第3話 そこはひっそりと?

 ……あれ。降りたバス停から一つ分の停留所を歩いてみたけど。近くにはなさそうだな。この先なのかな?まあ、とにかく散歩気分で歩いてみますか……。

 キョロキョロと歩いていると、犬の散歩をしている奥さんに不審者発見!の視線を送られてしまった。マズい。

 「あっ、あの、すみませんが」

 もうここは聞くしかないだろう。充分怪しまれている。ネットで探してもヒットしなかったんだよね……。最近オープンしたのかな?

 「え?」と、奥さんがリードを引き寄せて立ち止まった。きまり悪そうだ。お互いにね。

 「あの、この辺に『岬』というお店があると聞いたんですが、あの、探していまして……」

 「『岬』……?」

 あれ、こっち方面じゃないのかな。

 奥さんがワンコを見下ろすと、ワンコも奥さんを見上げて可愛いいのなんの。芝系に見える。ごめんね、散歩を中断させちゃって。

 「なんのお店?」

 「え、と。お酒を飲ませてくれる……バーみたいな」

 奥さんは親切に思い出そうとしてくれている。そんな飼い主を静かに見上げてお座りしているワンコ君、おとなしいなあ。

 「バー……岬……?あ、ああ!葵ちゃんの所ね!」

 ん?葵ちゃん?女の子もいるのか……。

 「ご存じですか、よかったです」

 「お兄さん歩き?」

 「はい、その近くのバス停で降りました」

 本当はその手前から歩いたけど。

 奥さんはやっぱり、という顔をして、バス停の方を振り向いた。

 「それじゃあね、こっちじゃなくて、向かい側の道を右へ曲がると手前に見えて来るからすぐに分かりますよ。降りたら反対側へ渡って右ね。ちょっと普通の家みたいだけど.今はまだ営業してないです。どっちも」

 「どっちも?」

 「カフェバーなの。一階がカフェで地下がバーね。カフェはお昼過ぎまでやってて、バーの方は九時近くにならないと始まらないと思いますよ」

 「九時ですか……」

 現在は五時半。ちょっと時間があるな。また出直すかな。

 「有難うございます。場所だけ確認して、また後で来てみます」

 「そうですねぇ、その方が……あ、バスの時刻表も良く確認した方がいいかも。帰りにも乗るんでしょ?この辺は最終は早いから」

 最終が早い?

 クゥーン、とワンコ君が鼻を鳴らした。早く散歩を続けたいよね。

 「ごめんなさい。お散歩の邪魔しちゃって。助かりました。時刻表も見てみます。有難うございました」

 「いえいえ。じゃお気をつけて」

 尻尾をブンブン振り回しながらワンコ君と奥さんは路地に消えて行く。この辺は車の通りが少ないのかな。住宅街なのに。時間帯、かな。

 親切な奥さんのアドバイス通りに時刻表を確認したら、信じられない時間が書いてあった。九時四十五分だった。そうか、そんなに飲んでいられないのか。徒歩で来た方がいいかも。

 お店はすぐに見つかった。看板も小さくて、本当に民家と変わらない印象だ、というか民家を改装したのかな。

 カフェのドアにはクローズドのプレートが下がっていた。地下はもしかしたら、この左側のシャッターが入り口になっているのかもしれないな。

 駐車場が無い。民家の庭先という感じだ。やる気あるのかな……?僕は返って興味が湧いて来た。

 小さな看板には、バータイムは午後九時から十一時半まで、ラストオーダーが十一時と明記されていた。早いな。カフェは朝十時から午後三時まで、ラストオーダーは二時半か。

 ほろ酔い気分で歩いて帰れる距離かな。楽しみになって来た。

 女の子がいるのか……店長さんがオカマさんらしい。

 お休みは月曜日。日曜日は不定休か。僕のシフトに合わせて来てみよう。

 尋ねてみてよかったな。あのままだったらそのまま次のバス停まで歩いていたかも。

 やっぱり僕は運がいいな。

 帰り道、さっきの奥さんとワンコ君にまた会った。

 ご近所さんなのだろうか。今度はお互い笑顔でお辞儀をしあった。

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