第37話 夏休み⑩+⑦

「勉兄ちゃん、早く、早く」


「ちょっ、早いって、陸くん」


夏休みも終わり間近、いとこの五十嵐 りくくんを預かって欲しいと

おばさんに言われ、家に遊びに来たのだが、

「じゃあ、私たちは家でお茶してるから、どっか行ってきなさい」


「いや普通、そこは母さんたちが外でお茶するところだろ!」


「たまにはいいでしょ、陸くん、勉が好きなところ連れてってくれるってよ」


「ちょっと、勝手に…」


「本当!」


バッ!と顔を上げた陸くんが僕の顔を期待の眼差しで見てくる。

その視線がやけに痛い。

そんな大層なところには連れて行けないのにと思っていたのだが、

陸くんが言ったのは…


「じゃあ、ゲームセンターに行きたい!」


「ゲームセンターか、ちょっと遠くなるけど大丈夫?」


ここら辺にゲームセンターはないので電車で何駅か行ったところにある、

いつものショッピングモールに行くしかない。


「うん、俺、1人で電車乗れるもん」


「まだ6歳なのに、もう1人で電車に乗れるの?すごいね〜陸くんは」


へへん、と誇らしげに胸を張る。


「はい、じゃあこれ」


「10000円?なんで?」


「いや、遊びに行くんだから、お金、必要でしょ」


「いや、わかってるけど、こんなに…」


「それで晩御飯も食べてきちゃって」


「あ、なるほどね、了解」


「じゃあ、行こうか」


「うん!」


そして元気満々な陸くんとショッピングモールに来た。


「おっ!いいんじゃない」


「よし!いけー」


勢いよくボタンを押す。

アームが動き、ぬいぐるみをガシッと掴む、

が、上まで持ち上げたところで落ちてしまう。


「あぁー惜しいねー」


「勉兄ちゃん、獲れない」


明らかにシュンとして、悲しんでる。


「しょうがない、兄ちゃんが獲ってやるからな」


クレーンゲームに100円を入れアームを動かす。

ぬいぐるみの真上でアームを止め、ボタンを押す。


「いけ!」


「いけー」


ぬいぐるみを掴み、アームがしっかり上がっていき、

取り出し口まで落ちることなく運ばれて、

ボスっ、とぬいぐるみが落ちる。


「「獲れた!」」


ぬいぐるみを取り、陸くんに渡す。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、勉兄ちゃん」


「どういたしまして」


「次、何やる?」


「俺、お腹すいた」


「お腹すいたか、じゃあなんか食べるか」


ショッピングモールにあるフードコートまで移動していた時、

突然、陸くんがズボンを引っ張ってきたので、


「どうしたの?陸くん」


「あれ」


と、指差した方向には、陸くんと同じくらいの年の女の子が1人でキョロキョロしている。

一目見て迷子だな、と思った。

とりあえず、迷子センターに連れて行こうと思い、

歩き出す前に、陸くんがその女の子に近づいていった。


「大丈夫?」


「お、お姉ちゃんがいないの」


「勉兄ちゃん、お姉ちゃんがいないんだって」


「わかった。お嬢ちゃん、名前は?僕は、五十嵐勉、それとこっちが…」


「陸、俺の名前は五十嵐陸」


「わ、私の名前は…」


「「名前は?」」


「ま…」


「「ま?」」


「松海 うみ」

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