第11話 正体不明=怒り

 それにしてもグループが結成されるのがこんなに早くなるとは思わなかった。

 それもすんなり名前が決まるのも……まあそれが『回帰日蝕』のメンバーらしいと言えばらしいか。


「グループを結成したのはいいですが……宿題、終わりました?」

「あぁ〜!? やらないとだよ〜!」

「覚サン頑張ってください」

「大丈夫よ! サトリならきっとできるわ!」

「見てないで助けてよ〜!」


 それは無理(無慈悲)だ。

 さとちゃんは頭が悪い訳では決して無い。それどころかこの中だと一番できる子だ。


 では何故夏休みの宿題が終わってないのか、それはやる気の問題だ。何故幼稚園なのに宿題が出てんだよと言った質問は受けつけない。

 この世界はそれが普通なんだよ。自分の常識で物事を推し量ろうとするな、時代は多様性に満ちてるんだぞ?


 …………おほん。少し脱線したので話を戻すが、さとちゃんの嫌な事に対してのモチベーションはかなり低い。どのぐらい低いのかというと、おもちゃコーナーで駄々をこねておもちゃを買ってもらえる可能性ぐらい低い。

 言ってて思ったがこれほぼゼロじゃねえか。


 要するに好きなことには積極的にのめり込むさとちゃんなのだが、好きではないことはとことん無関心な性格という事だな。

 我が道をいってるごーいんぐまいうぇいさとちゃん。通りで前世で大きいお兄ちゃんロリコンどもから人気が出る訳だ。


「くすちゃんも手伝ってよ〜!」

「手伝いたいのは山々なんですがもう時間が差し迫っていますので明日またやりましょう」

「おーもうそんな時間なんですね。今日はありがとうございました。来栖音サンの家、とても快適でしたよ」

「明日もまた行けるのね! お菓子を沢山持ってくるわ!」

「ちょっとヒカねぇ? 明日は覚サンの宿題をやるんですよ。そんなものお菓子持って行ったら覚サンそっちのけでお菓子パーティーが開催しちゃうよ」

「わたしの宿題を手伝って欲しいんだよ〜!?」


 各々帰宅の準備をして続々と部屋から退出していく。俺も玄関まで見送るため付いて行く事にした。

 俺の家は相当広いからな。見た感じさとちゃんの家と同じくらい広いと思う。


 にしても今日も一日長かったな。

 お父様と朝の鍛錬をした後、さとちゃん達と日が沈みかけるまで遊……宿題をやっていたからな。そう、宿題だ。決して服の着せ替えをして遊んでいた訳では無いのだ。


「では皆さま、また明日」

「お邪魔しました〜」

「また明日、朝から来るわ!」

「ヒカねぇ朝起きるの遅いからそんなすぐ来れないよ?」

「気合いと根性で起きて行くわね!」

「そこまでして来栖音サンの家に行きたいの!?」


 俺の家が大層お気に召したようだが全くもって疑問だ。特にヒカリの興味が惹かれるものは無いのになあ?


 無事見送りを果たした俺は幾許いくばくかの達成感に浸りながら玄関を後にした。




 ***




 …………ッ! ここは何処だ?


 確か俺はお風呂と夕飯を済ませて……あれ逆か? 夕飯を食べた後にお風呂を入ったっけ? 今はどっちでもいいわそんなこと。

 そしてそのまま寝て気づいたらこんな所に……ガチで何処だ? 薄暗いし、近くに川流れてるし、なんなら滝あるし。


『──君が僕たちの今代の宿主?』

「……ッ! どなたですか?」


 どこからとなく中性的な声が耳に入った。

 反射で振り返れば壁があった。


「…………壁?」

『あー違う違う。こっちだよ、上見て』

「上……ッ!?」


 うぇえええぇええ!? …………ってやかましいわ。

 そんなアホみたいな事より衝撃的な光景を俺は今、目撃している。


 なんと俺の目に飛び込んできたのは巨大なだ。

 それもただデカい蛇って訳じゃない。

 胴体で七つに枝分かれしているため首が合計で八首あるその風体ふうていに当たり前のように、比喩抜きで蛇に睨まれた蛙状態だ。


『あ、気付いた? 僕たちも四代振りに宿主を『奈落の頂ココ』に呼ぶことが成功したからつい存在力を消費しちゃったよ』

「は、はぁ……」

『あと君面白いね。魂が二つあるけど……どっちが本来の君かな?』

「ッ!? 何のことですか? 言ってる意味が解らないですよ」

『別にごまかさなくていいじゃん。じゃあこうやって聞いた方がいい? ?』


 何だこの化け物!? 完全に俺という存在を捉えている! かなりマズイ状況だがここからどうする?


「あ、あの……」

『あぁ、そういうことね。片方の意識が途絶えていることを見るに、本来の人格は深い意識下で永い睡眠状態に陥ってるね。となると、宿主に移ったが僕たちのパスを繋いだんだね。その子のフリをしているのは罪悪感から来るものかな?』


 ————は?


「…………さっきから聞いてれば何を言っている? 罪悪感? 笑わせんなよ。そもそもお前は何で、急にのこのこ登場したと思ったらすべてを理解したような口ぶりをすんじゃねえよ。しゃしゃんなマジで。いいか? が死んで転生した事を知ったように話すのはいい。どうせ俺自身も滑稽だと思ってるからな。だけどさ……『本来の人格』とか『その子のフリ』? ————ふざけんな! お前みたいなぽっと出の化け物が理解したように八坂来栖音を語るな! 『片方の意識』なんてない! 俺が……が、なんです! そこのところを理解してください!」 


 漸く言えた……俺は八坂来栖音なのだと。今の俺は八坂来栖音に成り代わっているのでは無いと!


 転生した以前の俺だった時には想像もしなかった考え方だ。でもこればっかりは今の俺の魂の叫びだ。


『僕たちに正面から啖呵を切るとはね……それも自分の想いを貫き通す胆力。…………くふ、面白いなぁ? 気に入ったよ、君——いや、八坂来栖音! 君は今までで最高の合格点宿主だ!』

「ふぇ? ごうか、く?」

『これからよろしくね、八坂来栖音!』


 ……………………え?


 化け物に何故かえらく気に入られたけど? 待って待って待って、ごっつ意味わからん。


 ────あ。まぁ、とりあえずやる事といったら一つだな。


「…………せ」

『なになに? 『せ』って何?』

「説明してくださいぃぃぃいいぃ!?」


 この巫山戯た存在を初めから知ることからだ。

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