第10話 夏休み=結成
──あの日からさらに三ヶ月が経った。
夏休みシーズン真っ只中な今日この頃だが、自由に遊べると思ったらそんな事はない。というよりも俺は遊ばない。
考えてみてくれ。俺は今年で前世年齢も含めると二十代後半へと片足を突っ込んでいるのだ。そんな奴が夏休みシーズンを年相応に謳歌するかねぇ?
「さとちゃん、算数のドリルはどこまで終わりました?」
「ど、どど、どうしようくすちゃん!? わたし自由研究やってないよ〜!」
「サトリは甘いわね! ワタシは既に『ジャンケンに必ず勝てる法則』を研究したわ!」
「エイは普通にヒマワリの観察日記ですかね。ヒカねぇにジャンケンを付き合わされてマトモな自由研究が出来ませんでしたけどね」
結論、謳歌しすぎて焼き尽くされそう。
うん、何で? あれれー、おかしいぞ?
お父様にも「来栖音は顔つきがあの時から変化したな」とか成長を感じられるみたいな発言をされたのだがひょっとして全部俺の勘違いだった? だったら俺恥ずかしいよ?
でも事実、夏休み中は遊びに行ってない。何をしていたのかといえばお父様と模擬戦だったり今もこうして俺の家にさとちゃんとヒカリとエイが遊びに来ているだけだ?
あれ? これって遊びに行く判定入ってるか? …………知らないなぁー。さて、話題を変えようか。
近状報告と言ったらいいのか、最近になって俺はようやく
鎖鎌。名前の通り鎖に繋がれている鎌で持ち手側に鎖分銅という重りが付いている。
一見するとマイナーな武器に思われがちだが武道の一種の武芸十八般の一つに分類されている実はひっそりと有名な武術なのだ。
しかしながら何故、俺がこの武器を扱おうとしているのか。
それはただ
昔から漫画やゲーム、アニメでの鎖鎌の戦い方は鎖の部分を振り回しながらの戦法を真っ先に想像するが実は違う。てか現実でやったら危なすぎるでしょそれ。
そうではなく、まずは鎖分銅と呼ばれる場所に注目して欲しい。
鎖分銅とは言ってしまえば持ち手部分の重りだ。ところが、本来の鎖分銅の役割は敵の武器に巻き付けたり、頭蓋骨を遠距離から狙い当てる事が出来る結構便利な部分だ。
無駄な血を流さずに一撃で仕留める……なんか凄いロマン感じない? 感じるよな? 感じろ。
「そうです。鎖鎌はロマンなんですよ」
「おーい、来栖音サン? 急にどうしたんですか?」
「くすちゃんってごく稀にこんなふうに壊れるよね〜」
「あ……すいません。少し考え事を」
「考え事が口に出してしまうのは分からなくはないんですけど『鎖鎌』って単語は物騒過ぎませんか……」
「それでこそクスネよ!」
あーもう長く語り過ぎたせいで声に出しちゃったよ。最近こういうのが多くなってきているからな、しっかりしろよ俺。気抜くととんでもない事を話してしまいそうだからな。
無難な言い訳なんかないかな…………あ、アレがあった。
「いえ、私たちは組織に勤めている名家の娘ですので自然と異形のモノと対峙する時が来ると思うとどんな得物が自分に合っているのだろう……と、思いまして」
その言い訳とは……将来への不安だ!
またいつかの機会で説明をするが『おわはて』────この世界には人類共通の敵が存在している。
そんな敵を殲滅する為にこの世界の一部の少女は敵に対抗できる異能の力を貰える。
どこで? 誰が? というような質問はさっきも言ったが別の時間に語るとしよう。
「それで鎖鎌〜?」
「少なくとも小学生に上がるまでは異能の能力が開花しないのならまだ得物については考えなくてもいいのではないですかね」
「念には念を、ですよ?」
「そんな先のこともクスネは考えているのね…………あ! ならワタシ達四人でグループを作りましょう!」
「お〜! それは良いアイディアかも〜」
「『八坂家』に『二三四家』、そして『姉ヶ崎家』のグループですか……後から入る人が気まづそうなネームバリューですね」
……………………ゑ?
………………え?
…………ん?
……ちょっと一回カメラ止めて。
んー……なんでだ? どうして今俺はこんなに困惑しているんだ?
取り敢えず状況整理をしよう。
俺は今、口を滑らして「鎖鎌」とかいう純粋無垢(笑)な五歳児が絶対に言ってはいけない台詞を言ったのでその言い訳をした。そこまでは理解出来た。
そして何故かそれが「未来を常に考えてて偉いからワタシ達も将来グループになる事決めましょう!」という方向にチェンジしてしまった。ここまではOK…………じゃないよ!?
やっちまった! マジで俺は何やってんだよ!?
三ヶ月前のキメ顔で『この時間、場所、人々、感情……その全てが今俺自身が存在している『現実』なんだ』とかカッコつけて考えてるアホな俺! 今思うと俺何言ってんだよ……キザすぎてキジになりそう。ウッキッキー……ってこれは猿だったよ。
思考が暴走して訳わかんないテンションになってるから落ち着かないと。
「グループの名前はどうするんですか?」
「『
「え〜なら『
「ヒカねぇ、覚サン。ダメですよ?」
もう名前まで考えてる!? どうしよう…………ッなら!
「『
「皆既日食? 月が太陽を隠す現象のことですか?」
「それを文字ったものですよ。『皆既』という単語を一回りして元の場所に戻るという意味の『回帰』にしてみました。月という闇に呑まれても私たちには必ず帰る場所がある…………という意味なのですが」
「なにそれ!? すっごくかっこいいんだよ〜!」
「成程、それで『回帰日蝕』…………悪くないんじゃないですか?」
「そのグループ名、とてもしっくりきたわ!」
「むしろエイもこれ以上の案は出ない気がします」
「じゃあ採用〜! わたしたちは今日から非公式だけど『回帰日蝕』のグループメンバーとして頑張ろう〜!」
『おー!』
…………一応
そうならない為にこの名前は今日から俺への戒めになったんだ。
でもまぁ不思議と、心の重荷が少し軽くなった様な気がした。
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