第58話 おせち

「初めまして、勉の母です。今日は来てくれてありがとうね」


「は、初めまして! 松海香奈です! よろしくお願いします」


今日は1月3日、なぜ家に香奈さんが来たのかというと、僕の家では毎年、母さんが腕によりをかけて、おせちを作るのだが、今年は多めに作りすぎてしまい、おせちが余ってしまったのだ。

優樹とかを呼んで、余りそうなおせちを食べてもらおうと思っていたのだが、今日は愛さんとのデートという先約が入っていたので断念した。

他に誰かいないのかと母さんに言われ、あまり気は進まなかったのだが、香奈さんに聞いてみたところ、快い返事を頂いたので、今日は香奈さんが自分の家にいる。


「ちょっと、勉」


母さんに手でちょっと来いと言われ、台所に行く。


「勉、どうしてくれるの! あんなにかわいい子が来るなんて聞いてないんだけど! どうしたら、あんなかわいい子と友達になれ…もしかして、レンタル友達的な感じ?」


「はぁ? まず、そんなお金ないし、ちょくちょく母さんに話してたでしょ」


「名前が同じだと思ってたけど、勉が傘間違えた人だったのね。というか、あんな可愛い子の傘を間違えるなんて…勉、ちゃんと土下座はしたの?」


「土下座がしてないけど、ちゃんと謝ったよ。で、傘を間違えたことで、そっから仲良くなって…」


恋仲になった、そんなことが言えるわけがなかった。

香奈さんの家族にはすでに挨拶はしているのだが、自分の母親に彼女ができたなんて言ったら、からかってくることが容易に想像できる。

とりあえず、今は彼女がいることを隠すつもりだ。


「香菜ちゃんごめんねー、余りそうだったからって、おせち食べに来てもらっちゃって」


「いえ、私、今年はおせち食べてないので嬉しいです」


「今年はっていうと? 何かあったの?」


「お正月は毎年、親戚で集まっておせちを食べていたんですが、今年は親戚の予定が合わなくて…」


「あら、お正月なのに?」


確かにお正月といえば、何かよっぽどのことがない限り、基本的には休みのはずだが…


「なぜ予定が合わなかったのかは私も分かってないんです」


「そうなの…、何があったのかしらね?」


そうして話している間に余ったおせちがテーブルの上に並び、食べる準備ができる。


「それじゃあ、食べる前に…1つ聞きたいことがあるの」


「ん? どうしたの、母さん?」


「傘を間違えて、仲が良くなったのは分かってるんだけど、それでうちにおせち食べに来るまで仲良くなる?」


なぜ世の母親はこんなにも勘が鋭いのだろうか。


「本当は付き合ってたりして…ないよね?」





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