幕間 俺から見たアイツ
最初はただの興味本位だった。
同じ大学内にかなり変わったヤツがいると噂が広まっており、俺はそんな噂の真相を確かめるべくソイツに近づいたのが始まりだった。
「なぁ、瀬田? ホントにアイツに話しかけんのかよ」
「言っちゃ悪いがアイツ、マジで変人なんだって!」
「それは俺が会って確かめるから」
噂が本当だとしてもそれだけで人を判断するのはいけない事だと爺ちゃんから教わったからな。
最終的にどんなヤツなのかは俺がこの目で見定める!
「なぁ、ちょっといい────」
「え!? は? 死んだ? いやー斜辺23°先生、それは無いわー! 何で今巻で初登場のネームドキャラで重要そうなポジションだった子が死ぬんすかね? 俺が読んでるのって三巻だよな……うん、三巻だ。三巻までに何人死んだ? 十四人、死んだ……いや、そこまで死んでねぇけど驚きの大きさで言ったらそのくらい死んでてもおかしくないよな? つーか新刊だったからこのシリーズ買い始めたけどそこそこ救いが無いよぉ!? ……で、なんすか?」
「────か…………ってビックリした! ずっと一人で喋ってたから聞こえてないかと思ったわ」
それも俺が言い終わる前に首だけをこっちに回してきたから余計に怖かったのはここだけの話だ。
「初対面っすよね? 俺に何か用件でもありまして?」
「噂を確かめに来た!」
「噂っすか? それは俺にまつわるモンっすか?」
コイツは噂について知らないらしい。まぁそもそも意味不明なモンだしな。知らなくても悪影響は無いし。
「まぁそんな所だ。あ、俺まだ名前言ってなかったわ。俺は克也、瀬田克也ね……ってか何読んでのその本」
「んぁ、コレっすか? 『終わりなき戦場の果てに』ってタイトルのライトノベル。あんま人に薦められん内容っすけど……読む?」
「俺そういうの読んだこと無いからなぁ……試しに読んでみよっかな。てかそんなよそよそしくしなくてもタメで話していいぜ?」
「あ、そう? んじゃ克也よろしく。はいこれ『おわはて』の一巻〜三巻ね。布教用だから返さんでええよ」
「布教用とは……?」
思えばそん時からアイツの『おわはて』キチの片鱗が見え隠れしていたとしみじみ思う。
『おい見ろよ克也。最新刊でのウツレイの尊さを! 悶え死ね』
『情緒どうなってんだよ。後ネタバレすんな殺す』
俺が『おわはて』にすっかりハマった頃には毎回ネタバレされてたり。
『鈴が……鈴の過去が…………重いッ!?』
『せやな』
『おい何でそんなお前はそんなテキトーな返事なんだよ最推しだろ?』
『────重い過去がある鈴もアリかなって』
『きっっっしょ!? 死ね!』
アイツの最推しに対しての歪んだ愛が生まれかけたりもしてたなぁ。
『なぁ、彼女に殺されかけたわ』
『彼女いない俺にその話する? 処すぞ? ワイ処しちゃうぞ?』
『まぁ聞けよ。彼女が言うには覚の例の発言について問い質されて往復ビンタ喰らって死にかけたんだわ』
『ほう、それはまた可哀想な』
『告げ口したのお前だろ』
『ハッ! ざまぁみろ』
『ラリアットか腹パン、どっちか選べ』
アイツの所為で殺されかけたりもした。それに関しては俺も悪いとは思ってるけど……いや、俺の彼女に報告したアイツが絶対悪いわ。許さん。
「つっても……もう文句言うには随分遠くに行っちまってよぉ」
アイツが電車との接触事故を起こしたと聞いた時は頭が真っ白になった。
何でアイツが? とは思ったが、アイツの不注意が原因なのと日付を確認して納得してしまった。
その日は今や大人気コンテンツとなっている『おわはて』のスマホアプリのリリース日だった。
俺の見立ては恐らく頭が『おわはて』に支配されすぎてそれ以外の情報をシャットアウトした、してしまった。そして結果、踏み切り内にいる事すら気付かなかったという現実じゃあ考えられないが、以前『おわはて』シリーズの外伝作品を読破した後同じような状態を目にした事のある俺からしてみれば十分に考えられてしまうんだよなぁこれが。
悔やんでも悔やみきれないが起こってしまったことに関しては仕方ないと割り切ろう。
どうせアイツなら天国にしろ地獄にしろ意外とのんびり過ごしてそうだな。
「もしかしたらあまりにも『おわはて』シリーズが好きすぎるがあまり『おわはて』のどっかの時間軸に転生とか」
それこそスマホアプリ主人公みたいに数々の悲劇を回避したり……とか?
一瞬巫山戯た考えが浮かんだがすぐに雲散霧消した。流石に荒唐無稽すぎたな。
「まぁ来世では幸せに暮らせよってか?」
それはそれとして告げ口の件はお前が死んでも恨んでるからな!
***
「くちゅん!」
「くすちゃんのくしゃみ可愛いね〜」
「か、からかわないでください……恥ずかしいです」
誰だよ俺のこと噂したやつ許さん。ラリアットか腹パン、どっちか喰らわせないとスッキリしない気がする。
ラリアットとかで思い出したけど元気にしてっかなアイツ。
ぶっちゃけ一番最初は興味なんて無かった。勝手に俺のパーソナルスペース詰めてくるし、タメ口で話せとかコミュ力と距離間の詰め方が異常なヤツって感じ。
でも、俺が出会ってきた人の中ではかなり良い奴だった。物事に挑戦する姿勢やその努力する姿は此方も見ていて爽快な気分にさせてくれた。
勝手に死んじまった事については本当に申し訳ないと思っているがアイツはあの世界で幸せな日常を送って欲しいモノだ。
「くすちゃん早く行こ〜!」
「分かりました。では、行きましょうか」
俺はこの世界では幸せに生きられるかな?
【当たり前だろ、お前にはその権利がある! ってね】
え? 今……克也?
(オロチ、何か言った?)
『いや何も? どうしたのまた?』
じゃあ気の所為か……?
でも何故かちょっとだけ安心したように感じたのが不思議な感覚だった。
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