第14話 茶番=呼び方

 目が覚めるとショタ野郎の言う通り、朝日が昇っていた。


「オロチ、反応してくれる?」

『──なんだい? 八坂来栖音』

「フルネームで呼ぶの大変だと思う」

『? なにが言いたいの?』

「呼び方を変えて欲しい」


 フルネームで呼ばれるのは新鮮だが如何せん他人行儀な気がする。心の中でショタ野郎と呼んで蔑んでいる俺が言うのもなんだけどな。むしろショタ野郎の方が親近感が湧かないか?


「私は今後ショタ野郎と呼ぶからショタ野郎は私のこと来栖音って呼んで」

『ショタ野郎が何なのか分からないけどすっごい腹立つ言葉っていうのは本能で理解したよ? 今まで通りオロチでいいよ』


 じゃあ今後ともよろしくだな、オロチ。


『それで何? ただ僕たちを呼んだってワケではないんでしょ?』

「こうやって私が一人で喋るの少し危ない人だと勘違いされそうだから念話で意思疎通が出来るようにしてほしい」

『なーんだそんなことか。僕たちがどうにかするまでもないね。僕たちと念話で話すのは心で会話しようと思ったら出来るものだからさ』

「なるほど……試してみていい?」

『いんじゃない? 減るもんじゃないし』


 心で会話か……心って何だ?

 …………よし、この間の組み分けの時みたいに叫んでみるか。


(あぁああぁああぁあああぁあぁあ!)

『うるっさ!? 止めて止めて! 減るもんじゃないとか言ってるんじゃなかった! 余裕で僕たちの鼓膜の予備が減りそうになるよ!?』


 どうやら無事犠牲を出しながらも成功したようだ。結構慣れない感覚だったな。

 例えるならサッカーやテニスといった試合のイメージトレーニングを言語化しようとするみたいな感じだ。


(いんじゃないって言ったのオロチだよ?)

『限度って知ってる?』


 限度? 知らんな。非常識君がおいしく食べたんだろ。

 ショタ野郎の姿は見えないが、どことなくジト目で睨んでくる幻影が見えた。ごめんて。


(? そういうのいいから)

『え? なにこれ僕たちが悪いの? 何でわかんないフリするの? ねぇ、何でダルそうな顔するの?…………ていうか、念話の為だけに僕たちを呼んだの?』

(質問は一つにして、めんどくさいから)

『うっわーこの宿主、身内にはとことん厚顔無恥こうがんむちになるタイプの人間だ……』


 失礼なショタだな。俺は気心きごころの知れた相手には心の壁を無くして会話しているだけに過ぎないぞ。どう考えてもパーフェクトコミュニケーションここに極まれりだろ。


(そんな顔しないでいいから…………とっとと帰っていいよ)

『厚かましい上にクソボケだこの宿主!?』


 失礼なショタだな。俺は気心の知れた相手にはありがたくも優しい気遣いをしてやってるだけに過ぎないぞ。どう考えてもパーフェクトヒューマンここに極まれりだろ。


『なんかさっきからどんどん来栖音の印象が最底辺に近づいて行ってる気がするぞ?』

(何故? これほどまでに能力が備わってる人間なんて中々いないのに)

『ねぇ待って、お願いだから来栖音のキャラでクズキャラで売っていかないで!? なんかこれ以上来栖音がそのまま発言しちゃうと、絶対に良くないって僕たちの長年お世話になってきた直感が囁いてるから』

(分かった!)


 ホントに分かってるのかな……とショタ野郎は不安を口にしているがその不安、的中しているぞ。


 分からない事でも一旦元気に相槌打ってれば相手にも伝わるってどっかの本で読んだからな。


『じゃあ、言われたとおりに僕たちは『奈落の頂』に意識を戻すとするよ』

(二度と出てこないでいいよ)

『え?』

(嘘だよ?)

『嘘にしては今の声のトーンとか雰囲気本気じゃなかった?』


 ブツブツ言いながら俺の深層心理へ戻っていくショタ野郎。言う訳ないだろ。全く、失礼するな。

 ……いや流石に考えてないよ?


「何故か今日はしっかり寝たはずなのに若干の疲れを感じるのは……やはりオロチとの会話が原因ですね」


 あのショタ野郎……俺がゆっくり休んで回復するはずだった睡眠時間を返せよ。


 あぁ、ショタ野郎の『僕たちのせいじゃないよね!?』のツッコミが心の奥底から響き渡っている……ような気がする。うん、あくまでもってだけだ。


「さて、今日も頑張りますか……あ」


 そういえば昨日ヒカリが朝から来るとか言ってたな…………やっぱもうひと眠りしよう。この疲労感のままヒカリたちと会うとほぼほぼダウンすると自負できる。


「おやすみなさい、私。二時間後にまた会いまし————」

「くーちゃん! ヒカリちゃんとエイちゃんがやって来たわよ! 起きてお出迎えして!」


 あぁぁぁああぁあぁあぁぁぁあ!?


 最悪のタイミングで来ちゃったよヒカリとエイが!

 お願いしますお母様! 俺が今、寝ている事を伝えて欲しい!


「もう少し寝かせて…………」

「分かったわ! ヒカリちゃんたちをくーちゃんの部屋に招待すればいいのね!」


 あぁぁぁああぁあぁあぁぁぁあ!?(二回目)

 そうだった! お母様って俺が絡むとIQ超低化するんだった!


 お母様は言うや否や、瞬間移動並の速さで家中を駆け回り、三十秒もしない内にヒカリとエイがやってきた。


 あー、終わった。はい、終わった。もう、終わった。(三段活用)


「おはようクスネ! とても良い朝ね! 眠そうなクスネはとっても珍しいわ!」

「来栖音サンって寝てる時もソレアイマスク着けてるんですね。意外と睡眠効果があったりするんですか?」

「お、おはようございます……ヒカリ、エイ」


 二人は興味津々といった様子で俺に詰め寄って来る。

 行動パターンがそっくりだな、姉妹かよ。あ、姉妹だったか……ってそんな事言うとる場合か。


 仕方ない、寝ることを諦めよう。


 この後のさとちゃんも来る事を考えながら今日は絶対に心行くまで寝てやるんだとウザったいショタ野郎のにやけ面を思い返しながら俺は気合を入れた。


『だから僕たち関係なくない!?』


 うるさいな、お前は寝てろ。

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