第8話 辰馬の過去
俺は撫子さんの、これからするであろう話に唾を飲み込んだ。
撫子さんがああ言うくらいだから、相当な話だよな。
「辰馬が覚えているか、わからないけど」
と撫子さんが話し始めた。うん。なかなか怖いな、こう言う話し方をされるのは。
撫子さんは考えながらポツリポツリと続きを話した。
「いつだったか、辰馬が小学校の3年生くらいの時だと思うけど。辰馬、泣きながら帰ってきたの、覚えてる?」
覚えてるも何も俺はその頃ってまだいじめられっ子だったし、泣いて帰るのなんて日常茶飯事だった。だから一つ一つの虐めなんて覚えちゃいられない。
そんな話を撫子さんに伝えた。
「うーん。ちょっとその時の様子が普通じゃなかったのね。声を上げて泣く、って感じでもなくてずっと涙を流し続けてね、泣いてたの」
撫子さんがこの話、止める?今なら聞かなくて済むけど。
と言って来たので、続きをお願いします、と答えた。
「あの頃って辰馬のお父さんやおかあさん、今も忙しくしているけど、あの頃もっと忙しかったでしょ。だから全然家にいなくて」
それは、覚えている。俺両親が帰ってくるまでの間、ヒカルの部屋で遊んだり、宿題やったりしていたんだった。
たまに悪ガキどもと一緒になってヒカルも虐めに加わっていたのだが、今更怒っても仕方がない事だしな。おっと話が逸れた。別に今日はヒカルの過去の悪行を糾弾する会じゃ無いんだ。続きをお願いしなくては。
「だから、辰馬の様子を見て、これはただ事じゃない、と思ってね、家に上げたの。だってさ、Tシャツはおろか短パンまでボロボロになっててさ、これはひどいめにあったんだな、思ったら涙が出て来たわ。それで、お風呂に連れて行って傷を確かめようとすると、辰馬は服を脱ぐのに抵抗したのね、だから背中をとんとんしてあげたわ、この間みたいにね」
え?と言うことは、背中とんとんはこの頃の記憶が元になっているのか?
それに、何かこの話が嫌な方向に向かっている気がする。このまま聞いているか?記憶が蘇るのを待つか?いやー……待つのも聞いてしまうのもどっちもどっちと言う気もするし、ならいっそ、このまま聞いて記憶が戻るのを待つか。
「それで、俺、どうなったんですか」
「ずっと背中とんとんして上げてたら落ち着いたみたいでね、泣くのも治ったわ。それで服を脱がせたんだけど、身体中傷だらけでね、泥も付いてたし取り敢えず洗い流すことにしたの。傷の具合からすればもっと痛がっても良いのにね、あんまり痛がる様子も見せずに洗い終わったわ」
「それで……うーん。お湯を頭から浴びて洗ってた私は取り敢えず服を全部脱いで、素裸になった。別にやましい気持ちからじゃないわよ、服も下着も私の物は私の部屋にしか無いから。そのせいね」
唐突に釈明が入った。なんだかやましい気持ちがあります、と言うふうにしか聞こえない。
本当のところは、判らないな、第一やましい考えってなんだ?あ、俺この時に撫子さんから貞操を奪われたのか?記憶がな、イマイチ判然としない。
「それで辰馬を連れて自分の部屋に戻ったんだけど。辰馬ぐったりしていてね、ベッドに寝かせることにした。それで私もベッドに横になることにしたの」
「でも、撫子さん、俺、撫子さんに童貞を奪われた記憶がるんだけど。その時まさかしたんじゃ無いよね?」
「えー。その時はしていないわよ。もうちょっと後じゃ無いかしら」
あ、カマかけたら正直なところ、言いよった。こう言う時の撫子さんはちょっと悪い顔になる。今もなっている。しかし童貞を奪われたのはほぼ確定ということか。
どうも彼女に対しては猜疑心が沸かずにはいられない。
取り敢えず、童貞の話は置いておくにして、続きを聞かないと。
「後、私が覚えていることはそんなに無いわよ。一緒に横になって辰馬の背中を撫でたて上げたり、偶にとんとんして上げたり、泣き出しそうな時はぎゅって抱いて上げたりしただけ」
そうだ思い出した。俺、なんかがあって泣きながら帰ったら驚いた撫子さんが手を引っ張って誉家に連れて行ってくれたんだ。それで、ん?それで
「撫子さん、そん時俺にいたずらしてない?なんか色々いじられたり触られたりした記憶があるんだけど」
「だから、してないってば。辰馬の様子、それどころじゃ無かったんだから」
それから、数日はそんな様子が続いていたらしい。時々目覚めて泣いていたりとか、人に触られるのを嫌がるとか、様子がおかしかったらしい。落ち着くまで誉家で預かるって事になって、俺の様子がおかしい時には撫子さんが隣にいて、抱きしめて黙って背中をとんとんしてくれた。
そうやって徐々におかしい様子が見られなくなり、いつの間にか不審な様子がなくなって行ったそうだ。
「私から言える事は、これで終わり。ヒカル、アンタ何か付け足す事がある?」
「うん」
ヒカルはそう言って躊躇った後、
「辰馬、お前そのとき乱暴されていたんだよ」
と言った。
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