第38話 復帰=推言葉

「脇道に行ったわ!」

「ペース上げるよ~」


 騒動の被害者疑惑の女の子を追い続ける。こっちがそこそこの走力で駆けているがその距離は縮まらないどころか離れる一方。あれは多分わたし達に気付いているよね~?


「れいれい。【武装】を合図したらあの子に投げてくれる~?」

「……いいのでしょうか?」

「いいよ~。あの子もわたし達が尾行してることに気付いてるから思いっきり狙っちゃって~」

「それは向こうが迎撃してくると想定しての策ですか、覚サン?」

「そうだね~。えいーが攻撃しても良かったんだけど~……流石に襲撃体以外でえいーの【武装】を使う訳にもいかないんよ」

「人に向けて発砲するのは確かにダメっすね」

「そこなのかしら……?」


 あのねれいれい、こんな所に突っかかってるようじゃネタの供給過多でツッコミ切れなくなっちゃうよ~? 「ボケを流すことも大事だよ」ってくすちゃん言ってたからね~。


「一本道に入ったわ」

「……ん? この道……」

「今! れいれい、投げて!」

「分かり、まし……たっ!」


 れいれいが投げる前にえいーが何か言っていたような気がするけどなんて言ってたんだろう~?

 女の子とれいれいの【武装】である三叉槍さんさそうがその距離を零にする――ことにはならなかった。


「————ぇ?」


 その声は一体誰が呟いた言葉だったのか、それさえ思い出せないほどの吃驚がわたし達を支配した。


「————だめだよ、それは」


 聞き覚えのある、それも耳朶に鮮明に残っている音が前方から発生している。

 何で、嘘だよね、ありえないよ、と浮かび上がる言葉を必死に抑圧してわたしは、わたし達は目の前の現実へ口を開いた。


「くすちゃん――」

「『くすちゃん』……? どうしたの、

「は?」

「貴女がヒカリ、貴女がエイ、貴女は鈴。……うん、みんな揃ってどうしたの?」

「…………」


 こいつは、誰だ?


「いきなり攻撃してくるのはちょっとびっくりしちゃったよ。私が身を挺して護らなかったらこの子が大怪我してたよ? ちゃんと投げるんだったら襲撃体目指して投げるようにしてね」


 こいつは、何だ?


「久しぶりに皆と会った気がするよ……どうかな? 皆はうまくやれてる? ってそれは当然だよね! 何て言ったって『回帰日蝕』だもんね。チームワークを活かして、十分活躍していると私は期待し――」

「もういいっす」


 いつの間にか【武装顕現アピア】で【武装】を出現させたえいーが躊躇なくその引き金トリガーを引いた。当たれば即死の弾丸は音を置き去りにして目の前のの眉間に吸い込まれるようにして当たるかのように思えた。だがは態勢を仰け反らせつつ、ゆったりとした動作で元に戻りながらまた話し出した。


「……話は最後まで聞いてほしいな」

「——今、明らかに銃弾を目視で躱してたっすね? ……化物ですか」

「酷い事言うね。それはただ単にエイの能力不足だよ」

「これならどうかしら?」


 今度はひかりんが近接攻撃を仕掛けた。何か嫌な予感がッ!?


「ひかりん伏せて!?」

「ッ! きゃあッ!?」


 ひかりんがわたしの言葉で咄嗟に身を屈めた数瞬後、さっきまでひかりんの首当たりの位置だった場所に横一文字に斬撃が通り過ぎた。その威力は凄まじく、ひかりんがその余波で吹っ飛ぶ程のモノだった。


「……はぁ、はしないって約束したよね?」

「だってぇー、お姉ちゃんが戦っているの見たらボクもヤりたくなっちゃった」

「『だって』じゃないよ。今……ゴホンッ。とにかく、約束したのに破っちゃったね」

「ボク悪くないもん」

「つべこべ言わないで黙ってて」

「それは~……こっちのセリフだよ?」


 わたしも【武装】を使って空気を圧縮させた空気砲擬きをへと放った。


「疑似的な空気砲だね。発想は悪くないけど当たるかって言ったら当たらないよね」

「……このタイミングでッ!」


 ただの空気砲だと油断した爆発気水素と酸素だと悟られる前に空気砲の内部に焔を含ませた。


 ボンッ! と鼓膜を震わせる衝撃と刹那の強力な爆発に視界が白く染まった。


「これならっ!」

「うん、『これならどうだ』って思った?」

「なッ……グッ!」

「予想外、だけど私には通じないよ」

「覚サン!」

「ガッ……はな、し……て」


 いし、きが……おとされ――――、


「やめてください!」

「おっとっと」

「ッ! はァ……はァ」


 【武装】を持ち直したれいれいがへと刺突するがバックステップでひらりと逃げられる。その際に手を離されわたしは解放された。


「次は鈴がやるの?」

「どうして……?」

「……? 何が『どうして』なの?」

「ッ! 来栖音さんが、何故! 私達の前に立ち塞がるのですか!?」

「…………」

「私達は仲間でしょう! それなのに私達は戦ってる意味が分かりません! 一体どうしたんですか来栖音さん! 貴女も『回帰日蝕』の一員ですよね!? 私が……私が! 『貴女達のように胸を張って誇れるくらい相応しくなりたい』と、その約束を叶えさせてくれないんでしょうか……?」

「れいれい……」

「私が憧憬した来栖音さんを……仲間想いで一番このグループに賭ける思いが強い来栖音さんを、私は……私は!」

「……け……よ」


 ぼそぼそとくすちゃんが何かを喋っているけどその声は小さくて聞き取ることが出来なかった。


「来栖音さん?」

「鈴。私は、咎人だよ。先日の件でハッキリした……仲間を想う気持ちだけじゃ何も救えないことも、ね」

「そんなこと――」

「あるんだよ!」

「ッ! 来栖音さん、一体来栖音さんとその人との間に何があったのですか?」

「……言う必要ないよ」

「私達には聞く権利があります」

「それは勝手だよね」

「えぇ、勝手です。ですので私の都合で話を聞きたいです」

「……何でそんなに」


 くすちゃんがれいれいの言い分に屈しかけている。さっきまでの気味の悪い様子が鳴りを潜めていつもの調子のくすちゃんに戻りかけていた。


「貴女が私にとっての道導だからです」

「……意味が、分からないよ」

「分からなくていいのです。私の目標の人にあんなことをさせたくなかったのです」

「……ずるいよ。私が決意した覚悟や悩みを、鈴は意図も簡単に打ち壊すんだ。折角、沢山根回しとかして頑張って行動してみたのに……鈴が一日も経たずに終わらせちゃった」

「そ、それは……すみません」

「あはは、何で鈴が謝るの?」


 そういって花が咲くように笑ったくすちゃんは憑き物が落ちたような穏やかないつもの顔に戻っていた。


「くすちゃん」

「あ、……ごめんね。首大丈夫?」

「うん! 大丈夫なんよ~」

「ヒカリも結構派手に吹き飛ばしちゃって……ってあの子いなくなってる」

「あれくらい大したことないのよ!」

「組織の来栖音サンの捜索についての対応がおざなりだったのもそう言う事ですか? なんともまあ、随分と大規模な家出っすね」

「それは本当にごめんなさい。暫くエイ達とは接触しないつもりだったんだけど」

「その代わりにくすちゃんはあの女の子に熱中してたんだよね~」

「…………はい」


 最初に出会った当初はどうなっちゃうって思ったけどいつものくすちゃんが戻ってくれて本当に良かったな。

 さて、今からくすちゃんからあの女の子の話を根掘り葉掘り聞くとしようかな~?


「さあくすちゃん! あの子について詳しく署までご同行願うんよ~?」

「……青空が綺麗だよね」

「もう夕焼け小焼けでまた明日っす」

「クスネがおかしくなったわ!」

「頭でも打ったのでしょうか?」

「本気で心配しないで欲しいかな!?」


 ほんとうに、よかったんよ。






――――――――――――――――――――─


どんなに精神病んでたり情緒不安定でも推しに直接元気づけてもらえたらこのクソボケなら立ち直るよねって話。

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