第43話 僕は嘘をつく

「ねぇ〜、ちょっとやけたんじゃない?」


「えっ!お前、彼女できたって! まじかよ〜」


一ヶ月半の夏休みが終わり、再び学校が始まった。

僕がクラスに入ると、クラス中の男子からの視線が集まった。

その視線が何故なのか分からず、少し萎縮してしまった。が、すぐに理由はわかる。


「五十嵐、お前、やっぱり松海さんと付き合ってるだろ」


「えっ? い、いや、なんでそう思ったの?」


「お前、松海さんと夏祭り行ってただろ」


「まぁ、行ってたけど…」


「しかもショッピングモールも一緒に行ってただろ」


「そうだけど、でもそれだけで付き合ってることになるのか?」


「いや、そうではないけど、これだけ一緒に遊びに行っているんだったら、逆に疑わないほうがおかしいっていうか…」


「香奈さんとは前も言ったけど付き合ってないよ」


「五十嵐はどうして松海さんを下の名前で呼んでるんだ? 松海さんもお前の事を下の名前で呼んでるし……本当に付き合ってないのか?」


しまった、クラスの人達の前では香奈さんって呼ばないように気をつけていたのに、と思っていても、もう遅い。1番みんなの前で呼んでしまったら、下の名前で呼んだ事を無かったことにするのは、不可能に等しい。


「それは……えっと……」


僕がなんて言えばいいか分からず言葉につまる。


「なんで下の名前で呼んでるかだって? そりゃあ仲良くなったら下の名前で呼ぶくらいいいだろ」


「優樹…」


「けど、どう考えても付き合ってるとしか思えないだろ!」


「だから……だから……僕は松海さんとは付き合ってない!!」


香奈さんには好きな人がいるから、僕と付き合っているわけがないだろうに、けど、そのことは本人がいないのに言うのはダメだろう。


「本当に付き合ってないのか? 信じていいのか?」


「あぁ、お願いだ。信じてくれ」


「じゃあ、最後にいいか」


「何?」


「五十嵐は松海さんの事、好きじゃないのか?」


僕は香奈さんの事が好きだが、今、本心をここで言ったら、まためんどくさいことになるだろう、だから、僕は嘘をつく。


「僕は、松海さんの事を友達としてはもちろん好ましいと思っているけど、異性として見ているかって言われたら、






「っっっ!!!」


教室の扉の外で今の話を聞いていた人が1人いたことに誰も気づくことはなかった。

その日から僕は松海さんと話をすることは無くなった。

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