第13話 過去=ツッコミ役

『──僕たちが『八坂家』と共存しているのには過去の出来事が起因している』

「過去の出来事ですか?」


 となるとやっぱりアレか? 『FIF』編でちょろっと話題になってた当時の『八坂家』当主の話か?


『うん。今じゃ『第一次侵攻防衛戦線』なんて呼ばれてるやつだね』

「まさかあの出来事からなんですか……」


 ショタ野郎が言った『第一次侵攻防衛戦線』は『おわはて』でも鍵となってくる重要な事柄の一つでファンから『FIF』編と呼ばれるストーリーだ。


 その内容は『おわはて』本編から約二百年前の過去の【十傑姫ヒロインズ】達のはじまりのはなしだ。これが無いと『おわはて』を語るに語れないとまで言われているレベルになるだろう。だろうって言うか確信する。絶対だよ絶対!


 俺自身もこの世界の歴史を勉強をした上でこれ『FIF』は出てきた。が、ある程度事実と記された内容に齟齬があった。


『僕たち結構そこで大活躍したんだよ? こうびゅーんってやってびかーんてしてどーん! って感じでさ』

「何一つ分からない」


 説明する時に擬音を使うな。これ鉄則だから。


『…………頑張ってもあの子は救えなかったけどね』

「? 何か言った?」

『いんや、別に。…………とにかくさ、僕たちはその時から『八坂家』と共に在ったってワケ?』

「…………ソレが初代『八坂家』当主とオロチの交わした【】だから?」

『────ん? なにかな?』


 実は『おわはて』上の神性を持った生物は何かしらの【契約】を人類と交わしているという裏設定がある。


 それが誰であれこのショタ野郎にも【契約】相手がいる筈なのだから消去法的に二百年前の当主────初代様という読みをして言ってみた訳だがどうやら図星だったみたいだな。


 これ以上踏み込んでくるなとショタ野郎の笑顔の裏に隠された凶暴性が警告を促してきたので俺はこの話題から引くことにした。引き際は大事だからな。ふっつーにあの顔怖すぎるし。


「いえ、今の反応で色々と察せました」

『────あぁ、そうかい。深掘りしないで正解正解。思わぬ落とし穴に落っこちちゃう所だったよ? 僕たちと八坂来栖音の関係性をこんなつまらない事で壊したくなんてないでしょ?』

「そうですね、お互いの為に」


 緊張しないで噛まずに言ったのが功を奏したな。めちゃくちゃ早口で言った気がしなくもないけど、ヨシ!


『あー……えっと、どこまで話したっけ? あ、そうそう。言い忘れてたことがあったんだった』

「またとんでもないこと言わないでくださいね?」

『大丈夫だよ。だって僕たちを宿す事によって異能が使えなくなる可能性があるだけだから』

「…………いや全然大丈夫じゃない情報なんですが!?」


 え? このショタ野郎のせいで『おわはて』独自の異能が使えないって?


 ………………はぁ!?


 何してくれてんのリアルガチで?

 ホントに余計な事してくれたなこのショタ野郎。お願いだからくだばり申し上げます、そして死ね。


『もーそんな叫ばないの。言ったでしょ? 代償があるって』

「それとこれとは話が変わります!」

『だから僕たちが力を貸すから大丈夫って言ってるじゃん』

「ぬぐぐ……でもッ!」


 だって『おわはて』の異能と言ったらファン誰もが想像したことがある「ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく」だろ!?


 それが使えないって? 今どき無能力者モノなんて流行らない(偏見)のに、どうしてそういう要らん事しちゃうかなこのショタ野郎は!?


「はぁ……終わりです」

『そこまでしてどうして異能のチカラに頼ろうとするのさ』

「ロマンじゃないですか!」

『なにいってんの?』


 このロマンが分からないからお前はショタ野郎のままなんだよ。


 何処かでショタ野郎は関係無いとか聞こえてきたが無視だ無視。ショタコンは土に還れ、甦ってくんな。


「大体オロチには何が出来るのですか!?」

『何が出来るって言われてもなぁ…………八坂来栖音が頑張れば極太レーザー手から出せるんじゃない?』

「オロチ、これからよろしく!」

『なんだこの宿主変わり身はや、うわすっごい笑顔。その笑顔中々無いと思うけどなんかキモイよ?』


 どストレートに罵倒を受けたが今はそんなこと気にしないぞ? 俺は寛容で優しくて皆の人気者(幻覚)だからさ、こんなショタ野郎にも優しくなるぞ?


「私、頑張ります」

『あ、ハイ』

「頑張って超極太レーザーをブッパ出来るようにオロチを制御してみる」

『もうその喋り方がデフォなんでしょ? そっちの方が絶対今の八坂来栖音に合ってるからそうしてみれば?』

「その為に今からでも遅くない。鍛錬しよう」

『話聞いてないなこの宿主。今からでも遅くないな、この宿主返品して綺麗な宿主に変えてもらおうかな』

「申し訳ないけど返品は原則受け付けてません」

『ねぇねぇ話聞いてるのか聞いてないのかどっちなの? もう怖いよこの宿主。初めて話した時と乖離しすぎてある意味コミュニケーションのブロッキングがされちゃってるよ』


 もしやこのショタ野郎掴みどころが無いとか思ってたけど意外と……というか、かなりのツッコミ属性では? なんだ、相性最高だったわ。


「オロチ、これからよろしく」

『あれ何でだろう……さっきと同じ言葉のはずなのにどうしてこんなに胃が痛くなりそうなんだろう……!?』

「私オロチのこと(ツッコミ役として)期待してるから」

『戦力としてだよね!? 僕たちは戦力として期待されてる認識で大丈夫なんだよね!? 待って黙らないで、お願い、ねぇ聞いて?』


 レーザーと言えばやっぱり掌から出すのが一般的だよな。あ、でもここで敢えて腕組んで頭上からだったり胸の前辺りから出す方がロマンあるぞ?


「オロチ。レーザーと言えば胸の辺りから出すのがロマンある?」

『あーレーザーなら僕たちは口から──って何聞いてるの? まだその話続いてた事にびっくらこいたんだけど?』

「口から……ビジュアル的には良い印象は無いけど、参考になりました。ありがとうオロチ…………あれ?」


 なーんか周囲が蜃気楼みたいに霞んできたぞ? これはもしや──、


『え? もう起きる時間なの?』

「オロチとは此処でしか会えないの?」

『面と向かって会話ができるのはここだけなんだけど念話みたいに心の中でならやり取りは可能だよ』

「それは(ツッコミ不在の恐怖が無くなって)良かった」

『今非常に八坂来栖音と念話したいと思わなくなったぞ?』

「とりあえず……、オロチ」

『………………やっぱりあの子の子孫なだけあるね………………うん、またね。八坂来栖音』


 薄れゆく世界の中、はかなげに笑うショタ野郎に何故か「憐憫れんびん」という言葉を思い浮かべた。

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