第31話 夏休み⑩+①

「香奈さーん、大丈夫ですかー?」


香奈さんは思ったよりも遠くに流されてなく、すぐに見つけることができた。

しかし、まだ距離があり、なかなか香奈さんに追いつくことができない。


「勉くん、すみません。私が泳げないばかりに…」


「大丈夫です。僕が絶対に助けるので、とりあえず香奈さんは少しでもいいので、こっちにきてください」


「さっきから頑張ってるんですけど…波が…」


「そうですよね、とりあえず絶対に浮き輪から離れないでください!」


「わ、分かりました」


流石にちょっと疲れてきた…が、こんなところで諦めるわけにはいかない。


「あと、もう少し…」


「香奈さん、手を…」


「はい、勉くん!」


ガシッと香奈さんの手を握る。


「みんなのいるところに戻りましょう」


「は、はい」


香奈さんの浮き輪を後ろから押す形にして戻ることにした。


「いつも迷惑をかけて、本当にすみません」


「そんな気にすることないですよ」


「でも…勉くんにはすごく助けてもらっています。勉くんだって大変なのに、文化祭や体育祭、今の夏休みでさえ…」


「大丈夫ですよ、香奈さん」





「何があっても僕は香奈さんを助けるので」


「えっ!」


「そ、それはどういう意味で…」


ん?今、俺はなんて言った?何があっても香奈さんを助ける?

まるで…まるで…告白じゃないか!どうしよう無意識に口から出てたから、

意味なんてないのに…


「い、意味はそのまんまです。香奈さんに何かあったら、僕が絶対に助けるので、安心していてくださいという意味です」


「香奈さん?」


「えっ!」という声が聞こえたあと、香奈さんは固まってしまい、

反応がなくなってしまった。





「あぁ〜疲れた」


「お疲れ、勉、良かったよ、どっちも怪我がなくて、一安心だ」


「松海さ〜ん、大丈夫だった?」


飯田さんが香奈さんに抱きつく。


「はい、私は大丈夫です」


「五十嵐くん、めっちゃカッコよかったんだよ」 


「そうだな。俺が香奈さんを助ける!とか言って海に飛び込んだのはめっちゃカッコよかったな」


「えっ!俺、そんなこと言ってたの?」


「マジで、覚えてないの?」


「覚えてない」


「無意識に口から出てたのか、スゲェなお前」


「で、しっかりと助けてきちゃうしねぇ〜」


「勉くん、本当にありがとうございました」


「優樹と飯田さんが教えてくれなかったら、俺は気づきもしなかったから、2人のおかげだよ」


「ところで、いつまで私のこと飯田さんって呼ぶの?」


「私のことは愛でいいよ」


「えっ!」

驚いたのはなぜか香奈さんで、飯田さんはなぜかニヤニヤしている。

女子を呼び捨てで呼ぶのは大丈夫なのだろかと思っていたら、さらに追い打ちがくる。

「じ、じゃあ私も香奈って呼んでください!」


「えっ!」


「じ、じゃあ愛さん…」


「さん付けかぁ〜まぁいいや、改めてよろしくね、五十嵐くん」


「え〜っと、じ、じゃあいきますよ」


「は、はい、きてください」


「か、か、香奈」


「ふふっ、もっと呼んでみてください」


「か、香奈」


「もっとです。もっと」


「香奈、香奈、香奈、香奈、香奈、これでいいですか、香奈」


「い、いきなり多すぎですよ!供給過多になってしまいます!」


やっぱり名前の呼び捨てはマズイんじゃないのか…

しかし、夏の日差しのせいなのか、それとも気のせいなのか、

香奈さ…香奈の顔は赤く染まっていた。

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