第39話 訓練=邂逅
「ひかりん、れいれい! くすちゃんを左右で挟み込んで!」
「クスネはこれを防げるかしら!?」
「悪く思わないでください、これも戦いなのです」
「甘いよ?」
荒地をモチーフとした
その中で多対一を強いられている少女――まぁ俺なのだが、今は訓練の相手を務めている。
俺は一度、グループを離脱した身であるが、そんな事情などお構いなしにまたこうやって一緒に切磋琢磨しあえることに最大限の感謝を皆に送っている。
「わっわっ!」
「ヒカリは動きに少しムラがあるね……おっと、今のは掠ってたかな。よく不意を突いたねエイ」
「ヒカねぇがいい
「さとちゃんの補助もあったから?」
「さっすがくすちゃん。お見通しだね~」
「かなり不意を突かれることが多くなってきたかな。強く、なってる」
鈴の想いを聞かされた俺は、気付けば全部投げ捨てて色々な事を吐露していた。
皆から、俺が思っている以上に皆にとって俺と言う存在がこれほどまでに大きくなっていることを沢山聞かされた。
果たすべき目的の為に、犠牲になろうとしている
だけど
俺が見続ける
でも――――、
「——それはそれとして、皆を倒すね」
「え……なんでぇッ!?」
鎌で鈴の攻撃を防いでいたのを押し返す。すると簡単に鈴の体勢が大きく傾いたので隙だらけの腹部に蹴りを一発。
「うん、筋力不足だね」
「来栖音サンがおかしいだけですよ?」
「エイはあちこち飛び回るのはいいけど速度の緩急が欲しいかな」
「ひうっ」
「車は急には止まれないってね。エイは車よりジェット機みたいだけど」
各所から放たれる銃弾を必要最低限の動作でかわしながらエイの元へ並走する。直ぐに離れようと後ろに跳ぶがそれは予測していたので背後に回り込み、肘打ちを当てる。
「なん、で……?」
「相手が悪いかな」
「それ、で諦める……理由に、は、ならない……っす!」
「ッ!」
異界によって回復したエイにゼロ距離射撃を喰らってしまった。ゴム弾並みの威力の弾が見事クリーンヒット。ちょっと痛い。
しかしながら、模擬戦中とはいえかなり本気で攻撃したのにも拘らず、意識が残っているエイに内心驚いた。この分だと鈴も動けないだけで意識が残ってそうだな。
「来栖音サン、もう一度言ってくれますか……誰の相手が悪いんすか?」
「訂正するよ。戦略の幅の広さ、相手の隙を誘う演技力、十二分に私と渡り合えてるね」
「来栖音サンに追いつきたいですから」
「これもさとちゃんの入れ知恵かな?」
視線を当事者に向けると思惑が上手くいってにんまりとした笑みを浮かべている……かわいい、じゃなくて。
「入れ知恵だなんて人聞きの悪い事言わないでよ~。わたしはただ、戦い方のアドバイスをしてるだけなんよ~」
「その結果で私のおでこが赤くなってるよ?」
「じゃあ訓練が終わったらよしよしして癒してあげる~」
「私もやってみたいです!」
「鈴が暴走してる……どうして?」
鈴は
全宇宙のありとあらゆる万物にとって、鈴は可愛いということは周知の事実なのでその可憐さを説くことは割愛する。さてそんな目に入れても痛くない鈴が接触したいと自ら来てくれるのだ。
は? あ、天使か(直球)
これ程愛らしい鈴を俺は前世から見たことがあったのか、いや無い。
「皆、今って訓練中だよ?」
「もう訓練とか続ける雰囲気じゃなくなっちゃったっすけど」
「レイもサトリも子供ね!」
「一番子供っぽいのはヒカねぇだから!」
「酷いわ!? エイったらそんな事言うように育てた覚えはないはずよ!」
「ヒカねぇに育てられた覚えなんてある訳ないじゃん!」
「もう、また始まっちゃったよ
ヒカリとエイは喧嘩、さとちゃんと鈴はどっちが俺をよしよしするかを決めるじゃんけんをしている。全くもって本当に何してんの?
ついさっきまで白熱した模擬戦を繰り広げていたのに気付けばこうやってどんちゃん騒ぎをしている。その切り替えの早さが実に愉快で、とても楽しくて、この時間がずっと続けばいいのにと思ってしまう。でも流石にヒカリとエイの喧嘩は止めた方がいいよな。個人的にはさとちゃんと鈴の方を即刻止めさせたいけど。
――そこから飛んできたナニカに俺は反応することが出来なかった。
「……ぉえ?」
「ッ!? れいれい!」
「私ですら見えない速度……ッ!?」
「来栖音サン!」
「だい、じょう……ぶッ! エイは鈴の回復を!」
俺の中の危険を知らせる過去最大の警鐘がけたたましく鳴り響き、俺の思考を搔き乱す。迫りくる危険へ咄嗟に【武装】を顕現させれたのが奇跡だった。一瞬でも判断が遅かったら俺の意識は闇へ沈んでた……。
「ぐぅぅ! ……一撃が、重い!」
攻撃を止めたというのにその勢いが死ぬことが無い。一体どんな力で
「さとちゃん!」
「分かった!」
俺の合図でさとちゃんが入り口に四元素をぶちかました。
あの人にも牽制にはなったのか、俺を潰さんとばかりに進撃していた鎌が逆再生の様に引っ張られ、入り口の奥にさとちゃんの魔砲を弾く様にしながら引っ込んだ。なんともまあ器用な事で。
「平気かしらクスネ?」
「くすちゃん……」
「怪我はないですか?」
「来栖音サン……相手への追撃は?」
「大丈夫だよ皆。戦闘状態も解いていいよ……私が知ってる気配だったから」
俺がそう告げるとさとちゃん達が渋々【武装】を解除した。
するとそのタイミングを見計らったように入り口からやっぱりと言うべきか、俺の察知した人物が顔を出した。
「————へぇ? ウチのあいさつを頑張って返す上にウチの事まで覚えてるのね。そんな所はヒサに似て可愛いじゃない」
「……手荒な御挨拶ですね」
「ウチなりのあいさつよ、
「何となくですけど字が違う気がしますよ……紫蓮アラタさん」
「フフッ……アラタでいいわ、クス」
指摘を受けた彼女は不敵な笑みをしながら俺達の前に現れたのであった。
あのー、『クス』ってあだ名はやめてくださいアラタさん。だって二回連続で呼ぶ時「クスクス」って笑い声みたいに聞こえちゃうから。あ、ダメですか……そうですか……。
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