第9話 お父さん

「君が五十嵐くんだね。香奈から話は聞いてるよ」


「お邪魔しています。えっと…」


「失礼。自己紹介がまだだったね。僕は、松海 誠太せいた。よろしくね、五十嵐くん」


「よろしくお願いします。誠太さん」


そこから、誠太さんも晩御飯に加わり、食卓に松海家全員が揃った。

すると、誠太さんが、


「それで、香奈とはどういう関係なのかな」


「っ!?」


この感覚、空気、そして、なによりもこの圧。汗が止まらない。

この感覚、渚咲さんの時と同じ!


「香奈さんとはですね、えっと、友達?です」


「そうだよ、お父さん。何回も言ってるじゃない。五十嵐さんとは友達、それだけだって」


「そうか、香奈が言うならそうだな」


圧がなくなった。

やっぱりこの家族、香奈さんだけには、ものすごく甘い!!

きっと香奈さんが言えば、どんな理由でも納得するんだろうな。そう思った。


「友達ということはわかったんだけど、どういう理由で知り合ったんだい?」


「それは、僕が香奈さんの傘を間違えてしまって、そんな感じです」


「なるほど、傘を間違えたと…」


「そこから、五十嵐さんとは仲良くなったんです。お父さん」


「よかったよ。香奈は家に友達を全然連れてこないから、心配してたんだよ。いじめられたりしてないかと」


「それは大丈夫です。香奈さんはクラスの中心にいていつもみんなの話し相手になっていて、みんな、香奈さんと話していてとても楽しそうなんです」


「そうなのか。君はそんなに香奈の事を見ているのか」


っ!空気が戻った。けど、


「もう、やめてよお父さん。恥ずかしいから、勉くんも」


今、名前呼びした。名前呼びしたよね。


「香奈、今、勉くんって…」


誠太さんが香奈さんに聞く。


「うん、勉くん。もうだいぶ仲良くなったしいいでしょ。一緒に晩御飯も食べてるんだから」


「そっ、そうか、まぁ、香奈が言うからなぁ」


最後に香奈さんが爆弾を投下したがまぁ、よしとしよう。


「今日はありがとうございました」


「え〜もう帰っちゃうの。少年」


「はい。ではこれで」


「さようなら、五十嵐くん」


「また、晩御飯食べにきてね。五十嵐くん」


「じゃあね、勉くん」


「本当に今日はありがとうございました。とても楽しかったです」


勉くん、勉くんかぁ。

初めて、女子に名前を呼ばれたな。

この名前呼びが、また学校で一波乱起こるのを僕はまだ知らなかった。


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