第20話 最強=最強

 神獣擬きこと【厄】の騒動が一段落着き、俺は今お父様に連れられて組織の基部を担っている場所へ来ていた。

 あの病院での騒動後、しばらく入院をした。言わなくても理解しているが十中八九、能力を酷使した結果だろう。それはオロチにも言われた課題として受け止める他ないけど。入院中毎日お見舞いに来てくれたさとちゃん達の健気な姿に何度昇天しかけたことか……それもこれもオロチって奴が悪いんだ。

 しかし、それは一先ず置いといて、俺はそろそろお父様に言いたいことがある。


「————あ、あの……お父様? そろそろ横抱きをやめて欲しいのですが」


 何故俺は横抱きお姫様抱っこをされているのか、だ。

 周りの人たちのぽかぽかする視線を向けられて正直むず痒い気持ちでいっぱいだ。早急にやめていただきたい。

 普通におててつないで行こうよ……あんまり気にはしてなかったが前世を含めるとアラサーなんだよな、俺。見た目小学四年生、中身はアラサー一般男性とか詐欺もいいところだ。


「ならん」

「お父様?」

「俺はもっと来栖音を大切にすることに気付いたからな。それに、悔しいがに散々口うるさく正論を突き付けられたというのもある」

「お父様……」


 ごめんなさいお父様。しんみりしているところ恐縮ですが俺今そんなシリアスな気分じゃない。後『あの女』って絶対紫蓮アラタさんだよね。これでもかってくらい嫌そうな顔して言ってたから流石に分かるよ。普段から仏頂面なお父様だけど紫蓮アラタさんの事になると分かりやすいなあ。



「それに推定とは言え神獣に迫る敵性生物をくだしたんだ。来栖音ならやってくれると信じていたが…………親が子を心配しては駄目か?」



 お父様がぼそりと告げた。その顔は誰が見ても娘を憂慮ゆうりょする父の表情かおだった。

 その言葉は俺にとって――――、


「そ、そんなことはないですよ! お父様が私を信じてくれたおかげで勝てたんです。お父様、ご心配おかけしました」

「来栖音……!」

「本当に……申し訳ありませんッ!」

「謝らなくていい。来栖音は無事に俺たちの元へ帰って来れたんだ。親としてこれ以上嬉しいことはない……良く帰ってきてくれた、来栖音」

「お父様!」


 ―———俺は今になって自身に向けられていた想いのベクトルの重要さに気付いた。

 あぁ、何やってたんだよ俺。俺からしてみれば確かに『神変闘化』という今の段階では過剰といえるモノ武器があったからこそ【厄】に対して打倒出来た。だがそんなモノなど一切教えてなかったお父様やお母様は此度の一件についてどう思ったかなんて考えるまでもない。

 俺が危険な目に遭って心配だった筈だ、俺が死んでしまうのではないかと怖かった筈だ。だけど、そんな重大なことを一通り知ったような気でいた俺に反吐が出る。

 自覚しただろ。俺は、俺が生きている場所は現実で、の人の運命が定められた偽物なんかじゃないと。

 それなのに何だあの体たらくは。【厄】に絶対勝てるという訳ではなかったのに、あの無鉄砲さは論外の一言でしかない。

 親に心配をかけてしまった自分自身に嫌気が差すし、こんな事をしてしまったのに怒りもせず、笑って此方へと語りかけてくれるお父様に俺自身の情けなさに拍車をかけた。


「来栖音はよく頑張ったな。此度の偉業は八坂家の人間としても、俺と緋紗音としても我が事の様に誇りに思う。さぁ、湿っぽい話はここで終わりにしておこう。この扉を開ければ目的の場所だ」

「この先が……分かりました。お父様、ありがとうございます」

「全く……もういいと言ったんだがな…………ハッ!? もしやこれが……これが反抗期というものかッ!」

「あ、はい。開けますね」


 ……一瞬でもカッコイイと感じた気持ちを取らないで欲しかった。って思ったけどこれがお父様なりの気遣いなのだろう。決して親バカの暴走じゃない。きっとそうだ、多分、メイビー。


「——随分と遅いじゃない。そんなだからアンタは愚鈍でノロマで愚劣で愚昧な馬鹿なのよ。にそれが感染うつる前にウチが即刻殺菌してあげる。御代は必要ないわ。ウチが今からでもアンタに代わってヒサを娶ってあげるから」

「会って早々なに妄言垂らしてんだクソアマ。テメーはあの時に決闘をして俺に負けた……ゴホン、それなのに未だ引き摺ってるのか。いい加減に現実を見たらどうだ? テメーもしかしてアレか? まだ俺が薦めた精神科行ってないのか……すまない。もうそこまで手の施しようがない程悪化していたのか」

「なによ!?」

「あぁ!?」


 かつてないほどお父様の口調が崩壊してる……それに『クソアマ』ってことはこの女の人が――――、


「お二人さーん? 久々の再会だからって少々はしゃぎすぎだヨ? ちょっと落ち着こうヨ」

夏科なつしなの言う通りだわ。八坂と紫蓮も会う度に喧嘩腰になるのをいつも止めてと言ってるでしょう。私の負担になる行動をしないでくれる?」

「それは済まないと思っている。だがな、みづ――すめらぎも見ただろう。俺ではなく始めに突っかかってくるのはあっちだ。寧ろ俺は被害者側の人間だ」

「喧嘩両成敗なんじゃないかナ? それにアラタっちとの会話ノリノリだった人のセリフじゃないヨ」

「俺がクソアマとそのように話してるように見えていたんなら夏科には眼科検診をお薦めする」

「そこまで言っちゃうノ? ほんとお二人さんの関係はいみふー意味不明だヨ」

「あ、あの……」


 会話をぶった切るようで少し忍びないがお父様含めて俺がいる事を忘れていそうなので声を上げてしまった。


「あ、忘れてた忘れてた……今日集まったのは確かヤマトっちの子供の話だったよネ!」

「そうだ……来て早々、クソアマに絡まれた所為で言い出せなかったがその為に来た。あとヤマトっちはやめろ」

「今ウチが悪いって言った?」

「そうと言ったつもりは無いが…………あぁそうか、自覚しているからそう捉えるのか」

「滅してやる」

「————八坂、紫蓮?」

「ッ!?」


 大型トラックが俺に落ちてきたのかと感じるほどの重さがこの空間を支配した。あの【厄】なんかと比べること自体が烏滸がましいとプレッシャーで理解させられた。

 こ、これ、が……の圧ッ!?


「流石に悪ふざけが過ぎたな。ソレ威嚇を解いてくれ。来栖音には耐えられん」

「いーやもう手遅れじゃないかナ?」

「あっ」

「…………私は悪くないわ」

「まあまあ、それでもいんじゃなイ? ヤマトっちの子供いなくても話はできるしネ」

「はぁ……おいクソアマ。あの時の状況を話せ」

「アンタに言われるまでもないから黙って」


 こうして俺のいないまま話が始まったと目覚めた後お父様から聞いた。

 顔合わせは出来たが全員の紹介が出来なかったのでまた日を改めて行くと言われた俺は顔と特徴は覚えたので説明だけでいいと必死に説得した。誰があんな魔境に行くもんか!

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