第28話 異常=誤差

「わたしたちが要請を受けるのって今日が初めてだよね〜?」

「『回帰日蝕』としての初任務よ!」

「ヒカねぇそれ朝にも言ってたの忘れたの?」


 そうかしら? と、過去の記憶を遡るヒカリを尻目に襲撃体の発生場所へ移動する。

 襲撃体。『おわはて』シリーズを通して様々な異名を持つ作中の敵だがその正体は完全に謎に包まれている。

 そう。襲撃体の正体は知らないのだ。様々な考察がされてはいたが確信を持ってコレだ! と言えるのは無かったのを前世で見ていた考察系の動画で目撃していた。

 ただ、襲撃体の目的自体は知っている。まぁ、それに関しては組織共通の周知の事実だからな。


「もうそろそろ現場に着くよ」

「にしても小学生に任せていいんですかね? エイ達がやられたらその時点で終わりっすよオワリ」

「そうならないためにわたしたちの他にも要請を受けた人が沢山いると思うよ〜?」

「どの道やらなきゃ人類はおしまいよ!」


 襲撃体の目的はシンプルに世界を壊す殺す事で俺たちが今いるこの空間──【襲撃体遮断結界】──から現実世界に襲撃体を出してしまったらジ・エンドなのだ。

 蛇足だが襲撃体の場所は【端末】に初期から入っている地図アプリが指し示してくれる。


「到着。各自、戦闘準備」

「了解〜」

「訓練通りってことですね」

「一番槍はワタシよ!」


 目標ポイントに辿り着き、俺たちの眼前には母── 組織での名称は識別コード:22587マーテル──と呼称された化物がゆっくりと此方へ前進していた。


「情報通りの姿形……シミュレーションの訓練とは違って失敗は出来ないから連携して倒すよ」

「じゃあくすちゃん。わたしたちはどうすればいい〜?」

「さとちゃんは私の後方から先制攻撃。ヒカリはまだ突貫せず待機、エイは異変を感じ取ったらさとちゃんに続いて即追撃をして」

『了解!』


 後なにか忘れているような……あ。


『────やっと聞こえた? 今の今まで完全に蚊帳の外にいたよね?』

(オロチが悪い)

『だから言い過ぎたって言って謝ってたのに』

(誠意が伝わらない)

『こりゃあ手厳しいな。それで、僕たちの出番は?』

(今回は私一人でやる)

『ふーん。あれだけ鍛えたんだから流石にちょっとやそっとじゃ怪我なんてする訳ないと思うけど頑張ってね』

(デレるな)

『相変わらず辛辣ゥ!?』


 オロチのデレは一生置いといて、さとちゃんが俺の指示通りに【武装】の四元素で攻撃を始めた。

 俺の知っているマーテル子供プエルと呼ばれる母の危機が訪れると体外へと排出する別の襲撃体がおり、厄介なのはその子供だ。

 なにせ、数がとんでもなく多い。大きさは母よりも小さいがそれでも成人男性を優に超える3メートル近くある。

 俺たちから見て十分巨人の子供が一回の排出で100体近く出てくる。多すぎる!

 一体一体の強さはそうでも無いのだがそいつらに時間を取られると母が回復してしまい、以下無限ループといった具合だ。

 物語通りなら、今回相手取るのはその中でも異常イレギュラーと言われる襲撃体で、通常の襲撃体よりも強い所謂強化種と言われている。


「こっちに気づいたみたい〜…………え?」

「子供の呼び出しが通常より早いッ……来栖音サン! アレは!?」

「うん……異常襲撃体だね。エイ、出てきた子供をヒカリと倒して欲しい」

「覚サンと来栖音サンは?」

「私たちは母の回復阻害をするから……本体を叩きに行くッ! さとちゃん!」

「分かったよ〜。援護はわたしに任せるんよ」


 早速子供を呼び出してきた。これが強化種の異常イレギュラーと名付けられた所以で、本来の襲撃体とは違って、この母は自身に対して危険と判断するや否やすぐさま子供を排出するのに特化したタイプの襲撃体だった。

 母から出てくる子供の姿はさながら女王蜂を守護せんと巣から飛び出る働き蜂だ。

 子供が俺の前へと通せんぼするが鎖鎌を乱雑に振るいながら倒していく。

 ヒカリに言った手前、俺が特攻しているのには理由があり、俺の扱う【武装】の二振りの鎖鎌はまともに使おうとすると周囲にいる味方に被害が出てしまうので自分以外誰もいない状況でその真価を発揮するピーキーな性能だ。扱い慣れるには随分苦労したけどな! やってて良かった鎖鎌術ってか……いや、全然別物だったわ。


『GYAAAAAAY!』

「さとちゃん」

「あいあいさ〜」

『GYAAAAAAAA!?』


 俺は一言。さとちゃんの名前を呼びかけると俺の背後に奇襲を企てていた襲撃体が焼かれていた。あ、今のやり取りちょっぴりカッコイイな。


「本体の守りが堅牢だね」

「ひかりんとえいーが子供の大多数を受け持ってくれてるけど……もう一人くらい攻撃の手が欲しいな〜」

「そうだね。どうしよう……うん?」


 打開策が尽きかけたと思ったが、地図アプリに俺たちの目印の他にもう一つの目印が増えた。


「どうしたの〜?」

「もしかしたらさとちゃんの意見がやってきたみたいだね」

「それってどういう──」


 さとちゃんが言い終わる前に母の体躯に三叉槍が突き刺さった。


『GYAAAAAAASSSSYYYYAA!?』

「わ〜! なになに!」

「──要請を受け、ただいま目標ポイントに到着しました。無所属の弘原海鈴です。其方は……え?」

「やぁ、朝の事件以来かな……鈴」

「れいれいが【端末所有者】? ……なるほど〜だからこの時期に転入してきたのか〜」


 驚愕の目を向ける鈴と納得するさとちゃん。

 そうだぞさとちゃん。それに鈴は【端末所有者】ではあるが宗家でも分家でもない一般家庭出身の【端末所有者】なのだ。

 実は極稀に一般家庭からも【端末所有者】が選ばれることがある。鈴がその筆頭だ。

 『おわはて』では分家からの嫉妬による嫌がらせが起こり、胸糞悪い展開もあった。もう分家無くしてしまおうか? あの選民思想に囚われた能無し共がよ。


「あ、あのあの……その、えっと……」

「さとちゃん。とりあえずその話題は後回しにしておこう。今は目の前の襲撃体に集中して」

「分かったよ〜」

「さとちゃんは引き続きサポートを頼むよ。鈴は私と母を倒すよ。ほら、【武装】の準備をして」

「は、はい! 分かりました!」

「そう。じゃあ、行くよ!」


 さっきの三叉槍とは別の【武装】を顕現させる。これは鈴の【武装】の唯一無二の能力で損壊や紛失をしても【武装】を幾つでも増やすことが出来るのだ。


「右から子供が五体来てるよ」

「やぁあ!」

「おっとっと。こっちも来てた……っと」

『GYAAAAAAAA!?』

「わたしもいるの忘れないでね〜」


 母を護る親衛隊の子供を鎖鎌で刻んでいく。

 子供の数がみるみる減っていき、気付けば母を守る子供の存在は無くなっていた。


「回復は間に合ってないっぽいから今総攻撃したら倒し切れるね」

「では、ここでトドメを!」

『GYAAAAAAAAAAA! GYAAAAAAAAAAA!?』

「な、なんだ〜!?」


 トドメを刺そうと【武装】を向けると母が耳を劈く悲鳴らしき音で哭いた。

 何だ? 嫌な予感がッ!?


「嘘……」

「な!? どうして!?」

「母が……もう一体出現した……」

『GYAAAAAAASSSSSHHHAAA!!!』


 マジかよクソッタレ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る