第25話 【武装】=最終準備

「——それでは各自【端末】を起動しますか。って言ってもヒカねぇとエイは既に起動してどういったものかが分かっているんで覚サンと来栖音サンお二人が先に起動してみてください」


 五分ほどわちゃわちゃしたところでようやく落ち着きを取り戻したエイに促され。意識してなさそうだったけどちゃっかり姉妹で見せ合いっこしましたと報告するあたり、その姿が脳裏に浮かんだ。可愛いなホントに。


「じゃあ先にさとちゃんから起動していいよ」

「分かったよくすちゃん~。えっと~……こうやるんだっけ~? 【武装顕現アピア】!」


 【端末】を起動するための起動式を唱えたさとちゃんの手元に眩い光が発したと思ったら直ぐに止み、気付けば分厚い本らしきものが握られていた。これは一体……と、言いたいところだが俺は当然それが何なのかは知っている。


「おぉ、これはこれは~……本が出てきた?」

「何か変わった所とかありますか覚サン?」

「む、むむむ~? ねぇ、えいー。ここで試してみてもいいの~?」

「全然構わないわ! その為にここに集まったんだから!」

「今ヒカねぇじゃなくてエイが聞かれてたのに何でヒカねぇが答えちゃうの!? バカなの? ねぇおバカなんでしょ?」

「確かにワタシはエイより頭は良くないわね。それでもワタシにはエイがいるから心配する必要なんてないわね!」

「そういう話なんてしてなかったじゃん! ヒカねぇはどうしていつもいつもそうなの! エイばっかり頼りにしてたらその内ヒカねぇが一人になった時大変だからね!?」

「何でそんな心配しなくちゃいけないの? エイはワタシを置いていかないわよ?」

「そうだ、けどッ! そうじゃ、ないッ!」

「よ~し。やってみよう~」


 遂にあのさとちゃんが痴話喧嘩をスルーしてしまった。そうだよな。アレ止めようとするとキリないもんな。今後ずっとこういうことがあるから早いうちにスルースキルを身につけないと。最終的に当事者同士がイチャイチャしてるのに落ち着くから無駄足でしかない。

 俺にとってはヒカリとエイの触れ合いが見れるだけで役得でしかないからな! 最高だぜ!


『おい最後』

(何? 何がおかしい? 言ってみて、言ってみろ、言え)

『ナンデモアリマセン。クソボケ、サン』

(私の許可なく口を開かないで)

『どう転んでも地獄じゃん!? 綺麗な受け身とっても死ぬじゃん。綺麗に死ぬじゃん……綺麗に死ぬってなんだろうな』


 自問自答しだしたオロチはゴミ箱にでも放っておいて、見届けるべきはさとちゃんだ。本らしきもののページをペラペラしながら何かを把握したのか、誰もいない空間に向けて本を構えた。


「やぁ!」


 普段ののほほんとした声に代わって少女ながらもやや覇気を感じさせる声とともに虚空から炎や水、風、土といった四元素が現出した。


「すごいわサトリ! 御伽噺に出てくる魔法みたいね!」

「なるほど。差し詰め事象召喚の篇帙へんちつといったところですね」

「へんちつ~?」

「書物って意味だよさとちゃん」

「そうなんだ~。くすちゃん物知り~」


 他にも本を保護する為に包むモノの意味もある。『おわまえ』を読んで知った。やっぱり『おわはて』は俺にとっての聖典バイブルだな。全国民に布教できなかったのが悔やまれる。


「それじゃあ次はくすちゃんの番だね~」

「どんな【武装】なのかは想像が付きそうですがね」

「ワタシも分かるわ!」


 【端末】は所有者の深層心理から一番相性が合う【武装】を創り出してくれる。言わば所有者の自己投影アイデンティティそのものなのだ。

 だから、正直不安

 俺は八坂来栖音であるが、俺の深層心理に影響される【武装】が八坂来栖音本来の物と違うのかもしれない。


「【武装顕現】」


 

 以前にも言った筈だ。ここはもう俺にとっての『現実』なんだ。

 全員で生き残って楽しい日常を過ごす。それを優先するのだからみたいなこと言ってる場合じゃないだろ。

 つまるところ、俺の【武装】がどんなものでも扱ってみせるという決意表明みたいなものだ。俺転生して何回決意してるんだか。


「これは……!」

「かっこいいわクスネ!」

「うん、かっこいい~」


 俺の手には柄の先端が鎖に繋がれた二振りの鎌が握られていた。これが俺の【武装】か。


「二対の鎌が私の【武装】ね……」


 ロマン武器じゃないか!?

 ちゃうねん。いや確かにロマン武器が嫌なわけじゃない。つーか好きだ。男のロマンだし……今は美少女だけど。でも、どうして……?

 いや待てよ? 【武装】自体が所有者の自己投影ならからだと推察すれば納得できるぞ。それ以外の事なんか知るか!


「ひかりんとえいーの【武装】はどんなものなの~?」

「ワタシの【武装】はよ!」

「これって言われても覚サン達は分からないでしょ……ヒカねぇの【武装】はヒカねぇ自身です。言っちゃえば【端末】由来の【武装】でなくともヒカねぇが持つ武器自体が化物に通用すると言った所ですね」

「それって~……実はもの凄くとんでもないことだよね~?」


 つよい(確信)。ヒカリはその【武装】で『回帰日蝕』のタンクや敵のヘイト役を担っていた。


「当の本人はあまり分かっていませんがヤバイことは確かな能力っすね。エイは二丁拳銃が【武装】です。治癒効果のある異界を創ることもできますんで攻守ともに不足の無いグループになりましたね」


 俺が先陣切って戦いながら敵の攻撃を受け持つヒカリ、前衛後衛両方こなせるエイに後方支援のさとちゃん。もう少しすれば接近主体のがグループに加入してくれるからそれぞれに役割があるバランスの良いチームになる。実際にも【十傑姫ヒロインズ】候補にまで『回帰日蝕』の名が上がっていた。

 そんな実力があっても油断すれば即壊滅してしまう。ナイトメアな世界、それが『おわはて』です。


「みんなの【武装】も確認できたから早速シミュレーションルームでグループの動き方の特訓よ!」

「足を引っ張らないようにがんばろ~」

「初めて皆さんとやるんでぐだぐだしそうですけど精一杯頑張りますか」

「よし、やろうか」


 死なない為にも仲間との連携は重要だからな。



 それに、もう物語の始まりは目前だから。

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