前のエピソード――【あとがき】デッドラインはすぐそこに

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6月1日

　今日本屋のレシートくじで黄色い表紙の日記帳をもらった。二等だから悪くはない。せっかくだから、ちょうど月初めだし日記をつけようと思う。

　三日坊主にならないように頑張りたい。

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6月2日

　結婚したい。はやく。もう二年も付き合っているのに、彼はまだ結婚してくれない。はやく結婚したい。幸せになりたい。できたら6月のうちに結婚したいな。

　ジューンブライドは幸せになれるっておばあちゃんが昔、言ってたから。

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6月7日

　日記に飽きてきた。友達にそう言ったら、何か目的とかあれば続くと言われた。なので私の結婚への道のりをここに綴っていこうと思う。今日は彼に指輪をねだった。

「考えとく」

って言われた。

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6月8日

　彼の目につくよう、ブライダルフェアのチラシとウェディング雑誌数冊をさりげなく放置。

　彼はそれを見事にスルー。

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6月9日

　とうとう念願の指輪ゲット！可愛いしんじゅの指輪。私の誕生石だからって。誕生石がダイヤモンドの人は得かもしれないが、私は貝パールでも小さくていびつでも、この指輪が世界で一番大切。

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6月10日

　彼と『レイチェルの結婚』という映画を家で観た。泣けた。私もはやく結婚したいな。彼は始まって十五分で寝てしまった。

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6月16日

　指輪から一週間経っているのに、彼はいっこうにプロポーズしてくれない。それどころか、最近忙しいと言って会ってくれない。寂しい。

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6月18日

　心機一転、髪の毛を短くした。美容師の人に

「失恋ですか」

って言われてイラついた。縁起でもないこというな馬鹿。

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6月21日

　今日ひさしぶりに彼の家に行った。ベッドに長い髪が落ちてて、

「誰の？」

って聞いたら、

「髪切る前のおまえのだよ」

って言われた。彼は半月もベッドのシーツを取り替える習慣がないらしい。

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6月27日

　六月があと三日で終わってしまう。どうしよう。このままじゃジューンブライドじゃなくなっちゃう。

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6月28日

　今日はもう私の方から彼に逆プロポーズしようと彼の家にアポなしで押し掛けた。鍵が閉まってたから、出かけてるんだと思って、帰ってくるの、中で待ってようと合い鍵で中に入ったら、彼がいた。知らない女と。

　あの女はいったい誰？

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6月29日

　いろいろ迷ったけど、やっぱり私は彼と結婚しようと思う。でも、ここじゃ無理だってわかったから、できるとこまで二人で逃げよう、ダーリン。今から彼を迎えにいく。一日でたどり着けて結婚できたら。ギリギリジューンブライドだ。がんばります。残念ながら、みんなを結婚式に招待できないけど、私、幸せになります。だから、この日記は今日でおしまい。

　もし、誰かこの日記を読む人がいたら、その時は、私たちを祝福してください。

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××新聞

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六月三十日（金）

　二十九日、未明。東京都世田谷区のアパートで男性の刺殺死体が発見された。犯人と思われる女性が隣で凶器のナイフを握りしめて倒れており、女性は毒物による自殺だと警察は断定。容疑者の女性は真っ白なワンピースと、レースカーテンを被った姿であることから、なんらかの痴情のもつれが殺人動機かと考えられる。詳しいことは依然調査中だが、女性の自宅から犯行声明ととれる記述のある日記が発見され――――