第44話 僕は嘘つきだ

松海さんと話をしなくなって約1ヶ月、季節は夏からとっくに秋へと変わっていた。

ここ最近、家族とのLINEぐらいでしか使っていなかった、

スマホに久しぶりに家族以外からのLINEが来たのだが……


(渚咲さん)少年、ちょっとツラ貸せや 7:23


嫌な予感しかしない。




午前9時、休日としては割と早い時間帯に僕は近くのカフェに呼び出された。(なお1回断ったのだが、そのあと連絡はなかった)


「やぁ、少年、こっちこっち」


これでも、約束の時間(強制的に決められた)の30分前についているのだが、それよりも渚咲さんは早かった。


「少年、今日は急にごめんね、ここ奢るから、好きなもの買ってきな」


と言われ、キャラメルマキアートを頼み、席に戻る。


「あの…今日はどうしたんですか?」


「少年、香奈と何かあったでしょ」


流石渚咲さんとしか言いようがない、大大大大好きな妹の変化ぐらい気づくのは簡単な事なのだろう。しっかり核心をついてくる。


「いや…何もないですよ」


僕は1つ嘘をつく。


「嘘だ!」


見破られてしまった。


「絶対に香奈と何かあったもん!」


言いきった。


「だって最近家で香奈が少年の話をしないんだもん!」


「え?」


香奈さ…松海さんが家で僕の話を?

なぜだ?なぜ家で僕の話をする必要があるのだろうか?


「これ言っていいのかな………いいか!家で香奈が少年についてね、こんな事があったとか、あんな事があったとか、楽しそうに喋ってくれるの。でもね最近それが全くないの。だから、少年と何かあったのかって思って」


何を言われているのか気になるところであるが、今は自分が引き起こした事を言うしかない。


「実は…」


「実は?」


「学校で香奈さんとの関係を噂されてしまって、それで香奈さんに迷惑がかかっていると思ったので、僕が松海さんから距離をとったんです」


何か言われるか?と思い、渚咲さんを見たら…


「誰だ、そいつら、少年と香奈の関係を噂したやつは」


やばい、過保護モードに入った。


「少年、それ、誰か分かる?」


「い、いや、分かりません」


「分からないのか、しょうがない」


「あの…分かってたら、何をするんですか?」


流石に怖いので一応聞いてみる。


「えっ? いや、少し叱るだけだよ、『うちの香奈と少年に何してるんだー』って」


絶対少しじゃない。過保護モードの渚咲さんほど怖いものはない。


「あのさ、少年、もしそういう噂があったとしても、香奈は困ってないから、距離を置かないで、前みたいに仲良くしてあげてよ、香奈の事が大好きな私からのお願い」


「………はい、分かりました」


僕はまた1つ嘘をつく。


「そう、ありがとね」




渚咲さんと話をした後も僕は松海さんと話をすることはなかった。


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