第7話 霊管支部
女神との邂逅及び神社探索の翌日、僕は早朝から超越神社に来ていた。本日の予定は日用品を買いに行くことだ。洗面用具とか食器とかその他色々だ。天女ちゃんも人間の街に行ってみたいらしい。ここに来るまではずっと
ああ、それから神術の練習だ。昨日、スマホで水晶さんに言われた。結界しか覚えてないから、他の便利な神術も習得しましょうと言うことだ。
境内の住居兼本殿に行くと、天女ちゃんが出迎えてくれた。服装は部屋に用意されていたのを着ていた。セーターにスキニーパンツというシンプルなコーディネイトだが、天女ちゃんが身に付けるととても似合っている。やはりスタイルは抜群に良かった。手足がスラッと長く、モデル体型だ。
そのモデル顔負けの天女ちゃんはなぜだか困った顔をしている。
「水晶さんの様子が変なんです……」
天女ちゃんから渡された水晶さんは昨日より多めに発光していた。水晶さんの中には文字が浮かんでいた。
『囚われの魂を開放せよ』
なんだかゲームのクエストみたいだな。
『今日からがチュートリアルの本番です。もうすぐ案内人が来るので、入り口の鳥居のところまで行ってください』
「……行かないとダメなの?」
『行ってください』
「嫌だって言ったら?」
だってどう考えても厄介ごとの予感がする。なにさ、囚われの魂って……。
『後悔することになります』
なにそれ、脅迫じゃん……。怖いよ、この水晶。
『後悔しますよ』
「わかった、行きます、行きますから……」
『天女様も付いてきてください』
「私もですか? わかりました」
……今日は厄日になりそう。
僕たち二人は入り口の白い鳥居の前に来た。1月下旬の早朝は寒かった。吐いた息が白くなる。暖かくなるのはまだ先か。
5分ほど待っていたら、駐車場に黒い高級外車がやって来た。車のごつい外観に警戒心が起こった。アウトローな人が出てきたらどうしよう。
運転席のドアが開き、出てきた人はアウトローどころではなかった。っていうか人じゃない。
赤い肌に角の生えた額、二メートルを超える体躯は筋骨隆々、まごうことなき鬼がおった。しかもスーツを着てる鬼だ。まさかこの鬼が案内人か……。
唖然として、声も出せない僕に対し、天女ちゃんは余裕だ。
「わあ~。私、鬼さんって初めてみました!」
ギロリと睨んだまま、黙っている鬼さん。めっちゃ怖い。
「あ、あの、あなたは……」
「
「そうですが……」
「……巫女様から万事面倒を見るように仰せつかった」
何故に鬼の巫女様から?
「……面倒とは?」
「詳しい事は知らされていない。ただ全面的に協力せよと。そっちの妖かしも含めてな」
天女ちゃんの事も知ってる?あれ、この赤鬼さん、もしかしたら光の女神様が言っていた使者の人かも。
「もしかして、あなたが女神様の使者ですか?」
「神のお告げをお聞きになれるのは巫女様だけだ。俺は巫女様の指示でここにいる」
なるほど、このおじさんは女神様の使者の使者ってところか。まさか鬼だとは思わなかった。
「その鬼の巫女様は具体的にどのようなことを?」
「巫女様は人間だ。俺もな」
そういうと赤鬼さんは一回りほど萎んで、ガタイのいい普通のおじさんになった。髪を短く刈り込んだ目付きの悪いおじさんだ。スーツも今のおじさんにピッタリなサイズに変化した。どこで売ってるんだろう、あのスーツ。
「す、すごいですね……」
目の前のイリュージョンにびっくり。妖怪変化解除といったところか。しかし、元は人間なら、なぜ人間のまま登場しなかったのだろう?
「すごいです!鬼さんが人間さんに変身しました!」
「巫女様からは大したことは聞いていない。……連れていきたいところがある。この後いいか?」
「巫女様のところですか?」
「いいや、俺たちの事務所だ」
鬼のおじさんはスーツの内ポケットから名刺を取り出し僕に渡した。名刺にはこう書いてあった。
――宗教法人全国霊障支援管理協会
後はこの宗教法人の電話番号とおじさん個人の携帯番号が書いてあるだけだった。
「ええと、この協会は何をする組織なんですか?」
「
なるほど、大雑把に言えば、科学的には説明の出来ない超自然現象に関する組織ということだな。
このおじさんが所属する霊管とやらの助力を得たいが、果たし信じてもいいものか。知らない人に付いて行ってはいけないとは、すでに幼稚園に上る前に教わったことだ。
ブブブっとスマホがバイブッた。
――信じても大丈夫です――
アプリ越しから水晶さんのお墨付きだ。だが、水晶さんに出会ったのは昨日のことだ。水晶さんを信じていいのかもわからない。
しかし、天女ちゃんのことを考えると、ノウハウのある組織の助けが必要だ。妖怪の面倒とかどうやって見たらいいのか分からない。リスクはあるが付いて行こうか……。
「分かりました。その事務所についていきます。場所はどこですか?」
聞けば、隣町の駅前のビルのワンフロアにあるという。車で20分程だそうだ。
早速、僕たちはごつい高級外車に乗って、霊管の事務所とやらに行くことにした。
着いた先は普通のビルだった。このビルのワンフロア丸々霊管とか言う宗教法人のエリアみたいだ。見た感じ普通の事務所だ。働いている人も少ないが普通の人間だ。この人達もおじさんのように特殊な能力を持っているのだろうか。
おじさんは僕たちをある部屋へ連れて行った。途中、天女ちゃんは職員の人達からガン見されていが、僕は全く見られていなかった。
案内された部屋は簡素だった。長机にイス、テレビにホワイトボードと会議室のようだ。中には僕と同じ年齢くらいの女性が居た。眼鏡にスーツ、ピシッと立っている姿は仕事の出来るキャリアウーマンみたいだ。
「ようこそいらっしゃいました。わわ!すごい美少女がいる!龍彦さん、彼女が妖かしの子?それからそちらの方が救世主様……?」
「そうだ」
「初めまして!
「私はとんでもない美少女という妖怪の
「……
確かに湿原濡と名乗った女性は、僕を見て救世主様といった。おじさんは肯定した。厄介事を押し付けられる予感をひしひしと感じる。
「……巫女様がそう仰った」
ちょっと勘弁してほしんですけど、名も知らぬ巫女様。僕は救世主なんて器じゃないよ……。
「……何かの間違いではないですか?僕は見ての通り普通ですから」
「そうですよねー。野丸さん、言っちゃ悪いけど、見た感じ何の変哲もない一般人ですもんね」
全然悪くないですよ。その通りですよ。本当にただの一般人ですから。
「……巫女様の予言は外れたことがない」
とは言いつつ、おじさんも僕が救世主かどうか懐疑的に思っているようだ。巫女様を信頼しているんだけど、目の前の事実が素直に信じさせてくれない。そんな心の葛藤が表情に如実に表れている。
「まあ、それはさておき、野丸さんをここにお呼びした理由なんですけど、お願いしたいことがありまして、わざわざお越し頂いた次第です」
「はあ……お願いですか」
嫌な予感しかしない。今朝出された水晶さんのクエストを思い起こせば、いい予感など出来るはずもない。
「囚われた魂の解放とかですか」
「「!!」」
「……野丸さん、予知能力でもあるんですか?」
「いえ、そのような便利な力はないです」
二人の驚いた反応からして、やはり水晶さんのクエストで間違いなさそうだ。
「お前に浄化してもらいたい魂がある」
嫌です。無理です。出来ません。
「浄化なんてやったことないのですが……」
「……済まないが時間がないんだ。とりあえず、試すだけ試してもらえないか?」
「……分かりました」
「すまない。すぐに準備するから、少し待っててくれ」
おじさんはそう言うと慌ただしく出ていった。
「それじゃあ、龍彦さんの準備が終わるまで、天女ちゃんの今後について相談しましょうか」
「私のですか?」
「そうです。具体的にいえば学校に通ってもらおうと思います!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます