ノーガードにクリティカル

第24話

 その翌日、私は斗真君の部屋のチャイムを鳴らした。

「どうしたんですか、菜々……」

「昨日は大変申し訳ありませんでしたぁぁ!」

 私はガラケーばりに腰を折って頭を下げた。

「ええっ!? 一体どうしたんですか?」

「昨日は、その……あまりに気持ちが昂りすぎて正気じゃなかったといいますか……とにかく、思い出すと勝手なことばかり……すいませんでした!」

 昨日、斗真君と別れてしばらくは幸せの余韻に浸っていた。でもいざ寝ようとベッドに入ると、ふっと冷静になった。

 え……私、斗真君にめちゃくちゃなことしてない!? ミニスカ履かせておいて恥ずかしがってる斗真君に向かって「可愛い」とか、酷すぎない!? まあ、実際可愛すぎたんだけど……てか、それよりも最後、抱きついてなかった!? もう犯罪だよ! 警察!

 パニックになりかけたけど、さすがに夜も遅いから謝罪は翌朝まで我慢した。

「顔を上げてください」

 その言葉に顔を上げると、斗真君は優しく微笑んでいた。

「菜々子さんの言動には慣れたので、怒ったりしませんよ」

「それはそれで複雑というか……」

 そんなにいつも私はやばいのだろうか。

「菜々子さん、今日はこれからおでかけですか?」

 私の恰好を見てそう思ったのかな。確かに今日は、斗真君に会う時の『清潔・安心・安全』をテーマにした服装よりも、可愛い感じを意識している。

「ああ、うん。今日はずっと楽しみにしてたカフェに行くんだ」

「へえ、いいですね! 友達とですか?」

 斗真君の無邪気な質問に、私の顔から笑みが消えた。

「……カフェに行ってくれるような友達はいません」

「じゃ、じゃあ! 僕が一緒に行ってもいいですか?」

「いいの!?」

 私はぐいっと斗真君に詰め寄った。

「はい。今日は特に用事もないですし、菜々子さんが楽しみにしてるカフェ、気になります」

「そっか、ありがとう。斗真君が来てくれて助かるよ。人数の多いほうが負担も少ないし」

「え……あの、カフェに行くだけ、ですよね?」

 斗真君が疑わし気に尋ねる。

「もちろん! カフェに行くだけだよ!」

 私は全力の笑顔で答えた。


「あの……ここ、普通のカフェなんですよね? なんか見覚えのある絵が大量に飾ってありますけど……」

 目的のカフェに入ると、斗真君が言った。

「うん! 普通のコラボカフェだよ!」

 そう、ここは昨日から開催されているアイフレのコラボカフェである。

「やっぱり……なんかあると思ったんです……菜々子さんがアイフレの話をするときのテンションに似てたから……!」

 私達は案内された席に座った。

「まあ、食事をする場所には違いないから、好きなの食べてよ」

 私は斗真君にメニューを渡した。

「うわぁ……色々あるんですね」

「そうでしょそうでしょ! 私はもう決まってるから、斗真君はゆっくり決めていいよ」

「え!?菜々子さん、もう決まったんですか?」

「コラボカフェのメニューがサイトにアップされたときから決めてたんだ。私はこれ」

 そう言って私はあるメニューを指さした。

「え……『小鳥遊らむねの細菌ラボパンケーキ』? 何ですかこれ!」

 斗真君が驚くのも無理はない。ビジュアルがちょっと、アレなのだ。

「ホワイトチョコレートソースが掛かったパンケーキの上に乗ってるジェリービーンズが細菌を表してるんだって」

「それを知ったらより食べにくそうですけど……じゃあ、僕はこの『橘聖那♡特製オムライス』にします」

「りょーかい。じゃあ、とりあえず注文するね。」

 私は2品を注文した。


 しばらく待っていると、奥のキッチンから私達の料理が運ばれてくるのが見えた。

「……斗真君、ここからが今日のメインイベントだからね」

「え?」

 その時、店員さんが私達の席にやってきた。

「お待たせしました。こちらが『小鳥遊らむねの細菌ラボパンケーキ』と『橘聖那♡特製オムライス』です」

 そう言って注文した料理をテーブルに置いた。

「そしてこちらが特典のランチョンマット2枚です。ごゆっくりどうぞ。」

 店員さんが遠ざかってから、私は口を開いた。

「このフードについてくるランチョンマットが今回最大の目的なんだよ! ランダム配布だから、メニュー名に入ってるメンバーとは必ずしも一致しないんだ。……じゃあ、開くよ」

 私と斗真君は裏返しになっているランチョンマットに手をかける。

 らむちゃん……来いっ……!

「せーのっ!」

 表になったランチョンマットは、私の方がイーリス・ブリュックナーちゃん、斗真君の方が風間玖藍ちゃんだった。

「ぐぅ……っ! そう簡単には出ないか……」

 だって19分の1だもんなぁ……現実は厳しい……

「じゃあ、食べよっか」

「「いただきます」」

 オムライスは斗真君も美味しいと言って食べていた。さすが、料理上手な聖那ちゃんのオムライス。

 私の方はというと……見た目はちょっと奇抜だけど、まずいものは入っていないし、美味しく食べられた。

「美味しかったですね」

 オムライスを食べ終わった斗真君はそう言った。

「それはよかった。……ところで斗真君。お腹はいっぱいになった?」

「そうですね……まだ食べられますけど、大丈夫ですよ」

「ほんと!? じゃあさ、もう一つずつ注文しない? もちろん今日のお代は私が払うからさ!」

「えっと……じゃあ、いただきます」

「ありがとう! 食べ盛りな男子大学生は頼りになるね!」

「もしかして、行く前に『人数の多いほうが……』って言ってたのはこのためですか……」

 私は『路熊莉子のツンデレ愛盛りカレー』、斗真君は『納野めぐむの角付きプリンアラモード』を注文した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る