第5話 ヒカルの願い

 ヒカルの性的嗜好が暴露して三日、俺はまだヒカルから事情説明を受けずにいた。

 撫子さんから相当こってり絞られていたらしい、何度か撫子さんからショートメッセージがスマホに入っていた。

 まぁ、撫子さんも言えること、言えないこと、あるだろうしな。

 絞られている過程で、ヒカルの女児嗜好もバレたわけで、撫子さんはドン引きした、とだけメッセージを伝えてきた。

 俺は既に知っていたので“そうですよね”としか返せなかった。だって俺はヒカルの最後の味方だと思っているし、誰かが味方になってやらないと、ヒカルが惨めすぎる。

 しかし、そのヒカルから連絡はこない。俺は三日の間、ヒカルに連絡を取ったものか、迷っていた。出来れば、そっとしておいてやりたいのだが……。俺も当事者である以上そうも言ってられないだろう。

 三日目の夜、ヒカルにメッセージを送った。

『あの後、どうなった?』

『取り敢えず、親父やお袋にはバレていない』

あれ、バレたら家族会議ものだからな、バレていないのは良かった。撫子さん、約束は守ったんだな。

『撫子さんはどう?』

『姉ちゃんから根掘り葉掘り聞かれて何で女児嗜好になったかまで聞かれた』

俺も何で女児嗜好になったか、聞きたい衝動に駆られたが、耐えた。こう言うのは本人が話したくなったら聞くべきだろう。

『例のコスはどうした?』

俺は撫子さんが没収だろうなと思ったが次の言葉に驚いた。

『返してもらったよ』

『え?なんで?』

『俺が責任持って返品するためだそうだ』

それは何と言うか、ご苦労さまだな。

『そりゃご苦労さまだな』

『姉貴の言う事だからしゃーない……』

『取り敢えずそれ返品して一件落着か』

『いや、そうなんだけど。写真とかなあ、没収されてしまってリピドーを発散するあてがない』

『普通の恋愛対象に目をやる良い機会じゃないか。女子大生やら人妻やらのヌードでも見てろよ』

言ってから人妻はダメかもな、と思った。しかし、見るだけなら構わんだろ、とも思う。

『人妻……女子中学生はダメなのか?』

『ギリギリダメだ。第一ヌードとかないだろ?』

『いや、とあるところで検索すると結構……いや、何でもない』

何だ、一瞬ただことでは無い事を言いかけたようだが。取り敢えずここは流そう。

『今時間あるか?』

『あるけどどうした?』

『今そっち行って良いか』

なんだ?らしく無いな。今までなら"今からそっちに行く"なんて言ってズカズカ入ってくるのに。

 取り敢えず『良い』と返事をした。

 少ししてからノックの音がしたから、「どうぞ」と声をかけた。

 ヒカルはいつもの様にスポーツジムのTシャツにトレーニングパンツだ。そして、いきなり土下座を始めた。

「何も言わずにこれを」

と言って手に持った袋を差し出す。

「これってもしかして」

ヒカルはうん、と言って「この間の制服だ」

「待て待て、その制服は返品するんだろ?それを着たりしたらまずいんじゃ無いのか?」

「大丈夫だと思う。返品ガイドによると着て合わせるくらいならOKらしいから」

「俺嫌だぞ、それ着るの」

「頼む」

とヒカルは言い、土下座のまま頭を上げない。

「嫌だ」

そう言っても土下座をやめない。暫く無視して、英語のグラマーの勉強していたが、そんなに長く無視をきめ込めるはずもなく。

「そんなに着て欲しいの?」

「着て欲しい!」

野太い声で要求された。

俺はため息を一つ吐き

「ちょっとだけだぞ」

「ありがとう!!」

と土下座のままお礼を言われた。

「じゃやるけど写真は撮るなよ?後さわんなよ?」

写真なんか撮られたら、何処かから流出する可能性がある。そんな事になってみろ、永遠に俺の恥ずかしい姿がネットを漂う事になりかねない。

「うむ。わかってる」

俺は仕方なくズボンを脱いでTシャツパンツの姿となった。因みにパンツはボクサーショーツだ。どうでも良い事だが。

先ずブラウスに袖を通し、ついでプリーツスカートを履いて、ブラウスの上からリボンタイをつけてカーディガンを羽織る。最後にニーソックスを履いてお終いだ。

「ウィッグはどうするんだ?」

「つけてくれ」

ウィッグってそのまま被って良いものなのかな?よくわからないから無駄なことはやらない。そのままウィッグを被る。なんか、長髪の少女になった気分だ。

 うーん、こうしてみると、美少女側に寄せるなら軽くメイクとかした方がいいのかな?やる気はないけど。

「どう?」

「すごい、凄く良い。想像以上だ」

俺はヒカルの求めに応じて、反転したりポーズを取ったりした。

 もう良いかと思ってヒカルに「そろそろ終わりにして良いか」と聞いたら、なんかもぞっという返事が返ってきてどうしたのか振り返った。

 ヒカリが突然体当たりしてきた。いや、体当たりというか押し倒してきた。

 俺は肩と頭を壁にぶつけ「ひゃ」と間抜けな声を出した。ぶつけた所がしこたま痛かったが、俺の警戒心がそれどころではないと告げていた。「ヒカル、止めて止めて」と言ったが全く止まらなかった。ヒカルの手が服の中に入ってきた。


「止めて止めてよう」自然と涙が溢れてきた。

 嗚咽が漏れて、ヒカルに止めて、と言うことすらできない。ヒカルは俺にキスをしてきた。唇を塞がれる。これでは何か言うこともできない。

 ヒカルの手が俺の股間に伸び、パンツに手がかかった。一気に膝あたりまで脱がされる。そのまま尻の辺りまで手が伸びーー止まった。ヒカルは何かに気づいた様子をみせた。その隙をみて俺は、ヒカルの頬を高い音を立てて一発張って、ヒカルの体の下から逃げ出した。

「信じていたのに」

「ごめん」ヒカルは言った。

「ごめん」もう一度。

俺は声を忍ばせて泣いた。何だろう?俺は何で泣いているんだろう?

「ごめん」

そう言うと、ヒカルは部屋から出ていった。

「酷いよヒカル……」俺は呟いた。

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