第29話 成果=上々

 マズイことになった。


「そんな……ありえないわ! マーテル同士で呼び出す能力なんて組織から何も聞かされていない……」

異常イレギュラーなら……これくらいの事をしてくるか」

「くすちゃんどうしよう……」


 鈴やさとちゃんが不安定だ。恐らくヒカリとエイも混乱している筈だな。

 ……やるしかない、か。


「鈴、さとちゃんは一体目の母を殲滅して」

「一体目ってことは~……もう一体はどうするの?」

「私がやる」

「無茶よ! たった一人で襲撃隊を、それも母をなんて!」

「分かったよ~」

「な!? 八坂さんを見殺しにする気?」

「違うよ。くすちゃんは死なない」

「じゃあどうして……?」

「信じてもらってるからだね」

「え?」


 思わず口を挟むと鈴は鳩が豆鉄砲を食ったように不思議がっている。あ、脳内スクショタイム。


「さとちゃんが私の事を信じてるから。私がさとちゃん達の元へ、『回帰日蝕』の名の下に帰ってきてくれるって……だから、かな」

「『回帰日蝕』の、名の下に……ですか?」

「そう。この『回帰日蝕』ってグループ名、私達で考えたんだ」

「くすちゃんが、でしょ~?」

「あはは、そうだったね。でも『流星団シューティングスターズ』って名前、私は気に入ってるよ?」

「も~! そんな笑いを堪えて言われても嘘って分かるよ~!」

「くふっ……ごめんね。じゃあ、作戦開始しようか。行ってくるね」

「こっちの襲撃体は任せなさい~。れいれいも頑張ろうね~」

「八坂さん。お気をつけください」

「うん。またあとでね」


 【武装】を握り直し、気を引き締める。後はヒカリとエイにも作戦を伝えておかないといけないので【端末】を起動して通信アプリを起動する。


「ヒカリ、エイ。聞こえる?」

『クスネ! 大丈夫!?』

「今のところ平気かな」

『此方は直に子供の襲撃体を倒し終わりますね。二体目の出現は視認しました。お一人で倒すんですか?』

「話が早くて助かるよ。ヒカリ達は殲滅完了次第さとちゃんと鈴の支援をして欲しいな」

『分かったわ! エイ聞いていたわね! 早く倒してサトリ達を助けるわよ!』

『ヒカねぇが分かるのにエイが理解してない訳ないでしょ!』

『ちょっとエイそれはどういう事よ!』

「通信上になっても喧嘩しないでよ……」


 役得だから良いけど。いいぞもっとやれ……嘘、いくら俺でも今の状況ではやらないで欲しいわ。

 無言で通信を切った俺は二体目の襲撃体の近くに移動を始める。


「随分なお出迎えだね。生憎と招待状は持ってないけどね」

『GAAAAAYYYAAAA!』


 俺を見つけると母は自身が産み出した子供プエルけしかけてきたので、迎撃する。ちぃっ! コイツも異常イレギュラーかよ……子供の数が多い!


「必死だね。そんなにママが大切なのかな?」

『GUURRYYY!』

「私達も世界のために必死だからお互い様だね」


 鎖の長さを伸ばしてより広範囲を殲滅する。俺の【武装】の能力は鎖の長さを好きなように調節できる。これがありがたいことに攻撃中にも調節が可能で、相手が後ろに回避をしても投げた勢いが死ななければずっと伸びてくれるのだ。

 一回の薙ぎ払いでかなりの襲撃体を削ることができるのが鎖鎌のメリットだな。


『GAAAAAAAAAA!』

「懐に入り込んで……!」

『GAAAAAAAAAA!?』

「なんてね」


 自分の弱点なんて既に対策済みだ。攻撃を免れた襲撃体の一体が俺へと突進をしてきたがその命を刈り取った。

 振り回している方の鎌の慣性は全て腕力で支えているので全然問題なく接近を熟せる。おかげで両腕を使えばお父様の親指に腕相撲に勝てるようになったんだぞ! ……こんなに鍛えてもお父様に片腕すら使ってもらえないのおかしいぞ? バグか? バグなのか?


『GUUSSSHHAA!』

「そろそろ終わりにしようかな」


 鎖を俺の腕の長さ程短くさせ、その中心辺りを掴んで八の字に振り回す。すると遠心力で鎌同士が直線上になり両剣みたいな形に変形した。


「扇風機の羽に手を入れちゃいけないのって何でか分かるかな? 身をもって教えてあげるよ」

『GYAAAAAAAA!?』


 すぱん、と小気味良い音を鳴らしながら続々と襲撃体が俺の視界から消えていく。

 俺が行っているのは単純に襲撃体が捕捉できないほどの速さで動いているだけで特別な事などしていない。移動以外にやっている事と言えば両剣擬きを自身の目前で振り回してるだけだ。あ、これが原因か。


「っと……今ので最後の子供だったかな。後はお前だけだよ」

『GYYYYYYYAAAAA !?』

「——オロチ」

『珍しいね来栖音。念話じゃなくて声に出して話しかけるなんて』

「不本意ながら」

『うんじゃあなんで言ったのかな?』

「そんなことよりアレ『神変闘化』やらないって言っちゃったけど嘘ついた」

『えぇ……嘘ついたのぉ? 嘘、ついちゃったんですかぁ?』

「——————は?」

『ごめん、マジごめん。ちゃんとやるから素の声出さないで。漏れてる、さいつよ美少女が絶対出しちゃいけないナニカが漏れ出ちゃってるから抑えて抑えて!』


 おっと危ない危ない。あまりにも殺意が沸いたからどう消してやろうか迷ってた。


「いいからやるよ」

『わかったわかった。二体目襲来の時点でいつでも出来るように調整しといたよ』

「段階は?」

『それ分かってて聞いてる? リミッターは一段階だけ解いといたよ』

「了解」

『GYYYYYYYAAAAA!』

『流石に待たせすぎなんじゃないアレ? 子供を倒された恨みなのか単身特攻してきたよ』

「向こうから来てくれるなら好都合。一撃で堕とす」


 ──『神変闘化』

 口には出さずに胸中で呟くと、オロチとの繋がりを感じだした。


「──この感覚も久しぶりだよ」

『実戦で憑いたのは確かに久々かもね』


 地を踏み締めると蜘蛛の巣状の亀裂が広がり出す。これも見慣れた光景だ。

 俺とオロチのこの力『神変闘化』はオロチのありがたーい血反吐を吐く程キツかった修練を積んだことで能力の制限や維持時間の長期化が出来るようになった。思い出すだけで吐血しそう。あーイライラしてきたわ、これは発散するしかないな。


『GUURRYYY!』

鬱憤晴らしにオロチの代わりに付き合ってもらうよ」

『何か凄い副音声が入ってた気がする』


 オロチが何か言っていたような気がしなくもないが今はお前じゃない。目の前の母に対してだ。

 【武装】を構え俺も母へと突っ込む。異常イレギュラーだかなんだか知らんが俺とオロチの敵じゃねぇな!


「これで……終わりッ!」


 ドパンッと母の体躯を大凡平常では考えられない音を立てて穿いた。


『GYYYYYYYAAAAAAAAAA────a』


 氷が熔けて水になるが如く、母はその形状を崩壊させた。

 そうして俺は────、


「──殲滅、完了」


 誰に向けた訳でもなく、そう宣言した。

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