第21話 提案=弱点
「くすちゃんくすちゃん、わたしから一つ提案があるんだよ〜」
「提案? それはどんなものですかさとちゃん」
もうそろそろ小学校での最高学年へと進級する季節となり、『おわまえ』が始まるタイムリミットが刻一刻と近づいて少々焦りを感じる俺だが、学校から帰宅途中にさとちゃんからお話を受けた。
「もうすぐわたしたちにとって最も重要な【
「……そうですね」
デバイスユーザー、『おわはて』界隈では【変身アイテム(笑)】や【最終自滅兵器】と揶揄されるソレは『おわまえ』に於いて化物と戦う上で必須アイテムなもので、簡単に言えば基本的にそれを持ってないと化物に対して攻撃が一切通らない。
え? お父様はって? …………何だろうね、よくわかんないや。
しかも【端末】がその人その人の得物に変化する性質を持つので自分に合った戦い方で化物達を殲滅することができる。
え? お前の身内に木刀一本で立ち向かった奴がいるって? …………その話題は禁止カードでしょ。
「——すちゃん?」
俺が、というより『おわまえ』での八坂来栖音のデバイスは変化後に鎖鎌に分銅の部分が鉄球になっているものだった。改めて思うけど癖がある武器だな。
「くすちゃん~?」
そういやさとちゃんが言っていた選定の話、もうそんな時期までやってきてしまったのか。初代様みたいに……いや、初代様以上に鍛錬に明け暮れていたので気にする暇もなかった。
「くすちゃん!」
「ひぅ! ど、どうしたんですか!?」
「も~ずっと声かけてたよ~」
「あ、それはごめんなさい。少し考え事を」
さとちゃんに耳元で叫ばれたので意識が現実に引き戻された。
「それでね~、わたしとひかりんとえいーもくすちゃんみたいに頑張って鍛えたんだ~。くすちゃんがあの時命を賭して守ってくれたから今度はわたしたちでくすちゃんを守るためにね~」
「それは、守って当然ですよ。私達は『回帰日蝕』のグループメンバーである前に大切な友達ですからね」
「くすちゃん……えへへ、とっても嬉しいな~」
は? 好き、天に召される…………ハッ!
あっぶねぇ、ここ数年は発作は出なかったから油断してた。これは不治の病だった。死んでも治らないのをいい加減に自覚しなければ。しっかりしろ俺。
「……そ、それで。提案とは?」
「どうしたのくすちゃん? まるで天に召されかけた人みたいな顔してるよ~?」
「やけに具体的なのが怖いですけど何の問題もありません」
「くすちゃんが言うならいいけど~……体調が悪くなったりしたら必ず言ってね~」
あの一件以降さとちゃん達は俺の事を気にする頻度が多くなった。理由は分かるがそれにしても過保護すぎて一気に親が増えた気分だ。
「分かりました」
「分かったならよろし~。それでずっと思ってた提案なんだけど~、くすちゃんって大人みたいに話すからちょっと距離を感じちゃうんだよ~」
「そうですか? 私は別に気にしてませんが……」
「ん~、くすちゃん。試しにこれ読んでみて欲しいな~」
言いながら渡されたのは何かのセリフが書いてある紙。えっとなになに? ふむ、これならこんな感じか?
「『さとちゃんおっは~! 今日もとっても良い天気で可愛いね! こんな天気が良かったら絶好のお昼寝日和だね。ヒカリとエイも誘ってレッツお昼寝ターイム!』……ってこれはさとちゃんの欲望じゃないですか」
「お~! 良かったよくすちゃん。今みたいに話せばもっと仲良くなれるよ~!」
「寧ろ唐突なキャラ変で引く人いません?」
「え~じゃあグループのみんなしかいない時だけなら~?」
それなら
でもあそこまではっちゃけるのも恥ずかしいしな……まあなるようになるか。
「その時なら……大丈夫です」
「ん~? 大丈夫です~?」
「——大丈夫、かな」
「ちょっと恥じらいがあるけどそれはそれで可愛いからアリだね~」
「ッ!? み、見ないで!」
此方をニンマリした顔で見つめてくるさとちゃん。なんかじわじわと羞恥心が出てきた。は、恥ずかしい! 何故だ?
俺の抗議は空しく、より満足気に近づいてくるさとちゃん。
「おやおや~? くすちゃんにこんな可愛い一面があったなんて~」
「は、初めてだから……初めてこんな風にしゃべったから。慣れないことして、さとちゃん。恥ずかしいよ」
「大丈夫だよくすちゃん。そのうち慣れるよ~。それにわたしたちにしかそれを見せないって考えると~……可愛いよ、くすちゃん」
「み、耳元で『可愛い』って言わないで……顔がとっても熱いから」
さとちゃんは俺に甘美な言葉を囁きながら目を合わせる。待って、これ以上は変な気分になる。さとちゃんから小学生がしちゃいけない妖艶な雰囲気が感じ取れちゃうから!
「ふふっ、くすちゃん。目がトロンってなってるね~。耳が弱いのかな~? またくすちゃんの弱点見つけちゃった~」
「——ゃ! くすぐっ、たい……ぁ」
これ以上は本当にもう……ッ!
『一体僕たちはいつまでこの光景を見せつけられなきゃいけないのかなぁ?』
(オロチ! 助けて!)
タイミングが良いのか悪いのか、目覚めたオロチに助けを求めるが、
『えー? 弱みを見せた来栖音が悪いよね?』
(オロチ、宿主、ピンチ)
『何で区切りながら言ったの? 別に死にはしないから僕たちは助けないよ? だって……その方が面白そうだからねぇ?』
絶対に許さない。面白いってだけで手を差し伸べようとしないのは邪神の類だ! そんなんだから伝承で退治されたんだよ!
「──ぃい加減に。や、やめ……て」
「いてっ」
力が抜け、ふにゃふにゃになりながらもペしりとさとちゃんの頭を優しく叩いた。
漸く解放された俺は幾許かの達成感に浸った。
「やめてって言ったのにやめなかったさとちゃんが悪いからね」
「いや〜、あまりにもくすちゃんがよわよわになっちゃったから調子に乗っちゃたね〜。また今度、隙を見てやっちゃうね〜」
「……今度はされないように気をつけようかな」
全く、酷い目にあった。さとちゃんのSっ気が垣間見えた瞬間だったな。
「あ〜! 後もう一個言い忘れてたことがあったよ〜」
「もしかしてそっちが本題って言わないよね」
「どっちも同じくらい大事だよ〜」
「そ、そうなの?」
ってことはそこまで大事じゃないのかと一つ目の目的を体験しながら思ったが黙っておこう。俺は気遣いができるさいつよ美少女だから。
『ど』
(黙って)
『まだ『ど』しか言ってないよ!?』
オロチの事だから『どこがさいつよなんだ?』とか言うつもりなんだろ俺は分かってんだからな。冷酷無情のオロチめ。
「さっき【端末所持者】の選定の話をしたよね〜。だから選定が終わったらひかりんとえいーのお家に行こうって話〜」
「終わって直ぐに行くの?」
「だってわたしたちが選ばれない訳ないよね〜?」
「それはそうだね」
俺たちは一応組織の幹部のご令嬢なので【端末所持者】に選ばれる事は確約されている。うっかり選ばれないってことは残念ながら運命的に無いからな。
「だからね〜。ひかりんやえいーのお家にあるシミュレーションルームでチームの結束力を高めたいな〜」
「シミュレーションルーム……」
さとちゃんに言われて思い出したが『姉ヶ崎家』には化物との戦いを想定した模擬部屋があり、『おわまえ』の作中であの子との親睦を深めるためにちゃっかり出ていた。
「それにね〜、なにかとっても楽しそうな出会いがある気がする〜!」
「それと今の話関係あった?」
「でもでも絶対良い予感がわたしに来てるよ〜!」
「…………さとちゃんが言うなら楽しみかも」
さとちゃんの言う通り、【端末所持者】の選定のあの日に私達はあの子に会えるんだ。
あの『おわまえ』唯一の生存キャラの
「こんにちは! わたし
「う、うううう、ううううう?」
「うわ! どうしたの!? 大丈夫?」
どうして
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