第24話 ヒカリとエイ=楽園

 ウツキと邂逅があったのもつい先日の出来事。今日はいよいよさとちゃんが話してた【端末所有者デバイスユーザー】の選定が執り行われた。

 しかしながらこの間さとちゃんが言っていた言葉通りと言うべきか。案の定、俺やさとちゃん達を含めた組織の幹部の娘は組織から【端末】が支給された。


「という訳でさとちゃん、行こう」

「何が『という訳』なのか聞きたいけど今はいいや〜。じゃあひかりんとえいーの家にレッツゴーだよ〜!」


 【端末】片手に意気揚々と空いてる手を繋ぎながらその手を上へと挙げてくるさとちゃん。

 え? 可愛いかよ。これが俺に向けられた笑顔ってホント?

 さとちゃんより俺の心が狂喜乱舞しているがそんなことを欠片も感じさせない表情筋にはそろそろ頭が上がらなくなってくるこの頃。ほんとに毎度毎度ご苦労様です。


「さとちゃんは実際にヒカリやエイの家に訪れたことあるの?」

「ん〜とね、わたしが小さい頃に行ったことがあったらしいんよね〜。だから覚えてないんだ〜…………かなり板についてきたんじゃない〜? その話し方。もしかして、誰かそんな感じに話したりとかしてたの〜?」

「そ、ソンナコトナイヨ?」


 す、鋭い……なんかここ最近さとちゃんがエスパーなんじゃないかと思ってきてる。まぁ、原作でも勘の良さを発揮してたから納得できる要素ではあるから良いけど。


「何で片言なの~? もしかしてそうだったのかな~。もしそうだったらわたしもその誰かさんに会ってみたいな~! その子とはきっと仲良くなれそうな予感がする~」

「そう……だね。きっとさとちゃんとは波長が合う子だと思うよ。確証は無いけど、その内に来るからね、ウツキは」

「ウツキちゃんって言うんだ~。じゃあうつうつ……いや、つきつきって呼ぼうかな~」

「珍しいね。さとちゃんが会う前からあだ名で呼ぼうとするなんてね」


 さとちゃんは親しい相手にはあだ名で呼ぶことにする癖があるが口伝で聞いただけの相手をあだ名で呼ぶのは稀だ。というよりこれが初めてなのでは? 流石主人公パワーだな。

 もし原作でもさとちゃんが生きていたらその光景を見ることが出来たんだ。俄然全員で生き残る目標に火が付いた。


「だってくすちゃんが信頼してるんでしょ~? ならつきつきは良い子だよ~」

「それはそうだけど……さとちゃんも会ってみればきっとあの子の良いところが分かるよ」


 あんなお人好しで可愛くてピュアな女の子はウツキ以外いないからな。


「くすちゃんってつきつきのこととっても期待してるんだね~」

「期待してる? 私がウツキのことを?」

「そうだよ~。つきつきのことを話してる時のくすちゃんの顔、すごく優しい顔してたよ~」

「優しい……ね」


 無自覚なのかな? と、さとちゃん言われてしまった。あまり感情を顔に出さない俺がそんな表情してたんだからきっとそうなのだろうな。

 それにしても期待、か。

 確かに俺はウツキに期待しているのかもしれんな。といっても、俺がウツキに向ける期待は他人が向けると大きく異なりそうだが。

 彼女はある種の終焉をこの世界に贈る存在なのだ。俺はその事に期待をしているのか、はたまたその先の――――


「くすちゃん?」

「——ごめん、ちょっと考え事してた。それで? どうしたのさとちゃん?」

「大丈夫~? もう目の前にひかりんとえいーの家があるよ~」

「え? あ、ほんとだ」


 表札を見れば『姉ヶ崎』と彫られた石板を見つけた。おふぅ、凄く荘厳で少し『ヤ』の付きそうな雰囲気だ。

 それに相変わらず家がとても大きい。さとちゃんの家もそうだったが組織の幹部の家は最低限ここまで大きくないといけない決まりでもあるんだろうか?

 組織の経済力に少々戦々恐々している中、そんな内心など知ったことかと言わんばかりにさとちゃんはインターホンらしきモノのボタンを押した。


「はい、どちら様ですか?」

「あ、えいーだ~。わたしだよ~」

「まず名前を言ってくれませんかね? エイだから良いですけど……他の人だったらキチンと最初に自分が誰なのかというのを証明するために名前を言うべきですよ? 覚サンはそのような所が少しアヤシイ部分ですよ。そもそも――――」

「分かったから早くお家に入れて欲しいんよ~! くすちゃんもいるから外で待ちぼうけでお説教は勘弁してよ~」

「そういう訳で、八坂来栖音だよ。お邪魔してもいい?」

「来栖音サンだけどうぞ」

「わたしは~!?」

「冗談ですよ覚サン。だからそんな泣きそうな声でエイの家の前で叫ばないでくださいよ。お互いにとって不利益しか被らないんですから」

「さとちゃんも入れるようになったから入ろうよ」

「うん~。お家に入れて安心したよ~」

「その変わり身の速さ見習いたいな」


 エイのさとちゃんへの小言(?)の茶番もあったが無事に『姉ヶ崎家』へ入れた。

 道中は『姉ヶ崎家』専属の使用人の案内もあり、すんなりとエイやヒカリが待つシミュレーションルームへ行けた。


「待ってたわ! ようこそワタシとエイの愛の巣へ!」

「もう初っ端から何言ってるのヒカねぇ!?」

「冗談よ?」

「冗談にしては質が悪いよヒカねぇ!」

「でも愛してるのはホントよ? ワタシはエイのこと大好きなんだから!」

「ッ!? そういうの、ズルいよ、ヒカねぇ……」

「なにがズルいのよ?」


 …………なんだこの天国は!?

 おかしいな。俺とさとちゃんはシミュレーションルームへ足を踏み入れた筈だが何時の間にかシミュレーションルームが百合てえてえじゃんルームに変貌していたぞ? いかんいかん、百合の波動に負けるな俺! 話を戻さなければ俺が昇天するぞ!


「じ、冗談はさておき。ここが『姉ヶ崎家』の誇るシミュレーションルームなの?」

「そうよクスネ! 起動前はただの真っ白い狭い空間だけど起動すればあらかじめ設定した場所フィールドに反映してくれるのよ! ふふん、褒めてくれても良いのよ!」

「ヒカねぇが造った訳ではないのにそんな得意げに胸を張っても来栖音サン達がどうリアクションすればいいのか困惑するだけでしょ」

「そうかしら?」

「そうです!」

「あはは~。やっぱりひかりんとえいーって仲良いね~」

「そうだね。私とさとちゃんは二人の姉妹愛を見れて満足したね」


 もうね、堪らないね! 最高だ! こんな風にヒカリとエイの姉妹百合があるだけで三食デザート付き十年間は行けるね!

 ってあれれ? 俺達そう言えば何しにヒカリとエイのお家にお邪魔したんだっけ? ……ま、いっか!

 姉妹間のじゃれあいが終わるまで俺はここに来た本来の目的を頭からすっぽりと飛んでいた。

 どうやら手遅れだった昇天してしまったようですねぇ……オロチ、お前もう宿主降りろ。


『何で静観してた僕たちまで飛び火したのかなぁ!?』

(知らない。自分で考えて)


 一旦ヒカリとエイが落ち着くまで俺も百合から現実へと舞い戻ろう。

 やれやれ、世話の焼ける姉妹だぜ。


『来栖音が一番クソボケなんだけど?』


 うるさい黙れ。

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