第13話

 アニメ第8話は慌ただしい校舎内の様子のカットから始まった。

「流石に文化祭前日となると賑やかだね」

 愛実ちゃんが隣を歩く玖藍ちゃんに話しかける。

「そうね。私は今年で最後だと思うと何だか寂しくなっちゃうわ」

「大丈夫。寂しさなんて感じさせないくらい、私が玖藍のことを楽しませるんだから」

「ふふ。それじゃあ、楽しみにしているわ」

「任せて!」

 2人が廊下を歩いていると目の前に言い争いをしている集団がいた。

「私達が先に予約してたんだけど!」

「そんなはずない! 私達が実行委員に聞いた時、まだ空きがあるって言ってた!」

 愛実ちゃんが間に割って入る。

「ちょっとちょっと! どうしたの?」 

 言い争っている生徒の一人が愛実ちゃんの方を振り向いた。

「愛実さん、聞いてください! 私達が先に文化祭最終日の青空ステージを予約してたのに、この人達も予約してるって言うんです!」

「ちょっと! 自分の学科のアイドルだからって都合よく言わないでよ! 私達が絶対先だったんだから!」

 両者は収まる様子がない。

「こっちは特進科の1年生でそっちは商業科の2年生みたいね」

 玖藍ちゃんが言うと廊下の向こうから声が掛かった。

「あれ、みんなどうしたの?」

「すずこちゃん!」

 商業科の2年生が言う。向こうからやってきたのはsoropachiの3人だった。

「seek red sweetの2人もいるし。どういう集まり?」

「それが、特進科の1年生と商業科の2年生で青空ステージの予約がかぶっちゃったみたいなの」

 玖藍ちゃんが状況を説明すると、楓ちゃんが口を開いた。

「あ、あの……どちらかが他の枠に移動するっていうのはどうでしょうか? 文化祭1日目とか……」

「だめよ! 私達は最終日にステージを使いたいの!」

「そうよ! 文化祭の最終日に、一番目立つ青空ステージを使うんじゃないと意味がないの!」

 しかし、両者は譲る気配がなかった。

「す、すいません……」

「いいアイディアだったよ、楓。でも話し合いでまとまらないんじゃ困ったね」

 すずこちゃんが首を捻った。その時、

「その話、聞かせてもらったよ!」

 そこに現れたのはperidotの3人だった。らむねちゃんが前に進み出る。

「各学科のアイドルは揃っていることだし、ここはライブバトルで決めたらどうかな?」

 ライブバトル。それはこの学校独自のルールで、学科間のトラブルが起きたときなどにアイドルのライブによって決着をつけるというもの。審査はバトルに参加しないアイドルによって行われる。

「私達はみんながそれで納得できるならいいと思うよ」

 そう言ってすずこちゃんが言い争っているみんなを見回す。

「seek red sweetのパフォーマンスは最高なんだからもちろん賛成だよ!」

「うちのsoropachiはすごいんだから! 私達も賛成だわ!」

「よーし、決まりだね! 玻璃ちゃん、大丈夫そうかな?」

 そう言ってらむねちゃんが玻璃ちゃんの方を見る。

「はい。さっき文化祭実行委員に確認したら、重複予約は委員のミスみたいです。ライブバトル用に明日のガーデンステージを12時から使えるようにしてくれるって言っていました」

「りょーかい! じゃあ、2グループともいいライブを楽しみにしてるね!」

 らむねちゃんがそう言ってウインクをする。

「最高のパフォーマンスをして絶対小鳥遊に勝つんだから!」

 愛実ちゃんがそう言ってブンブンと拳を振った。

「戦うのはあたし達とじゃなくて、soropachiなんだけどな」

 呆れたように真央ちゃんが言う。

「べ、別に商業科のみんなのために頑張るんじゃないんだからね!」

「そこは素直に頑張るでいいんじゃないかな!?」

 フンとそっぽを向く莉子ちゃんをすずこちゃんがなだめた。

「ライブの準備もあることだし、そろそろ行きましょうか。明日はいいステージにしましょうね」

「もちろん!最高のライブにしましょう!」

 そう言って玖藍ちゃんとすずこちゃんは手をとった。そして別々の方向に向かって歩き出す。

 ばらばらと解散していく中でらむねちゃんが声をかけた。

「愛実ちゃん! 名字じゃなくって名前で呼んでほしいな?」

「む、無理っ!」

 赤面する愛実ちゃんは走ってその場を去った。玖藍ちゃんは軽くお辞儀をして愛実ちゃんの後を追う。

 残ったのはperidotの3人となった。

「うーん、残念だなぁ。でも、もっと仲良くなりたいから頑張ろ!」

「らむね、今日はやけにライブバトルに乗り気だったな」

 真央ちゃんが声をかける。

「だって、seek red sweetもsoropachiも大好きなんだもん! もちろん他の学科のアイドルだって大好きだけどね。バトルの時っていつものライブと違う雰囲気っていうか、観てるこっちもハラハラドキドキしちゃうのが楽しいの」

「分かります。緊張感のある空気がアイドルのいつもと違う一面を見せてくれますよね」

「そうは言っても明日は審査する側なんだからな。ライブを楽しむだけじゃダメなんだぞ」

「分かってるよぅ。明日は審査員としてちゃんとジャッジするんだから!……ふふ、ライブ楽しみ」

「……心配だ」


「ということで明日はライブバトルになったわけだけど、2人はやりたい曲ある?」

 廊下を歩きながら、すずこちゃんは莉子ちゃんと楓ちゃんに声をかけた。

「この前の新曲はどう? seek red sweetの雰囲気と対照的で引き立つと思うんだけど。」

 莉子ちゃんが言った。

「あれかぁ。確かに私達らしくていい曲だったよね」

「まあ、楓の作る曲は全部いいからね」

「莉子ちゃん……!」

 その言葉に楓ちゃんが目を輝かせた。

「あたしは事実を言っただけだわ。そんなに喜ばないでよ!」

「だって嬉しいんだもん! ありがとう、莉子ちゃん!」

 楓ちゃんは莉子ちゃんに抱きついた。

「ちょ、ちょっと! 急に抱きついてこないで!」

 そう言いつつ、莉子ちゃんの顔は嬉しそうだった。

「やっぱり、素直じゃないなぁ」

 すずこちゃんは困ったように笑った。


「愛実、急に走り出さないでよ」

 追いついた玖藍ちゃんが言った。

「だ、だって……」

 玖藍ちゃんの方を振り向いた愛実ちゃんは泣き出しそうな顔をしていた。

「小学生の頃からずっと大好きだった小鳥遊らむねちゃんが私のすぐ近くにいるだけでも奇跡なのに、名前で呼ぶなんて……そんなのもうキャパオーバーだよぅ! 目の前にいると何だかキツイ話し方になっちゃうし! だって可愛すぎるんだもん! むりぃ……」

「はいはい。それは困ったね」

「玖藍ちょっとばかにしてる!」

「馬鹿になんてしてないって。ほら、大好きならむねちゃんが観てくれるステージなんだから、明日は頑張らないとね」

「うん! 最高に可愛い小鳥遊らむねちゃんに認めてもらえるように頑張る!」

「愛実だってらむねちゃんに負けないくらい可愛いわよ」

「絶対ばかにしてる!」

 抗議する愛実ちゃんの頭を玖藍ちゃんがそっと撫でた。

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