第16話 時間経過=親バカ

「————ッ!?」

「ほう、腕を上げたな来栖音。今のを躱すか」

「ありがとう……ござい、ますッ!」


 相変わらず容赦無くて恐ろしい。昔だったら反応もできずに喰らってたと思うと自分が如何に成長したかが実感できる。まあそんな実感してる余裕なんて今は無いけど。


 ショタ野郎を制御する努力を始めて早5年。無事小学校に入学したのも束の間、特に変わらずに鍛錬をしている。宿題とかは秒で終わるので自分を鍛える時間が少し減ったくらいだ。

 後3年もしない内に組織からがあると思うのでそれまでは変わらない生活が続くだろう。


「稽古を付けた当初に比べてこんなにも成長が速いのは少し予想外だな」

「お世辞として受け取っておきます」

「そう謙遜するな。身内贔屓もあるかも知れないが同世代と比較すればその実力は一目瞭然だぞ?」

「一撃も当ててない人に言われても実感が湧きません」


 俺がそう言うとお父様は「それもそうか」と、意地悪く笑った。作中で猛者に食い込ん出る疑惑がある人だから仕方無いとはいえ、5年経っても攻撃を悉く躱し続けられると自己評価も自ずと下がるもんだ。


「鎖鎌を得物として扱ってる知り合い曰く『アレは斬るための武器じゃない! 投げたり振り回したりする武器なんだからね!』と言っていたが……正直、来栖音の扱いたいように扱うのが一番合っていると思うぞ」

「扱いたいよう……扱う、ですか」

「なにせ娘だ。俺もこの戦い方は誰の教えもなく言ってしまえば独学だったからな。実をいうとな、来栖音も今度会うことなるだろうが【十傑姫ヒロインズ】と呼ばれる全グループの頂点に君臨していた一人を紆余曲折あって決闘で倒している」

「ひ、【十傑姫】をですか?」


 知ってたけど一応初めて聞いたように装っておく。あ、そうだ。この際戦った理由を知りたいから聞いてみるか……なんか会うとか聞こえたけど今はスルーしよう。


「何故決闘を?」

「む? あまり過去の栄光など話したくないんだがな、特別だ。当時【十傑姫】の序列四位だったクソアm…………『冀望きぼうの紅帝』所属の紫蓮しれんアラタと本気で決闘をした……来栖音の母を賭けてな」

「お、お母様を!?」


 これには声を大にして驚く外無かった。まさか俺の誕生秘話にそんなイベントがあったなんて……ってちょっと待て。

 まず『冀望の紅帝』に所属していた紫蓮アラタ。これはまあ知ってる。『おわはて』にも登場するから分かる。けどお母様? お母様が何で紫蓮アラタに執着される程親密な関わりなんですかねぇ?

 それにお父様? 何で彼女の事一瞬「クソアマ」って言いかけたんですか? さっきからずっと苦虫を噛み潰したような顔してるのってそんなに彼女に対して嫌な思い出が溢れてるの? 怖いよもう。


「そうなった原因は来栖音が生まれる七年前、俺は『疑似侵攻防衛戦線NIF』と呼んでいるがそれの最中に起こった」

「ぎ、『疑似侵攻防衛戦線』……初めて聞きました」


 マジ知らん、なにそれ怖。ついでに当たり前のように異形共の戦いに身を投じてることにはそういうものだと割り切ることにした。だってそこに疑問を抱いてしまったら『おわはて』の世界観自体が崩壊しちゃうからさ……うん、気にしない気にしない。


「それはそうだ。今でも組織の根幹を担う奴らしか知り得ない極秘情報だからな」

「え?」

「当然だが緋紗音ひさね———来栖音の母もこのことは知らない」

「お父様?」

「フッ、これで共犯だな」

「お父様!?」


 やってくれたなこの人!? 何故勝手に組織の機密喋っちゃってるんですかね!? そしてなに満足気に笑ってんだろうお父様。完全にバレたらお父様の立場が危ぶまれるのは必至なのに。


「まあ組織の極秘情報について今は置いておく。『疑似侵攻防衛戦線』が起こった時期に幾つものグループが協力してなんとか危機を収束させたんだがその時期に、な。緋紗音と一生を共にすることを誓ったんだ」

「お母様とお父様の出会いは随分大変な時だったんですね」

「あぁ。本当に、な」


 感慨深く、しみじみと何かを噛み締めるかのように呟くように言ったお父様は俺が想像しているよりも遥かに大変そうに感じた。


「————さて、過去を語るのもこれくらいにして。来栖音、学校は充実してるか?」

「学校ですか? ええっと……楽しいです」


 小学生になってもさとちゃん達とは相変わらず仲良しだ。小学生時代は特にこれと言って『おわまえ』や『おわはて』に関わるようなイベントは無かった。平和って幸せだ。こんな日常がずっと続けばいいのに、ダメですか? ダメですか……許さんぞ斜辺23総ての元凶°め。

 が出てくるのは中学一年生からだしなぁ……それまでは日常生活かけがえのないことを謳歌したり、百合尊死したり、オロチを…………大変だな。


『ねぇ、なんかすんごい背中がヒヤッとしたんだけど……僕たちで怖いことしないでね?』

(…………)

『なんか言って欲しいな!?』

(オロチには背中なんてないでしょ?)

『正論だけど言葉の綾って知ってる?』

(……………………)

『あ、これはなに? とっとと帰れってこと? 話すことは無いからどっか行けってこと? この宿主ホントに酷いな……』


 五年経った今でもショタ野郎はこんな感じに勘が鋭い。俺がこうやって何も言わなくても意図を汲み取ってくれるまでコミュニケーションができるようになった。

 え? 扱いがかわいそう? そんな君達に教えてあげようこの言葉、『よそはよそうちはうち』ってね!


「それは何よりだ。クラスには男子が居たか…………よし。覚悟を決めろ、俺……来栖音。来栖音はクラスに気になる子は居るのか?」

「気になる……とは?」


 唐突なお父様の雰囲気の移り変わりについて行けないが……気になる、って言うと好きな人って事か?


「もし気になる奴が居るなら俺の所に連れて来てくれ。俺が斬り捨てッ……様子を観察したいからな」

「(様子を観察……?)連れてくるも何もお父様は以前から会っていますよ?」

「なん……だとッ!?」


 何故かその場に四つん這いになりまるでFXで有り金が全て溶け、絶望しているかのようだがどうしたのだろうか? 俺はさとちゃんの事を言っているんだが……誰かと勘違いしてそうだな。

 ……そうだ、日頃の反撃も込めて誤解したまま放っておこう。そっちの方が俺にとって面白いからね。


「そう言えばお父様に伝えておくことがありました」

「…………な、何だ?」

「来週から二泊三日の校外学習に行ってきますね」

「(二泊三日の泊まり込みだと? つ、つまり来栖音が……俺の愛してやまない娘である来栖音が間接的にだが男と寝ると言うのか?)そ、そうか。行かないと言う選択肢は無いか?」

「え? ありませんよ、そんな事。どうしましたかお父様? とても顔色が青白くなっていますが……?」


 途轍もない勘違いがお父様の胸中で発生してる気がするが些細な事だ。

 ちなみに既に準備は済ませている。いつも学校の準備が完了してから修行や稽古をしているように心掛けているからだが行かないなんて以ての外だし、お父様には申し訳ない……って何で俺が謝ってんだよ。何も悪いことしてない……よな?


「あぁ……来栖音がどんどん遠くに離れて行く。待ってくれ、来栖音…………」

「お父様ー? 私はここにいますよー?」


 その後、お父様はお母様から誤解だと伝えられ、俺はお父様を揶揄った罰として次の日の稽古がとってもスパルタになったとさ。いや、お父様が勝手に勘違いしただけなのにこの始末な事にめっちゃ異議を唱えたくなるが我慢した。

 お父様って俺の事になるとIQが一気に低下するんだなぁ。 

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