第25話
「お待たせいたしました」
店員さんが料理とランチョンマットを置いた。
「えっと、じゃあ、また『せーの』で開きますか?」
そう言って斗真君はランチョンマットに手をかける。
「待って!」
私の言葉に斗真君は手を止めた。
「い、一枚ずつにしよ……」
さすがにこれ以上は食べられないし、物販に使うお金も残しておきたい。この2枚で最後だと思うと、怖くて一気には出来なかった。
「分かりました」
「じゃあ、私からいくね。せーのっ!」
そこに描かれていたのは安堂羽瑠ちゃんだった。
「くぅぅー……!」
あと1枚かぁ……
「菜々子さん、こっちもやりますか?」
気を使ってか、斗真君が最後のランチョンマットを渡そうとする。
「だめ! 斗真君がやって!」
隣人に斗真君を引き当てるという最大のガチャを当てた私にはもう運が残ってない気もするし。
「分かりました。……じゃあ、いきます」
お願いっ……!
「せーのっ!」
斗真君が裏返した、そこには……
「菜々子さん!」
「はぁぁぁ……っ!」
浴衣姿のらむねちゃんが微笑んでいた。
私はそのランチョンマットを手に取る。
いつものハーフアップツインテールから全部の髪をアップにして、ちょっと大人っぽい感じ。それに、手にもった真っ赤なりんご飴がらむねちゃんの白い肌を引き立てている。
よほどこのカフェの企画チームはらむちゃん推しなんだろうな……そうじゃなきゃこんなに魅力あふれる作品に出来ないし!
「斗真君、最高! ありがとう! あのね、これ今回のコラボカフェの描き下ろしだから本当に欲しかったの! 嬉しい!」
優しい顔で私を見ていた斗真君が口を開いた。
「菜々子さん、可愛い……」
「……え?」
いま可愛いって言った?
突然、斗真君の顔は真っ赤になった。
「……あ、あの、違うんです! その、服が! いつもと違う感じでいいなあって……」
「ああ! うん、推しのところに行くから気合を入れてね……」
びっくりした……らむねちゃんや斗真君にならともかく、こんなはしゃいでるオタク、可愛くなんてないよね。
でも、言い方とかタイミングとか、私に言ってるみたいでドキッとした……
「じゃあ、らむちゃんもお迎えできたことだし、食べてたら帰ろっか」
「……そう、ですね」
私達はアパートの部屋の前まで戻ってきた。
「いやー、今日はらむねちゃん引き当ててくれてありがとう! 斗真君、運もってるなぁ。今度ゲームのガチャ引くときはお願いしよっかな、なんて……」
「全然いいですけど、らむねちゃん引けるかは分からないですよ」
「大丈夫! ゲン担ぎみたいなものだからね」
そこで会話が途切れた。
「じゃあ、また連絡するね」
そう言って玄関のドアを開けようとすると、斗真君が声をかけた。
「……あの! この後、菜々子さんの部屋に行ってもいいですか?」
それは願ってもない申し出……!
ああでも、今日はどうしてもやらないといけないことがあるんだった……用事を今日に回した昨日までの自分が憎い……っ!
「ごめん、今日はこれからちょっとやることあるんだよね。また今度! いつでも私のところに来てね」
『今度』のところを強調しすぎた気もするけど……それくらい今回のことは惜しい。
「分かりました。また、今度」
私達はそれぞれの部屋に入った。
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