第14話
場面は切り替わり、『詩華祭』と書かれたアーチが映し出された。いよいよ文化祭当日。アーチから校舎へと続く道沿いには様々な屋台が並び、校舎内には教室を利用した模擬店が賑わっている。
そして次に映し出されたのは、賑やかな廊下をパンフレットとにらめっこしながら歩く縫ちゃんの姿だった。
「2人の教室は……ここだ!」
そう言ってある教室に入った。
「お帰りなさいませ、お嬢様……」
出迎えたのはメイド服姿の涼ちゃんだった。
「涼ちゃん達のところはメイド喫茶だったんだね。似合ってる!」
「ありがと……注文はフードメニューにしてね。ドリンクはホールがつくらないとだから」
「涼ちゃん!」
そう言ってカーテンの仕切りから飛び出してきたのはコック服姿の聖那ちゃんだった。
「もう、面倒くさがらないの! 縫ちゃん来てくれたんだね。ここ座って」
聖那ちゃんは空いているテーブルに縫ちゃんを案内した。
「ドリンクでもフードでもいいからね。私達が愛情込めて作っちゃうんだから」
「私は別に……」
「涼ちゃん!」
「うう……ドリンクも頑張ります……」
「はーい。ところで2人はいつ休憩なの? 一緒に文化祭回ろうよ!」
その言葉に聖那ちゃんと涼ちゃんは顔を見合わせた。
「ごめん、縫ちゃん。今日は人手が足りてなくて……」
「そう。私が働かないといけないくらい忙しい。それに、聖那は料理長だから抜けられない」
「そっかぁ……」
縫ちゃんはしょんぼりと肩を落とした。
「聖那料理長! オムライスって……」
その時、カーテンの向こうから声が掛かった。
「はーい! すぐいくね!……ごめん、もう行かなきゃ。私達の分も楽しんでね!」
「私もオーダー取りに行かないと……また後で」
そう言って2人は行ってしまった。
「一緒に遊びたかったなぁ……」
縫ちゃんはテーブルに突っ伏した。
「ねぇねぇ! ここ、一緒に座っていいかな?」
その声に顔をあげると、そこにいたのはBlütenblattの2人だった。
「急にすいません。もしお邪魔じゃなければなんですが……」
雅ちゃんが声をかける。
「もちろんだよ! さあさあ座って!」
縫ちゃんの言葉に2人はテーブルに着く。
「今日はお一人なんですか?」
「うん……私、クラスの模擬店の衣装チーフで、準備頑張ったから当日の仕事は任せてってクラスの子に言われたの。だから聖那ちゃんと涼ちゃん誘って一緒に文化祭回ろうと思ったんだけど、お仕事忙しいって断られちゃった」
「じゃあ、私達と一緒に遊ぼう!」
イーリスちゃんが笑顔で言った。
「いいの?」
「
「「クレープ!」」
2人の声がシンクロし、顔を見合わせて笑った。
「そう。だから2人よりも3人の方がたくさん食べられるでしょ」
「もう、イーリスったら食べることばっかりなんですね」
雅ちゃんが楽しそうに言った。
「だって日本の食べ物は美味しいから。このカフェもいい匂いがするから入ったの」
「ここの料理長は聖那ちゃんだからね! それはもう宇宙一美味しい料理が食べられるよ。それに、涼ちゃんは器用だから、ラテアートなんてすごいのを作ってくれるんじゃないかな」
「Oha! それは楽しみ!」
そしてまた場面は切り替わり、再び屋台が並ぶ校舎前が映し出された。多くの人が行き交う中、4人の生徒にフォーカスされる。
「先輩方、人が多いんですから離れないようにしてくださいね。くれぐれも単独行動はしないように」
「分かってるよ。勝手にどこかへ行ったりしないって」
「そうだぞ。魅亜は高貴な吸血鬼の末裔なのだからそんなことはしないんだ」
美月ちゃん、魅亜ちゃんが次々と答える。
「はぁ。それならいいですけど……」
「人多い……怖いのら」
そう言ってめぐむちゃんが絵理奈ちゃんの腕にぎゅっと抱きついた。その頭にはトレードマークである自作の角のカチューシャをつけている。今回は鹿モチーフのようだ。
「大丈夫ですよ。私がいますから」
「うん……」
その時、魅亜ちゃんが勢いよく左の方向を振り向いた。
「これは赤き液体の匂い……魅亜を呼んでいるぞ!」
そう言って魅亜ちゃんは走って行ってしまった。
「ちょっと! 言ったそばから……って美月先輩もいない!」
絵理奈ちゃんが周りを見回すと、一緒にいたはずの美月ちゃんの姿が見えなくなっている。
「美月ならそこにいるのら」
めぐむちゃんが振り向いて指さす先には女子生徒に囲まれる美月ちゃんの姿があった。
「今日もカッコいい!」
「さすが私達の王子!」
「あー……僕、戻らないとなんだけどな……」
美月ちゃんは困ったように頭を掻いた。
「ねえ王子! あっちに美味しいクレープ屋があるの! 一緒に行きましょう!」
「ちょっと! 私だって王子と行きたいところがあるのに!」
「あたしだって!」
「ケンカしないで……行きたいところ、全部行こう」
「「「王子……!」」」
美月ちゃんと女子生徒の集団は歩いて行ってしまった。
「美月先輩まで……!」
絵理奈ちゃんはため息をついた。
「めぐむ先輩、一緒にあの二人を取っ捕まえに行きましょう」
そう言って、腕を掴んでいるめぐむ先輩の方を向くと、頭に付いた角が隣を通る人の腕に当たった。
『ポキン』
軽い音を立てて、角は折れた。
「あ、あ……ああ!」
「ちょっと、めぐむ先輩! 落ち着いて!」
「だから人の多いところは嫌なのら!」
そう言って、走り去ってしまった。
「もう……先輩たちが一緒に遊ぼうって言ったのに! この自由人達め!」
絵理奈ちゃんは空に向かって叫んだ。
そんな絵理奈ちゃんに近づく人たちがいた。
「どうしたの?」
絵理奈ちゃんに声をかけたのはΩの2人だった。
「大きな声出して目立ってるから声かけちゃったよ。ね、羽瑠」
「うん。そんな風に取り乱して、一体どうしたんだい?」
「それが、聞いてくださいよ! 文化祭はクローバーパレットの4人で一緒に遊ぼうって約束してたのに、先輩たちが勝手にどっかへ行っちゃったんです! アーチの前で集合してまだ10mも歩いてないんですよ! それなのに先輩3人が行方不明って……こんなに団体行動ができない高校3年生がいますか!?」
「分かったから一旦落ち着こうね」
「どーどー」
Ωの2人は絵理奈ちゃんの背中をさすった。
「でも、大体状況は分かった。つまり逃走癖のある先輩3人を絵理奈君のところに留めておければいいんだろう?首輪をつけておくんじゃ面白くないし、3人が進んで絵理奈君の元から離れないような装置を作ってやろう」
「首輪って……でも、そんなことが出来るんですか?」
「当たり前さ。だって私達は、」
「「天才発明家だから(さ)!」」
そう言って2人は決めポーズを決めた。
「じゃあ、3時間後に第4技術室へ来てね。あそこは文化祭の展示に使ってないから。それまでに逃げた3人を捕まえておいてね」
「早く行こう、瑠佳!」
「うん、羽瑠!」
「ちょ、ちょっと!」
2人は絵理奈ちゃんの制止も聞かずに走っていった。
「あの2人もうちの先輩たちに負けず劣らずの変人だな……」
絵理奈ちゃんは遠ざかる2人の背中を見つめ、そう呟いた。
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