第2呼び出し
「おっさん、休憩だ。缶コーヒーくらい奢ってやるぞ!」
建設現場の日雇いの下働きとして、黒野十一は働いていた。
15年前、世界でも数少ないSランク冒険者として名を馳せた人物とは思えない。
人を守る為に力を使い、その代償として服役して15年。当時よりだいぶ痩せたしやはり老けた。
犯罪歴のある男にまともな就職口などなく、こうして現場の重い荷物を運ぶ仕事でその日を過ごしている。
同じ職場で働く自分より10歳は若い現場監督は気さくな人で、現場の雰囲気を良くする為か休憩時間には皆を集めてコーヒーを奢り、タバコを吹かしながら世間話をする。
未成年のバイトに、お前にはタバコは早い!と取り上げていたのも印象的だ。
そんな休憩時間、黒野の前に、黒服スーツの男が現れた。
「黒野十一さんですね?」
「お、なんだ?おっさんなんかやったのか?」
現場監督がちゃかしたが、黒服はじっと返答を待っている
「はい。黒野は私ですが?」
黒野の返事に、やっと黒服は「私はこう言う者です」と名刺を取り出した。
日本ダンジョン教会理事会長補佐
名刺にはそう書いてあった。
「ある方が黒野さんにお会いになりたいそうです。ご同行願えますか?」
「申し訳ありません。私は今仕事中ですので、仕事が終わるのは17時になりますがそれまで待ってもらえますか?」
野茂は「それでは17時にお迎えにあがります」と言い残して帰って行った。
「おっさん、いいのかよ?すぐに行かなくて?」
現場監督が気を使ってくれるが今日はキチンと仕事を貰っているのだ。
どうしても行かなければならない場合はあの時みたいに逮捕状でもなんでも持ってくるだろう。
なので、現場監督には「急ぎではない様ですし」と返事をして、休憩の後に仕事に戻る。
休憩時間を微妙な空気にして悪かったなと思いながら黒野は仕事をこなした。
17時になって仕事を終わらせると今日の分の給料を封筒に入れてもらった。
この現場の募集に参加したのもその日に手渡しで給料がもらえるからだ。
冒険者時代の貯金などは、塀の向こうへ行く前に復興資金として全額寄付した為に残っていない。
いつもならこれやら安酒でも買ってボロアパートに帰るところだが、今日は黒塗りの車が現場の前に止まっていた。
タクシーの様にドアが自動で空いた。
「黒野さん、ご乗車願えますか?」
黒塗りの車の中はロンドンタクシーの様に対面座席になっており、中に居た野茂が乗車を促した。
黒野が乗り込むとこれから向かう先について説明をしてくれた。
名刺を見た時に想像がついていたが日本ダンジョン教会の本部へ向かい、待っているのは理事長だそうだ。
その後は対面なのに無言のままと言った気まずい空気で目的地まで向かった。
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