室長が社長に気に入られてるって話、本当だったんですね」
「気に入られてるのかな?」
「そうじゃなきゃその年で部長クラスにはならないでしょう。いくら我が社が新興企業だとしても、室長が入る前には設立から十年以上経ってたんですから」
つまり単純な話、私よりキャリアの長い十歳近く年上の社員がいることになる。ああ、まあ、そう考えると私が部長クラスなのはいろいろすっ飛ばしているのか。
「じゃあ室長もデスゲームの開催権を?」
「うんにゃ。それはまだ」
いかんせん、私は企画部の平社員から突然部長クラスまで出世した。出世というか、所属部署の再編の都合でそうなっただけではあるけど。そこへいきなり特別な権限ってのはさすがに与えづらい。業務上、必要性が高いから部隊の指揮権は先んじて与えてもらってはいたけど。
「ああそうそう。社長の話で思い出した」
私は秘書さんからもらった封筒を四辻に渡す。
「今晩暇? 社長から接待しろって言われちゃって」
「室長が接待? 人選間違ってません?」
「奇遇だね。私も思う」
封筒を受け取った四辻が中身をあらためる。
「なるほど、例の
理解の早い部下で助かる。
「だったらこのオフィスで話をすること自体まずいのでは?」
「あいつのシンパ、その辺にいるでしょ。隠しても意味ないよ。向こうに筒抜けだし、一方でやっこさんもこっちの妨害できるほどの状態でもない」
「そうですね。そのために黄泉路課長が頑張ってるんですからね」
四辻が言い終わらない内に、インターフォンが鳴った。基本的に我が社の各階層オフィスは開放的な造りをしているのだけど、曲がりなりにも資料室ということでここは基本的に閉め切っている。開放的にして泥棒に入られても困るし。まあ産業スパイが狙うほどの資料はないけども。
「失礼します。司書の方はいますか?」
入ってきたのは男性サラリーマン。年頃からして四辻と同年代らしく見える。私が小さいころベッカムヘアと呼んでいたような気のする、尖った髪型が印象に残るやつだ。
スーツに着られている感じの強い四辻と違って、彼はスーツが体に馴染んでいるような印象を受ける。それがどうというわけでもないけど。
そのサラリーマンは私たちを見る。その目は「なんか暇そうな人たちだな」という軽蔑の色がありありと浮かんでいた。私でも分かるくらいだからよっぽどだと思う。
「司書はいない。私は資格持ってるけど。ここには
「それは失礼しました」
辞書に『慇懃無礼』の実例として掲載できそうな態度をした彼は、私に尋ねた。
「資料を探しているのですが。三年前の――――」
「その前に所属と名前と日時。そこに書いて」
私は机の上に置いてあった利用者記録表を指さした。
「探している資料は五年前の経済雑誌の記事でして」
「『ビジネスマン』六月号の企業人インタビュー特集。三十七ページ。そっちの本棚の三段目にある。原本は持ち出し禁止だからそこのコピー機で記事はコピーしてね」
「それと――」
「記事中で挙げられた三冊の書籍なら逆。向こうの本棚にある。会談社新書須郷大覚著『海外文学で知るビジネス』は一段目中ほど。同じく榎本泰然『公安が見た共産党――手の届かぬ巨悪』は一段目最奥。飛鳥旧社編集部編『月刊HANAMARUセレクション』は三段目の、たぶんどこか。それらは貸出可能。貸出票に書いておいてね」
「…………」
「その三冊は書評記事も取ってある。電子化しているからそこの端末で検索すれば出てくる。本は読む価値ないけど、レビューは面白いから読んだ方がいいよ」
前から順に浅い、妄想、チリ紙以下だ。
「最近、私の他に同じ記事を探しに来た人がいましたか?」
サラリーマンが聞く。
「いや。記事は出た当時に読んだきり。保存場所は三年前に資料室の場所を変えたときに蔵書を整理したから覚えていた。そして仮に他の誰かが記事を探しに来ていたとしても、お前に教える義理はない。利用者の秘密を守るのも仕事だから」
「いえ蔵書の場所についてではなく、なぜ私がこの記事を求めているとお分かりに?」
「『五年前の経済雑誌』まで言われればサルでも分かる」
「……そうですか」
彼は記事を探しに本棚へ向かった。記録表を持って四辻が私に近づく。
「あいつ、出野内です。僕の同期らしいですね」
「らしいって。知らないの?」
「僕が他の同期と没交渉なの知っているでしょうに」
「はいはい。所属は?」
「営業部第六課です」
「行政対応メインのところかあ。じゃあ案の定だね」
しばらくして、営業部の出野内は記事をコピーして戻ってくる。
「それでは失礼しました」
「ああそれと」
そこで四辻が声をかける。
「デスゲーム基本法第二十三条には目を通しておくといい。必要になる」
「…………はあ。分かりました」
要領を得ないという感じで、彼は去っていく。
後に残るのはいつもの私たちだけだ。
「第二十三条って何?」
「デスゲーム企画運営企業の便宜供与禁止事項。簡単に言えば職務上の立場を利用して自分勝手するなよ、という内容ですね」
「そんな当たり前のことをわざわざ書いてあるのかあ、法律」
そういうものだろうか。
「ところで室長、あいつは――――」
「分かってる。お荷物のコバンザメでしょ」
「室長が気づいているとは思ってましたよ。まったく、それだけ勘がいいのにどうしていつもはぼうっとしてるんですか?」
「勘がいいんじゃない。観察力がいいんだよ」
そして他人より物事に気づきやすいと、損を押し付けられることも多い。冷蔵庫に放置された麦茶のポットを詰め替えたりとかね。
「彼のスーツは仕立てが良かった。うちは給料いいけど、あのスーツは三年目の新入りが買える額じゃないでしょ。彼もスーツにお金をかけるタイプじゃなさそうだし」
「そうですか? むしろカッコつけに見えましたけど」
「ならなおのことお金をかけるのは私服じゃない?」
「そういう考え方もありますか。というか室長、スーツの仕立てなんて分かるんですか?」
「一応、この業界長いとね。金持ちばかりだし。それにあのスーツは着用者の体にフィットしていた。市販のスーツの丈を直すくらいじゃああはならない。型紙から取ってるでしょあれ」
「オーダーメイドですか。あのバカが金をバラ撒いていると」
「金づると思って適当に付き合うくらいならこっちも目くじら立てないんだけどね。感化されたらおしまい」
デスゲーム企画運営会社も、なかなかどうして一筋縄ではいかないものだ。
「ま、バカな同期はどうでもいいとして……。室長、結局この接待どうします?」
四辻は出野内から隠していた封筒をジャケットのポケットから取り出す。
「僕が店に電話しておきましょうか。室長、電話苦手ですし」
「それには及ばない」
実は既に、封筒の中身は一通り確認している。
そして。
スポンサー候補様にふさわしい店は、選んだ。
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