第54話 大晦日

大晦日、普段だったら、家族と年越しそばを食べて、年越しをするのだが、今年は違った。


「本当にすみません…勉くん…」


「いや、いいんですよ。いつかは言わないといけなかったですし…」


クリスマスの次の日に香奈さんが渚咲さん達に聞かれ、付き合っている事を知られてしまったらしい。そして、香奈さんのお父さんから話をしたいと言われてしまい、すごく怖いが、家まで香奈さんが迎えにきてくれた。


「別に隠しているわけでもないですし…」


「そう…ですか…分かりました。これからどんどん言っていきますね」


「そ、それは…」


「ふふ、冗談ですよ」


「香奈さんが言うと、冗談に聞こえないんですよ」


「そうですか? それはすみません。……ところで、緊張はとけましたか?」


「は、ははは、はい。も、もう、完全にと、とと、とけました」


「もう、全然緊張とれてないじゃないですか、リラックスしてください」


「なるべくリラックスするようにしてはいるんですが…」


「ほら、もう、着いちゃいますよ。覚悟を決めてください」


まだ緊張が解けていないが、香奈さんの家に着いてしまった。

なぜだか分からないが、周りの家と違って凄く空気が重い気がする。

凄く家に入るのが怖い。


「それじゃあ、入りますよ」


い香奈さんが家のドアを開けてしまう。


「ちょ! ちょっと! まだ、心の準備が…」


「久しぶりだね。勉くん、今日は来てくれて嬉しいよ」


「やぁ、少年、久しぶりだね。今日という日を凄く…凄く楽しみにしてたんだ」


嬉しい、凄く楽しみと言っているが、発している声が言葉に合っていないのだ。

凄く…圧を感じる。今の僕は蛇に睨まれた蛙だ。

恐怖で足がすくんでしまい、初めの1歩が踏み出せない。


「もう! お父さんもお姉ちゃんも言ったよね! 勉くんを怖がらせないでって!」


香奈さんも僕が怖がっていることに気づいていたのか、僕を助けてくれる。


「別に怖がらせてなんかないよ」


「そうそう、ちょっとだけ気持ちが昂ってただけだよ」


2人はそう言うが先ほどから出ている圧は消えない。

家に入ったら殺されるかもしれない。そんなことが頭をよぎった。

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