第9話 再定義=覚悟

「蛇の形……ですか?」

「そうだよ〜。どっちの目にもヘビさんがいるよ〜」

「なんだか不思議だわ!」

「偶然にしてはかなり見分けがつく程整ってますね」

「そうですか……どちらにしろ、これがあるからと言って身体に支障が出るというものはありませんので安心してください」


 ふむ蛇か……って蛇!? なんでよ?

 えぇ、偶然できたわけじゃないの?


「ひかりんとえいーの目と同じみたいだね〜」

「ワタシの目はママからの遺伝よ!」

「エイはパパからの遺伝ですね」

「じゃあくすちゃんも遺伝なのかな〜?」

「祖父母にはまだ会ったことありませんが恐らくこれは遺伝では無いと思います」


 お母様とお父様は少なくとも瞳孔の中に何も映って無かったし更に言えば祖父母の方も見たことない。


 ちなみに言うまでも無いが、さとちゃんがヒカリとエイを『ひかりん』と『えいー』と呼ぶのも、ヒカリとエイの目は遺伝によるものなのは『おわはて』ファン周知の事実なので、知らなかった人は俺が一人一人断罪します。

 これは決定事項です……って誰に言ってるんだ俺。


「でもこうして見ると来栖音サンの目、そこはかとなく神秘的ですね」

「それはえいー達にも言えることだよ〜?」


 激しく同意。君たちみたいなお目目の持ち主が前世の世界にいたら人気者間違いなしだぞ! 


「細かいことは気にしなくていいわ! クスネの目がワタシとエイみたいな目ってコトで今はいいわよね?」

「ヒカねぇざっくりしすぎ……まぁ間違ってないけど。ともかく来栖音サン、本当に身体に異常は見られないんですね?」

「はい、大丈夫ですよ」


 多少不安はあるが今は平気だよー、だからそんなに心配な顔しないでエイ。君のその顔を見る方が俺にとっては精神的ダメージになってるから。


 とはいえ、実際問題これ蛇模様の目は一体何なんだ?

 俺が憑依したことによるイレギュラーが発生したのか?

 それとも元々八坂来栖音というキャラクターに備えられていた設定なのか?


 謎が謎を呼んでいる……ロリコンがロリコンを呼んでいる…………は普通に危ない人達だから交番に行って、どうぞ。


「くすちゃんほんとに大丈夫〜?」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」

「ほんと〜?」

「本当」

「ん〜……じゃあ信じる〜! くすちゃんはわたしに隠し事なんてしないからね〜」


 いや現在進行形で『転生をした』っていう特大な隠し事しちゃっているんですよさとちゃん、ごめんね。あーヤバい、もの凄い罪悪感に苛まれる。


「凄いのねクスネとサトリは! まるでワタシとエイみたいな関係性ね!」

「ちょっとヒカねぇ? 姉妹での関係性を暴露しないで!」

「照れてるのかしら?」

「恥ずかしいの!」


 うっ……これは俺が尊死する! てかもうするね! バイバイ人生、こんにちは楽園エデン! やはり百合最高!


「ふふふ……二人は仲がとてもよろしいのですね」

「モチロンよ! ワタシ達は産まれた時からずっと一緒に生活してきたのよ! お互いの考えていることは何となく分かるの!」

「ちなみにこれは事実ですね。最近になってヒカねぇ今こんなこと考えてるなっていうのがある程度推測可能になってんですよ」

「一心同体ね!」

「だからヒカねぇ事ある毎にくっつかないでっていつも言ってるじゃん! 暑いから!」


 あー! 尊いッ! 死ぬほど尊いッ! すでに一回死んでるけど。

 ヒカリの屈託のない笑顔とエイの嫌々しているけどちょっと頬が弛んでて嬉しさが隠せてないところがもう……ッ俺死ねる!


 唐突な百合展開に俺の脳内が『(死んで)OK!』と、GOサインを出しているがまだ俺は死なんよ? おい理性、このアホ本能を抑えとけ。


「でも良かった〜。くすちゃんも仲良く出来そうだね〜」

「さとちゃんの友達だから当然、私も仲良くできる友達ですよ」

「でも波長が合うか不安だったから〜……」

「そんな事を気にしていたのですか?」


 凄いなさとちゃんは。俺が前世で同じくらいの年齢だった時はそんな事全く気にしてなかったぞ。……あ、そもそも俺幼稚園の時シャイすぎて話しかけてすらなかったな。虚しいな。心が泣いてるな。


「でもでも〜……くすちゃんが楽しそうな顔見れて安心したよ〜!」

「楽しそうな、顔?」

「うん。だってくすちゃん、最近つまらなさそうにしてたから元気になって欲しかったんだ〜」

「そう、ですか……」

「あれ〜? どうしたのくすちゃん?」


 …………バレてたのか。

 まぁそれもそうだよな。かれこれ二年以上一緒にいるからか、お互いに顔を合わせれば変化にも気付くよな。


 情けない話だな。精神年齢では遥かに上を行く俺がまだ小学生にも満たない女の子におもんぱかられているんだから。まったくもって情けない。


「さとちゃん」

「どうしたの〜?」

「ありがとうございます」

「ん〜? 何が〜?」


 俺の心からの感謝に不思議がるさとちゃんを見るとなんだか笑えてくる。あぁ、そうだよな。そういう事だったんだな。


 俺はこの五年間生きてきた中で様々な考え方でこの世界を過ごしてきたが今日の出来事で一つ、分かったことがある。

 俺は今まで、この世界を一つの『作品』の裏話という認識で理解してきていたがそれが違った。


 この時間、場所、人々、感情……その全てが今俺自身が存在している『現実』なんだ。


 俺が「おはよう」と行動すればまた一つ世界未来原作へと進み出し、俺が何もしなくても現実八坂来栖音妄想を置き去りにする。


 とどのつまり、俺は少し浮かれ気味だった訳だ。

 少し自身の想像していた展開とは違った事になったらへそを曲げて。

 そのやるせない思いがさとちゃんに見透かされ、俺の気晴らしという名の友達紹介をしてくれて。


 そんな事で果たしてさとちゃんやヒカリやエイ、そしてまだ見ぬを救えるかっての。


 だからまあ、その為には────、


「いえ、ただ言ってみただけですよ」

「ふ〜ん。どんどんわたしに言ってくれたまえ〜」

「はい。是非そうしますね、さとちゃん」




 ────弱音なんか吐いてられないっつーの!

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