『おわまえ』編
グループ本格始動篇
第26話 転入生=最推し
「おはよー」
「なぁ昨日のテレビ見た?」
「今日体育あるじゃん最悪」
「今日の給食何だったかな?」
クラスメイトの世間話を聞き流しながら朝日が差す教室へと入る。
いつもの席へ移動しようとしたが昨日の
どこに決まったのかを探すこと数瞬、視線を奥へと傾ければ一人の生徒が机の上に突っ伏していた。その姿に思わず笑みが零れ、その子の元へと足を運んだ。
「さとちゃん起きて」
「んぅ……眠いよくすちゃん。昨日の特訓の疲れが出てるんよ~」
「特訓後に疲れを感じさせないくらい元気だったのに?」
「そんなことないよ~。くすちゃんの気のせいじゃない~?」
素知らぬふりをするさとちゃんに嘆息してしまう。
この嘘つき小悪魔をどう懲らしめてやろうかと思考を回しかけた途端、教室の扉が勢いよく開いた。
「真打登場よ!」
「そんなに強い力で扉開けたら壊れちゃうでしょ!?」
クラス全体の注目を浴びるのはヒカリとエイだ。自分たちが注目されてることに気付いてないのか口論が続いている。そんなお馴染みのやり取りをしているのを見て「いつものことか」と見物人達は各々の日常に戻っていった。
「二人とも。おはよう」
「ちょっとちょっと来栖音サン? ヒカねぇったらモノの扱いが酷すぎるんで来栖音サンからも言ってくださいよ」
「それは違うわエイ! ワタシが使おうとすると壊れちゃうモノの脆弱さが悪いと思うの!」
「そんな破壊者みたいなセリフ言ってもね〜。ひかりんは大雑把なんよ〜」
「覚サンの言う通りヒカねぇは色々と雑なの! もう少しお淑やかになれないの?」
「ワタシは今も十分お淑やかよ? 確かに放っておいたらいつの間にか部屋がちょっと散らかっちゃう時もあるけど、すぐに綺麗にしてるわ!」
「それはエイが掃除してんの!」
さもありなん。どうせそんなことだろうと思った。
もしもヒカリ一人で汚部屋の片付けをしたなんて日が訪れたなら、一日メイドでご奉仕してあげよう。あ、一日はちょっと無理。半日にしておこう。
「そんな事より二人とも聞いてよ。さとちゃんったら昨日あれだけはしゃいでたのに私が教室に来たら夢の世界に旅立ってたの」
「サトリ元気出しなさい! お日様のパワーで眠気なんて吹っ飛ばすのよ!」
「無茶言わないでよ〜」
「
「うわぁ〜! 分かったからそんなにチクチク言葉使わないでよ〜!」
エイのお説教が始まるのを察知してか、謝りながら俺の背後で縮こまる
「それくらいにしておいたら? さとちゃんも頑張って心がけると思うから」
「うぅ、くすちゃん〜!」
「来栖音サンは甘いんすよ。今までこういったことは何回もありましたのに同じように擁護するじゃないですか」
「そうかな。でもね、その相手がさとちゃんでもヒカリでも同じ様に言っちゃうと思うよ。もちろん、エイもね」
「この……人たらし!」
「えぇ?」
今のどこに人たらし要素があったのだろうか?
『クソボケのクソボケがクソボケしたな』
(日本語で話して)
『日本語で話してるけど?』
(勝手に喋んないでくれる?)
『ねぇだからおかしいって絶対!? 最近そんな返ししかしてないよね!? 僕たちの扱い雑になってきてない? 日に日に悪意を持って接してくるの切実にやめて欲しいんだけど』
(考えられたら考えとく)
『"行けたら行く"のパターンの中でも最悪の部類に入る返し方が返ってきた!?』
ぎゃあぎゃあ喚いて鬱陶しくなってきたので最近になって獲得した『オロチミュート』を使用しておこう。これを発動すればあら不思議! オロチの声が聞こえなくなるんですよ奥さん! 今なら定価で3799円!
と、まぁ冗談は置いといて。
「そろそろ
「もうそんな時間〜? じゃあ終わったら起こして〜」
「注意をさっきしてすぐなのに反省の色もなく寝ようとする覚サンの胆力にいっそ尊敬の念が浮かぶっすね」
「本当にそれ尊敬かな?」
「違ったみたいです。まだ一周回りきれてないので呆れてますね」
「サトリ! おーきーなーさーい!」
「んぅ……いちご、オレ……プール、だ」
寝付くの早いしどんな夢を見てるんだ?
わちゃわちゃしながら先生が入ってくるのと同じくしてSHRが始まる予鈴が鳴った。
「みなさーん、おはようございます。全員出席出来てるみたいですね」
「全員出席出来たらご褒美くださいよ先生」
「まずはテストの点数が上がったら考えてあげますよ」
お調子者のムードメーカー君がおちゃらけ、それに対し先生の鋭い一言にクラスに笑いが生まれた。
この会話があったって事は……そうか、これから始まるか。
「そりゃないよ先生!?」
「ごめんなさい。でもその代わりに今日からこのクラスに転入生がやってきました。入ってどうぞ」
転入生。その響きにクラスが盛り上がりを見せる一方、俺は期待と緊張感がごちゃ混ぜになった奇妙な感覚だ。
このイベントは珍しいと思ったのか、さとちゃんも目が覚めて事の成り行きを見守っていた。
「さとちゃん起きたんだ」
「ん〜なんて言うかな……今は起きておこうってわたしの感覚が言ってるんよ〜」
「それはあの人を一目見ておくためっすか?」
「出来る女の子って感じがするわ!」
入口からこの中へ入ってきたのはプラチナブロンドのツインテールの女の子だ。此方へと視線を向ける瞳孔の色は淡い青色で海の波のような模様をしている。そして知的な印象を与える眼鏡を掛けており総じて可愛い系と美人系の両方の属性を併せ持っているかのように感じた。
つまり俺好みの女の子である。
『──────』
(なんて? あ、切りっぱなしだった)
『────気持ちわ───』
(言いたいことはそれだけ? なら黙ってて)
ミュートで十分な発言をしていたのでしばらく
「それでは自己紹介をお願いできますか?」
「了解しました。私の名前は
「弘原海さんありがとうございます。それでは弘原海さんは窓側の一番前の席が貴女の席です」
「ありがとうございます」
自己紹介中一瞬だが視線が交わったように思えたが自意識過剰だな。
兎に角。今一番大事なことは、今日から『おわまえ』が始まったということだ。
後、最推しに会えた事だ。
『────────』
(許さないよ?)
『────!?』
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