第17話
場面は切り替わり、夕焼けの技術室が映った。中には電動ノコギリなどの様々な工具と、Ωの2人、そして縄で縛られた美月ちゃんとめぐむちゃんの姿があった。
「おい! おい! 放せぇ……」
廊下から声が聞こえ、技術室の扉が開く。そこには魅亜ちゃんの腕をがっしりと握りしめた絵里奈ちゃんが立っていた。
魅亜ちゃんを技術室へ押し込み、入り口に鍵をかける。
「はぁ、これで全員揃いました」
「えーと、絵理奈ちゃん? 僕達なぜか縛られているんだけど、これってどういうことかな?」
「なぜか、じゃないですよ! 4人で集まって早々、先輩たちがどっかへ行っちゃうんですから! この広い学校の敷地の中で、文化祭の人混みの中から先輩たちを探すのがどれだけ大変なことだったか分かりますか? 美月先輩は服飾部のコスプレ写真館で着せ替え人形にされているし、めぐむ先輩は農業科の庭園にカモフラージュしているし、魅亜先輩はメイド喫茶でオムライスにトマトソースをもっとかけてって駄々こねているし……また逃げ出さないように縄で縛られるくらいは当然の報いです!」
「……なんか口悪くなってない?」
「まあ絵理奈君、一旦落ち着いて。私達が発明した機械を身につければ、これからはそんな思いをせずに済むさ」
「本当ですか!?」
「うん。じゃあ、これに着替えてくれるかな」
そう言って瑠佳ちゃんは絵理奈ちゃんに赤いジャージを手渡した。
「わ、分かりました……」
「着替えましたけど、これって普通のジャージじゃないんですか?」
絵理奈ちゃんは真っ赤なジャージに着替えていた。
「それは一見何の変哲もないジャージだけど、実はある細工を施してあるのさ。それに、これだけじゃないよ」
「これを担いで……」
瑠佳ちゃんは円柱型のリュックサックのようなものを絵理奈ちゃんに担がせた。
「そして、この刀を腰につけて…できたよ!」
「……え?」
唖然とした様子の絵理奈ちゃんに、縄を解かれた2人と魅亜ちゃんが近づく。
「まずはこのリュックサック! 魅亜君、ここを見てごらん」
羽瑠ちゃんは円柱型の下の方を指さした。
「……あ! 蛇口が付いてる!」
「はい、コップ」
瑠佳ちゃんに渡されたコップを構えて蛇口をひねる。
「これは……トマトジュースだ!」
「そう! 魅亜君はトマトが好きって聞いたから、トマトジュースの蛇口をつくったのさ。絵理奈君の側にいればいつでも飲めるよ」
「高貴な魅亜にぴったりな発明だな!」
「次はこの刀。この刀を鞘から取り出すと……」
瑠佳ちゃんが絵理奈ちゃんの腰から刀を抜きだすと、先端に細い筒がついていた。
「この先端からは接着剤がでるの。鍔を回すと、木材用とかプラスチック用とか、接着剤の種類が入れ替わるよ。これはめぐむ君がいつでも角を直せるようにね」
「ありがとうなのら」
「そして最後は美月君用。瑠佳、頼んだ」
「うん、羽瑠。」
そう言って瑠佳ちゃんは部屋のカーテンを閉めて、真っ暗にした。
「スイッチオン!」
羽瑠ちゃんの掛け声とともに、絵理奈ちゃんのジャージは青白く点灯した。
「綺麗……」
魅亜ちゃんが呟く。
ジャージの明かりが消え、部屋の照明がついた。
「ふっふっふ。これが最後の仕掛けさ。美月君はそのキラキラとした王子様オーラから自然と人を集めてしまう。だからより目立つ絵理奈君の側にいれば安心というわけさ。どうかな?」
「すごい……」
美月ちゃんは感心したように呟いた。
「機械の説明はここまでだよ」
「絵理奈君、満足してくれたかな?」
瑠璃ちゃんと羽瑠ちゃんは絵理奈ちゃんに向きなおった。
「ど……」
うつむいた絵理奈ちゃんが呟く。
「ど?」
Ωの2人は不思議そうな顔をした。
「どーしてこうなるんですかぁ!」
顔を赤くした絵理奈ちゃんが叫ぶ。
「確かに……確かに先輩たちはこの機械で繋ぎとめておけるかもしれないですけどっ! 私はどうなるんですか! これじゃあ、トマトジュース売り子浮かれ修学旅行生風発光人間ですよっ!!」
「発光……ぐふ……っ!」
「魅亜、笑ってやるな」
そう言って美月ちゃんは魅亜ちゃんの肩を叩いた。
「まだトマトジュースとライトはいいとして、何で刀なんですか! 刀の必要性、全くないですよね!?」
「だって、閃いたから作らずにはいられなかったのさ。ねえ、瑠佳」
「うん。刀の先端から接着剤が出るなんて世界のどこでも見たことないでしょ。だから面白いと思って」
「全然面白くないですっ!」
反論する絵理奈ちゃんに魅亜ちゃんが近づく。
「なぁ、絵理奈。もっとジュース飲ませてくれ」
「嫌です! 今日さんざん好き勝手した先輩にこれ以上ご褒美はあげられません!」
「それなら力づくで飲むまでだ!」
「絶対にあげません!」
走り出す絵理奈ちゃんを魅亜ちゃんが追いかける。
「その刀欲しいのら」
魅亜ちゃんの後をめぐむちゃんが追う。
その様子をΩの2人と美月ちゃんが眺めていた。
「元気だなぁ……」
「美月君は一緒に追いかけないの?」
「僕はやめておくよ。あっという間に追いついちゃうしね」
走るのは苦手なのか、3人の速度はスローペースだった。
「そっか」
「2人は僕たちが絵理奈を困らせてヒドイ奴だって思う?」
「思わないさ。だって、」
「「みんなが幸せそうだから」」
羽瑠ちゃんと瑠佳ちゃんの言葉が重なった。
「そっか……僕らは絵理奈に甘えているんだ。ステージ上の絵理奈は僕らの誰よりもアイドルなんだよ。そんな絵理奈に僕たちは魅せられていて、つい構ってほしくなってしまう。大好きなんだ」
「絵理奈君も同じ気持ちさ」
「そうだったらいいな」
美月ちゃんの視線の先には笑顔で走る3人の姿があった。
後夜祭のステージ裏にはアイドルたちが集まっていた。
「あっという間にフィナーレね」
玖藍ちゃんが言った。
「ほら、寂しい思いなんてしてる暇なかったでしょ?」
愛実ちゃんが自慢気に見つめる。
「ええ、愛実のおかげで最高の文化祭になったわ。ありがとうね」
そう言って愛実ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わ、わしゃわしゃするなぁ!」
『これより詩井野学園アイドルによるフィナーレライブを行います』
ライブの開始を告げるアナウンスが流れた。
「「「よし、行こう!」」」
何人もの声が重なる。
そして彼女たちはステージに向かって走り出した。
アイドル全員で歌うエンディング曲の文化祭verとともにエンドロールが流れる。
Finの文字が画面に映り、再生が終了した。
私は机に肘をつき、頭を抱えた。
「はぁー……」
「菜々子さん、どうかしましたか!? 具合でも……」
斗真君が心配そうに見つめる。
「尊い……」
「え……?」
「ライバルとの熱い戦いと友情! 青春って感じがするよね! 何回観てもいい……!」
「そういえば菜々子さんってこういう人でしたね……」
「斗真君はどうだった!?」
「ライブバトルのところは高校の部活を思い出しました。仲間と一緒に練習して、試合に出て、上手くいったりいかなかったり。その頃の記憶が蘇りました」
「そっかそっか! うんうん、いいよねぇ。じゃあ、アニメ全部観てみて、気になる子はいた?」
「そう、ですね……愛実ちゃんはちょっと気になりました」
愛実ちゃんかぁ……赤髪ツインテールで可愛い系。なるほどねぇ……
「斗真君ってああいう感じの子がいいんだ?」
「ち、違いますよ! あの子は菜々子さんに似てるから気になっただけで……!」
斗真君は顔を赤くして手をブンブンと振る。
なんだ、そういうことか。
「確かに愛実ちゃんはらむねちゃん大好きだからねー。そういう意味では似てるか。じゃあ、どの子が好みだった?」
「それは言いませんっ!」
反応が可愛くてついからかいたくなっちゃうな。
それからしばらくアニメの話をして今日はお開きになった。
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