第27話 平穏=崩壊
やはり小学生といった年頃なのか、はたまた物珍しさなのか、転校生特有の休み時間にクラスメイトに囲まれるというイベントが発生した。
「弘原海さんどこからきたの?」
「とっても弘原海さん綺麗だな!」
「シャンプー何使ってるの?」
「あ、あの……その、一度にそう多く質問されても……」
どうやらお困りのようだ。困ってる姿も可愛いよ鈴……じゃなくて。
『うわ……キッツ』
(もっぺんミュートにしようか?)
『ごめんなさい許してください』
口を慎めよ? 俺はいついかなる時もお前を封じることが出来るからな?
「あの子人気者だね〜」
「この時期の転入ですから珍しいんじゃないですか?」
「弘原海……わだ、つみ…………あ!」
「なにか思い当たることでもあったのヒカリ?」
「何も分からないわ!」
紛らわしい『あ!』はやめてほしい。
「なんで分からないのにさも思いついたかのように声を上げたの?」
「来栖音サンすいません家のヒカねぇが。きっとヒカねぇにそれを問い質しても納得できる答えなんて返ってきませんよ」
「エイが冷たいわサトリ!」
「自業自得なんよ……だから肩を揺らすの止めてよ〜!」
「いい加減助けに行った方がいいと思うよ、アレ」
俺の指差す方向にはクラスメイトに揉みくちゃにされて目を回している鈴がいる。
「お〜苦しそうだね〜」
「『苦しそうだね〜』じゃなくて来栖音サンの言う通り、救出しません?」
「そうと決まれば行くわよ! 『回帰日蝕』としての初任務よ!」
「じゃあ行こうか」
「むぅ、わかったよ〜」
渋々といった様子で重い腰を持ち上げたさとちゃん。なんだかんだ一番槍として行動しているのでさとちゃんはやる時はやる子なのだ。
「はいはいみんな〜。一旦れいれいから離れよっか〜」
「色々聞きたいのは分かるっすけど当人が困るほど質問するのは些か思いやりにかけますね」
「ワタシにも思いやりが欲しいわ!」
「大丈夫? えっと……鈴で合ってる?」
「きゅう……はっ! え、えぇ。合っていますし、大丈夫でふッ!?」
声掛けるまで気絶してたけどホントに大丈夫か? それに噛んでるし……早速ポンが出てるの可愛いね。
『うわ……キッショ』
(ミュート確定ね)
『ごめんって。つい反射で本音が出ちゃったんだよ。あ、ほんとにごめ───』
(…………よし、ここ一週間は静かに過ごせそうだ)
悪いのはオロチだから……はーいそこ短気とか言わない処すぞ?
「あはは。とりあえず落ち着こっか」
「そ、そそ、そうね。し、深呼吸しないと! ひ、ヒッヒッフー。ヒッヒッフー」
「どうしてラマーズ法なのかな?」
それでどうして落ち着けるんだ?
「弘原海さんごめんなさい。少々興奮してました」
「二三四さんの言うように、これから仲良くなっていけばいいしな」
「せ、せめてシャンプーを……ッ!」
シャンプーネキはそれを聞いて何になるんだよ。もしや飲むのか? 飲むんだったら俺は鈴の使用済みのモノがいいなぁ。
「くちゅん!」
「鈴どうしたの?」
「背筋が凍るような気持ち悪さを感じたの」
「体調でも崩したのかな?」
「それとは違うの。なんて言うのかしら……そう、形容し難い気持ち悪さみたいなものを感じたの」
「そうなんだ」
おかしいな? 俺は特にそんな気配を感じないからきっと鈴にしか感じ取れないナニカなんだろうな。
「た、助けて頂きありがとうございます」
「私だけじゃないよ。さとちゃんがいの一番に行動してくれたから私もフォローに行けたからね」
「さとちゃん?」
「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は八坂来栖音。一応『八坂家』の長女だけど身分とか関係なく接して欲しいな」
「わたしは二三四の覚さんです。ねぇれいれいって呼んでもいい〜?」
「ワタシは姉ヶ崎ヒカリよ! これからよろしくお願いするわレイ!」
「ヒカねぇの妹の姉ヶ崎エイ、よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
今の時点ではこっち側を知らないとは言え、世間一般でご令嬢と言われる女の子達が一気に現れたのだ。若干緊張してしまうのも無理ないか。……自分でご令嬢って言っちゃうのちょっと恥ずかしいな。
「自己紹介してたらそろそろ授業始まるね〜」
「任務完了! そしたら各自自分の席に着いて授業の準備をするわよ!」
「ヒカねぇに言われなくても皆準備するから仕切らないでよ!」
その後一日の授業を終えた。時間の流れが早いって? 誰も小学生の授業なんて興味無いでしょ。
帰りのSHRを済ませ、帰宅となったのでさとちゃん達と帰路へついている。
「今日はなんか一日があっという間に終わった気がするんよ〜」
「それは覚サンが寝てただけなんじゃないっすか?」
「うえぇ〜ん! くすちゃん、えいーが酷いよ!」
「よしよし、でも自業自得だよ」
「上げて落とされた〜!?」
ガーンと効果音が付きそうなほどショックを受けるさとちゃんを撫で続ける。完全にさとちゃんが居眠りしちゃったのが悪いけどそうなった原因を知っているからとやかく言えないのだ。
「それにしてもレイはどうして今日転入してきたのかしら?」
「親の転勤……にしては不自然っすよね」
「ん〜……くすちゃんはわかってそうだよね〜」
「……確証はないけど、ね」
嘘です。全然知っちゃってます。この場で話すにはちょっとまだ早いからシラを切ってるだけです。
「ふ〜ん。くすちゃん知ってるんだ〜……」
「な、なにその目は? 変に話して混乱を招かないようにしたいだけだからね?」
「ねぇねぇえいー。くすちゃんって耳が弱点なんだよ〜」
「……なるほど、そういう事ですか。良いですよ覚サン。エイは来栖音サン抑えますんで」
「ッ!? ヒカリ、助け──」
「なんだか楽しそうな事でもするのかしら? ワタシもやってみたいわ!」
な、何でだ!? いつもならエイの拘束くらいなら簡単に抜け出せるのに!
相変わらずヒカリは考え無し(失礼)だし!
「ひゃっ! や、やめ──」
「こうやって直接耳を触るんじゃなくて〜。触る寸前で焦らしたりすると〜……ほら〜」
「ぃや!」
「こういう感じっすか」
「エイやめ……ぇひゃあ!」
なんで、こんな……事に!?
「────きゅう」
「ひかりんが気絶しちゃった〜。ちょっと刺激が強かったのかな〜?」
「ヒカねぇは純情なんで初心なんですよ」
「もうッ……やめ、て!」
ふーっと息を吹きかけられ、どんどん自分の耳の感度が高まっていく。心臓の鼓動が五月蝿い。これ以上やったら今度こそ致してしまう。
「あれ〜? 【端末】が……鳴ってる?」
「エイのも鳴ってます。何でしょうか…………コレは!」
「──はっ! ここはどこ! ワタシはダレ?」
「なん、とか……助かっ、た?」
束縛から抜け出せたのも束の間、【端末】からけたたましい警報音が鳴り響く。まるでそれは鴉の囀りのような不吉さを感じる。
「皆さん。戦いに備えてください。組織からの要請がエイ達の元に届きましたね」
エイが【端末】をこっちに向ける。
そこには赤い画面に【襲撃体発生】と緊急性がある文字がでかでかと示されていた。
それを見て俺は────、
「────『回帰日蝕』、行くよ」
────【
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