第30話 勧誘=夢

 二体目の襲撃体を討ち取った。

 欲を言ってしまえばオロチの力を借りずに倒し切りたかったが、事が事だったので仕方なかった。


「さとちゃん、こっちは終わったよ」

『お〜流石くすちゃん。こっちもれいれいが今倒したよ〜! れいれいって強いね〜』

「じゃあもうすぐこの空間から退去させられるからまた現実でね」

『おっけ〜』


 この【襲撃体遮断結界】は目標となる襲撃体が討伐されると【端末所有者】達は自動的に現実へと還されるシステムになっており、【端末】があれば【襲撃体遮断結界】と現実世界の転送をしてくれる。

 視界が白に埋め尽くされ、気付けばもともと居た現実世界へ帰還を果たしていた。


「ん? 電話が……」


 帰って早々誰かと思えばさとちゃんから。あーそっかそっか、現実の帰還先は自宅になっているから家まで向かうのがのがめんどくさくて掛けてきたのか。


「もしもし? さとちゃん?」

『伝え忘れてたことがあったからそれを言いに掛けたんよ~』

「伝え忘れてたこと?」

『今回の襲撃体の殲滅報告と異常イレギュラーの同時出現。わたしたちが初めて任務を務めるにはすこ~し危険だったんじゃないかな~って』

「それだけ私達に期待されてる……って考えではないね。恐らく……私達宗家に対する組織内部に蔓延る分家の嫌がらせ、かな?」

『そうだね~。でも向こうも予想外だったのがれいれい一般家庭の子の存在かな? れいれいが加勢したことによって危なげなく対処できたね~』

「————鈴を『回帰日蝕』に勧誘する」


 一部の野心家な分家にとって俺達宗家の人間は目の上のたんこぶだ。身分の差で直接的な害は無いが間接的に俺達を陥れようと日々暗躍している。なので今回の一連の非常事態は確実に分家の息がかかっていると思っていいだろう。

 では何故そこから鈴の勧誘に繋がるのかと言われれば、鈴の後ろ盾の為だ。分家からしてみれば折角上手い具合に事が進んでいたのにそこに水を差すやつがいたら面白くないだろう。それが一般家庭の者ならばなおさらだ。

 そういうことなので、こういった恨みを買ってしまうのを考慮しての勧誘の話になってくるのだ。

 当然宗家の人間で構成されたグループに入ればやっかみを受ける可能性があるのは百も承知だが心配ない。俺はそんなことさせないと誓おう。させない。大事なことなので二回言いました。


『やっぱりそうするよね~。それじゃあ明日の朝九時に戦場地区の一番大きいショッピングモール集合ね~。みんなで遊びに行こう~』

「え、ちょ――切れちゃった」


 それを最後に通話が終了してしまった。




***




「親睦を深めよ~!」


 それを最初に遊びが開始してしまった。

 さとちゃんから遊びに行くと言われ、休日の朝からショッピングモールに来てみればやはりと言うべきか、さとちゃんを除いた全員が眠そうにしていた。うごご……眠いな。昨日の疲労感が抜けきってない。


「も~どうしたの? テンション上げてこ~! イエ~イ!」

「……zzz」

「あ、ヒカねぇが直立睡眠をしだした。来栖音サン、この状態のヒカねぇはレアっすよレア」

「ほんとだね。そう言えば……直立前転は科学的にグリンピース五百個分の猿がネコパンチしたらしい人生だったよ」

『(何言ってんだろうこのクソボケ)』

「ストップ。寝起きにしてもここまで酷いとこっちの眠気も覚めますって」

「ふぁあ……ん? エイどうしたのそんな引き攣った顔して」

「自覚ナシ!?」

「あ、あの……どうして私は今日此処に呼ばれたんでしょうか?」


 おずおずといった様子でさとちゃんへと鈴が疑問の声を上げる。というかさとちゃん、目的言ってなかったのか……。


「それはれいれいのことを誘惑しに来たんだよ~?」

「ゆ、誘惑だなんて! 不埒だわ!」

「覚サン言い方」

「……ハッ! おはようみんな! 今日も一日元気に頑張っていくわよ!」

「あ、起きた。おはようヒカリ」

「あら? どうしてクスネが起きたらいるのかしら?」

「エイ説明」

「面倒ごとをエイに押し付けないでもらえます?」


 実の姉を面倒の一言で扱う……それもアリだな。


「馬鹿やってないで覚サンは真面目に鈴サンに答えてくださいよ」

「え~それじゃつまらな――」

「覚サン?」

「実を言うとれいれいにわたしたちのグループ、『回帰日蝕』に所属してほしいんよ~」


 エイの一言でぶるりと身を震わせたかと思ったら先程までの態度が嘘だったかのように説明しだした。エイもかなりさとちゃんの手綱を握れるようになったな。


「ぐ、グループって……二三四さん達のですか!?」

「そうだよ~。わたしたちは歓迎するよ~」

「一緒に肩を並べて戦いましょう!」

「常識人枠としてお願いします」

「これからよろしくね」

「む、むむ無理ですよ! 私には相応しくなくて……あ。べ、別に二三四さん達が悪いのではなく私の問題で!」


 ブンブンと首を横に振りながら慌ただしく否定の言い分を話す鈴にちょっと笑ってしまう。


「あはは! 鈴は自己肯定感が低いね。十分私達のグループに相応しいから鈴を勧誘してるんだよ」

「でも私は……」

「『宗家じゃないからふさわしくない』って言いたいの~? わたしたちは誰もそんなこと気にしないよ~?」

「同じく!」

「同じく」

「気にしないね」

「わたしたちは宗家だけどそれを抜きにしちゃえばれいれいと同じただの女の子だからね~。一緒だよ、わたしたちは」

「二三四さん……」


 俺も鈴の立場だったら入るのに抵抗があったり何かのイタズラかと疑ってしまう。

 分家の一部の奴らは同じ人間とは認識してないけど。あれはダメだ。ウツキと出くわしたあの女でもまだ優しい方だ。優しい方の終わってる奴らってなんだ……?


「さ、ちょっとだけしんみりしちゃったけど~。れいれいの返事を聞こうかな~」

「……二三四さん達はそう言ってくれていますがやっぱり、私は自分が二三四さん達と肩を並べるには不相応だと感じてしまいます」


 だから、と鈴は続けた。


「私が二三四さん達のグループに……『回帰日蝕』に所属して、二三四さん達と一緒に襲撃体を殲滅していく過程で二三四さん達に胸を張って誇れるくらい相応しくなりたいと思いました!」

「ということは~?」

「これからよろしくお願いします、二三四さん」

「うん、よろしくねれいれい~」

「エイたちに胸を張って誇れるときましたか」

「その日を楽しみにしているわね!」

「その為には頑張って死なないように生き抜こうね」


 怖い事言わないでよ~と皆が笑い合っているが……

 鈴のそれが叶わずに慟哭する未来を。

 さぁ、こっからだぞ八坂来栖音……運命を覆すストーリを紡ぐ始まりだ。

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