第31話 昼食=ほのぼの
鈴の勧誘から数刻後、ショッピングモールに来たということで買い物をすることになった。
お昼前なので徐々に人通りが増えてきた。モール内を移動する時にはぐれないよう気を付けながらやってきたのはフードコート。ずばり昼食だ。
「すっごい人混みだわ!」
「休日だからじゃないのかな」
「それを踏まえてもこの人の多さはおかしいっすよ」
「たくさん人がいる~……おいしそ~」
「二三四さんは食べてる料理を見て言っているんですよね?」
「でかしたわクスネ。ヒカリポイント1000000点よ!」
「すごいのかすごくないのか分かんない」
「一応参考までにエイのヒカねぇポイントは6不可思議です」
「ろくふかしぎ」
「はい6不可思議っす」
絶対に届きそうもない数値が飛んできたことに呆然としてしまう。確か不可思議って無量大数の一桁前の単位だよな? はぇーすっごい。これが姉妹百合の力、か……。
「ヒカリに随分愛されてるんだね」
「なッ!? そ、そんなこと! 揶揄うのはやめてください来栖音サン!」
「当り前じゃない! ワタシはエイのこと愛しているわ!」
「こんな公の場で何叫んでんのヒカねぇ! いつもそういうのやめてって言ってるじゃん!」
「ホントの想いを伝えてるだけよ? エイこそどうしてそんなに怒るのかしら?」
心底不思議そうに言ってのけるヒカリの真っ直ぐな想いを告げられたエイは口ごもってしまった。うへへ、可愛いねぇほんと。もっとその反応を俺に見せてくれたまえ。その顔を見るだけで俺の心は癒される。
『??????????』
(困惑してるとこ悪いけどオロチはしばらく発言ないから辞世の句をどうぞ)
『いや死なないけどね?』
(早く言ってよ)
『わかったから急かさないでよ。んーじゃあ、すいじ────』
(はいありがとう)
まともに言えると思ったら大間違いってね。オロチが過去一哀愁漂う雰囲気をしている気がしなくもないが安心しろ。その過去一はどんどん更新されるから。
お、そうこうしてるうちに
「……それで? ご飯は何を食べるんすか? 色々お店はありますけど」
「わたしはチャンピオンが食べたいんよ〜」
「さとちゃんさとちゃん、チャンピオンじゃなくてちゃんぽんでしょ」
「あ〜そうだった。くすちゃんは何食べたいの〜?」
「天津飯」
「くすちゃんって卵使った料理好きだね〜」
「卵は私のソウルフードだからね」
卵は完全栄養食というのを前世で知って以降食べない日は無いレベルで何かしらの形で食べていたから今も変わらず卵が好きだ。
卵は世界だ。だからこそ、卵には無限の可能性が秘められているとクスーネ大学院の食物学部の卵学科教授のエッグ・ゴタマ氏が言っていたからな!
「私はカレーにします」
「レイもカレーにするのね! ワタシとエイと一緒に買いに行くわよ!」
「何でヒカねぇがエイのお昼勝手に決めてるの! …………確かに食べたかったけど」
「えぇ!? お二人とご一緒に行くのですか!?」
「じゃあ私はさとちゃんと一緒に行こっか」
「あいあいさ〜」
荷物をテーブルに置いて、各々がお財布片手にお店に並んで行った。
「ちゃんぽん楽しみ〜」
「メニュー見たけどかなり量があったね」
普通盛りでも二人前位のボリュームだったので食べ切れるか心配だ。俺たちは腐っても小学生、それもさいつよ美少女だから体重を気にするお年頃なのだ。
転生して女の子になって改めて思うが前世で男だった時に比べてかなり脂肪がつきやすいと体感した。勿論前世と今じゃ正確な違いなんぞ分からないがなんとなくわかるのだ。どうにも慣れないし、不思議な感覚だな。
「心配する必要はないんよ〜。お持ち帰りできるらしいから家に帰ってじっくり食べればいいからね〜」
「そういう問題なのかな?」
「あ、でも〜……昼と夜両方ちゃんぽんは飽きちゃうかな〜?」
「気にするとこそこなの?」
どこかズレたことを気にしながらさとちゃんと共に俺達は会計を済ませ、店員から番号札を受け取った。
「ご注文のお品が出来上がりましたら其方の番号札がお呼びしますね」
「ありがとうございます〜」
「ありがとうございます」
「渡されたこの番号札初めて見たかも〜」
「多分マイクが付いてるから耳元に近づけて待ってるといいと思うよ」
「そうなんだ〜……なんかちょっとくすちゃん笑ってない〜? どうしたの?」
「思い出し笑いだから気にしないで」
この番号札は恐らくブザー系の番号札だ。そしてこれを知っているのは前世の知識がある俺のみ! 皆の驚く姿が見れることにワクワクしながらその時を待つことにした。
…………あ、鈴は知ってそう。まぁ、なんとかなるか。何か言いそうだったら話し合わせてもらえばいいし。
「買えた買えた。無事コッチはぎゅうぎゅうに押されながらもカレーを買えたっす」
「こういうお店は初めて来たから分からなかったけどレイが丁寧に教えてくれたわ!」
「お二人の力になれたそうなので良かったです」
悪知恵を働かせ、
「サトリ、クスネ知ってるかしら? これって凄いのよ! 料理が出来上がったらブザー音が鳴って呼び出してくれるのよ!」
「あ」
「え〜くすちゃんはマイクかもしれないから耳に近づけてって言ってたよ〜」
「マイク、ですか? 確かにトランシーバーにも見えなくはありませんが……耳元で聞くなんてうるさいだけだと思いますよ」
「そうなんだ〜…………なるほどねぇ〜。くすちゃん、もしかして知ってた?」
あーこれヤバいっすね。まさかの
い、いいいや、まだだ! まだ知らなかった体で話せば────、
「──そうだったんだ。私も初めてだったから勘違いしてたな」
動揺、ナシ! 声の抑揚、ナシ! よし、これで完ぺ…………いや待て抑揚は無いとアカン!?
「なんで人工知能みたいな話し方なの〜? 怪しいな〜」
「どこも怪しくないよ?」
「嘘ついてない〜?」
「ついてないよ」
「くすちゃんって何か隠し事してる時って右手で髪を横に流すよね〜」
「──へぇ、そうなんですね」
「…………どうやらほんとに知らなかったみたいだね〜」
あっぶな!? ブラフ張られてボロ出すの回避したのナイス俺! いやぁ、安心安心。
「疑われちゃうなんて悲しいな」
「ごめんよくすちゃん〜。でも、くすちゃんって何かの脅威が去ると右耳を触ってるよね」
「えっ!? …………あ」
慌てて手に意識を向けてると俺の手は虚空を掴んでいた。やられた!
「あれれ〜? どうして今自分の腕に視線を集中させたの〜?」
「い、いや……これは」
「もしかして〜……真実を嘘で隠して乗り越えた達成感で気が抜けちゃったのかな〜?」
「…………」
ここからは何を言っても俺は不利な状況になってしまう。そうか、これが詰みか。
今だけはさとちゃんの笑顔が怖くて怖くて仕方なかった。
「後でイイコト、たっぷりしてあげるね〜」
「…………ごめんなさい」
「なんで謝ってるの〜? わたしは怒ってないよ〜?」
「ハイ、ソウデスネ」
さとちゃんは笑顔なのは変わらずだがもう目がなんて言うか……闇。真っ黒にどす黒さを付け足してみましたみたいなこの世の終わりみたいな目をしていた。
怒ってない人の目じゃないんだよなぁ……。
全員の注文札がなるまでの間、俺はひたすらにさとちゃんのご機嫌取りに徹していた。
ヒカリ達は見てるだけじゃなくて助けて欲しかったがな! 絶対に忘れてやらない。忘れてなるもんか!
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