第15話 制御=面影

 夏休みを充分満喫した俺ではあるがなかなか前世では経験し得ない事があったな。


 前世では有り得なかった鍛錬やお父様の武術稽古。またショタ野郎ことオロチとの出会い。あ、あと極太レーザー。


『またレーザーの事考えてる……』


 うるさい、地の文に介入してくるな。念話で話してもないのに急に語り掛けてくるとか友達居ないだろこのショタ野郎。


『今そこはかとなく……いや、絶対バカにしたよね?』

(なんの事ですか、オロチ。宿主に逆らうな、捥ぐよ?)

『情緒不安定で怖いよ!? 前半と後半で文が噛み合ってなくない!?』


 ホントにうるさいショタ野郎だ。


『とにかく来栖音がどうして過去の僕たちとの出会いの思い出に耽っているの?』

(自意識過剰ですか? とっとと『奈落の頂』にお帰りくださいませ、オロチ)

『何もそこまで言う必要無くない!?』

(そんな事は、どうでもいいでしょ)

『酷い!』


 本当にどうでもいいと思ってるから仕方ないだろ。

 今から俺がやろうとしている事はショタ野郎が協力してくれないと始まらないのだから。


(ということで、オロチ。一つ提案があるの)

『何が『ということで』なのかは敢えてツッコまないでおくとして……聞こうか、来栖音』


 瞬間、オロチから感じる雰囲気がガラリと変わる。


『僕たちの力、ね。それは何の為に?』

(さとちゃん達の為)

『即答だね。でもいいの? 自分の為に僕たちの力を行使しなくても?』


 はぁ? このショタ野郎、自分の為って言ったか?


(…………ともだちを捨てて自分の為にオロチの力を使うくらいなら血反吐を吐いてくたばった方がマシ)


 オロチの力を自分の為だけに使ってさとちゃん達には使わずにさとちゃん達が死んでしまったら俺は自分の首掻き切って自害するぞ。

 そんな後悔は絶対にしたくないから。


『ッ! ────はぁ、そんな所までに似なくてもいいのにさ』

(……オロチ?)

『なんでもないよ? 参ったなあ。最初は聞くだけ聞いて却下しようと思ったんだけどさ。そこまでの覚悟なら僕たちも俄然、力の制御に協力してみたくなったよ』

(オロチ……!)


 いっつもそのくらいまともな感じ出してたらいいんだけど。


『でも僕たちの力を制御するには一朝一夕いっちょういっせきなんて短い期間では無理だからね?』

(当然。覚悟してるよ)

『確認だけど、本当に来栖音はやるんだね?』

(何回も言わせないで。時間は有限なんだから早くやるよ)

『分かったって。そんなに急かさなくても僕たちは来栖音に手を貸すよ。あ、これは比喩的な表現で僕たちには手なんてないけどね!』

(死んで?)

『こっわ!? わ、悪かったって。真面目にやるからそんなゴミを見たような顔をしないでよ!』


 悪いのはくだらないことを言ったショタ野郎なんだからこれくらいの対応はしていいだろ。むしろ手を出さなかっただけ優しい方でしょ。うん、きっとそうだ。俺は優しいんだ。


(フフッ、私は可愛くて優しい美少女だから許してあげる)

『……? 腹黒で性格の悪いの間違えじゃないの?』

(なにかいった?)

『さあまずは僕たちを制御するための基本の「キ」からやっていこうか!』


 おいこのショタ野郎絶対余計なこと言っただろ。そんなんだからお前はショタ野郎なんだよ。

 露骨なまでに話題を逸らされたが、オロチを制御する基本を早くやりたいのも事実だ。


『じゃあ始めようか。僕たちの力を制御するっていうのは人並外れた精神力が鍵になってくるんだ』

(精神力?)

『詳しく言うと僕たちの力に呑まれないで確固たる意志を貫ける力を精神力って言ってるかな』


 とどのつまり俺が俺で在ろうとする胆力みたいな感じか? 誰も揺らがすことの無い思いみたいなものか。

 言ってることは理解できたがそれってぶっちゃけると根性論では?


(それだけ? ただそれだけの事でオロチを制御できるの?)

『それだけって言っても来栖音のご先祖様たちはこれができないから僕たちも力を貸すことに協力できなかったし、何より彼処『奈落の頂』に来ることすら叶わなかったんだから来栖音はもう少し自分への過小評価を改めた方がいいよ?』

(ご先祖様はできなかったの?)

『むしろ来栖音と以外に僕たちのいる所まで辿り着いた者はいないよ?』

(…………え?)


 衝撃の新事実。だが、思い返せば納得できる所ではある。

 『おわはて』作中でオロチ――八岐大蛇の情報なんて欠片も出てこなかった。

 しかし、俺が出来なかった『おわはて』の完全新作スマホゲームでは既存のストーリーだけではなく過去に登場したキャラクターのオリジナルストーリーを斜辺23°先生自らが書き下ろした話がある。

 もしかしたらそのゲーム内で登場するキャラクターなんじゃないか? そしてオロチの言っているあの子――――名前も知らない初代様と俺が他のご先祖様には無い特別なモノがあるから彼処に来れなかったのだと考えたのだ。

 じゃあ俺が出来なかったゲームでは初代様の正式な名前が登場するってことか?


(————分かった)

『え? 何が?』

(私が【さいつよ美少女】になる)

『あの、話の脈絡って知ってる?』

(大丈夫、大丈夫。まだ時間は沢山ある)

『もぉまた始まったよ来栖音の意味不明なターンが! 誰か助けて欲しいんだけど』

(私でよければ)

『助けを求めるハメになった元凶に助けてもらうのは本末転倒だよ!』

(…………? 何言ってるのオロチ。私はオロチに迷惑なんて掛けてないけど)

『然も突然おかしくなった奴に向ける顔をしないで? もう次の段階に話を持っていく気力も無くなっちゃったよ。今日のところは精神力の話をしておしまいね』


 そう言ったショタ野郎の意識が遠のく感覚がした。マジで寝たな。

 それにしても精神力か。こう言ってはなんだが随分とお粗末な説明だったな。


「来栖音、朝食出来てるぞ」

「分かりました。おはようございます、お父様」


 『おわはて』の前日譚の『おわまえ』まで十年を切っている。


 最悪な終わりを回避する為の時間は刻一刻と迫ってきている。

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